「しょしすいげつ」と申します
私どものような者にもお声がけいただけるなんて恐縮しきりの、はじめましての投稿です。
2021年春、原宏之による『後期近代の哲学』というシリーズの刊行を目指し、本を作って売るという地平にどうにかたどり着いたとてもささやかなひとり出版社です。
以前は海外のプロダクションと共同で自然のドキュメンタリーを制作するチームのアシスタントをしていました。畑違いの自分が本を作ってもいいのかも知れない。そう強く背中を押してくれたもののひとつは、夏葉社の島田潤一郎さんが書かれた『古くてあたらしい仕事』(新潮社)でした。
トランスビューの工藤さん、そして印刷会社へ取引のお願いに上京した日には、アポの時間までファミレスやカフェでガチガチに緊張していたことを思い出します。
実際にお会いした皆さんや版元ドットコム事務局の皆さんの、フェアで的確なアドバイスに感銘を受け、それらに導かれて『後期近代の哲学❶ 後期近代の系譜学』を世に出すことができました。
中村隆之さんが図書新聞のアンケートで重要書とご紹介くださった本書は、図書館に長く置いていただきたい、そんな一冊です。あとがきにあるように、“「後期近代」とはどのような時代であったのか?”との“すこぶる大きく深”い問いに向かい、“19世紀ドイツ思想の巨人ニーチェから20世紀フランスの哲学者ミシェル・フーコーへと継承され発展させられた「系譜学」の方法によりその輪郭を素描する試み”であり、後期近代を特徴づける“市場経済、科学テクノロジー、総商人社会など”の問題系とその由来を概説しています。いち早く関心をもった「人新世」についてのいかにも原らしい導入の骨組は真っ先に、刊行の何年も前に書かれたものでした。
静謐なフレームに、人間の業ともいうべきものや生きる果てしない力を閉じ込めたタンザニア難民のカバー写真は、セバスチャン・サルガド氏に快諾いただき感激した1枚です。
シリーズは当初3巻完結の意欲的な構想だったにもかかわらず、6月に著者が他界。突然の別離に止まった心のねじを巻き直し、他の書き手の企画をいくつか温めながら当面原の仕事を残すことに努めています。
19世紀フランス文学に惹かれ、現代思想、メディア論へと軸足を移し、後年は哲学の教師として生を駆け抜けた原は、芸術に、音楽やファッションにと多様な関心をもち、アカデミックとしての足場からつねに現実の日本、世界を見つめた作家でありました。その仕事は代表作である『バブル文化論』(慶應義塾大学出版会) 、『世直し教養論』(筑摩書房)、ペンネームの葉良沐鳥(はらしずどり)で書かれた『空虚の帝国』(書肆水月) の語り口に生き生きと表れています。
『デリダ伝』(白水社) の翻訳者のひとりであり、『ラプサンスーチョンと島とねこ』(書肆水月) では、ねこに別れの手紙を綴る一人の優しい男でありました。がんの壮絶な治療をかいくぐったその後の生を燃やすように、息をするように思考し、語り、書きました。
『ラプサンスーチョンと島とねこ』は、思わず笑みがこぼれそうになるチャーミングな装画に彩られています。快くお受けくださった杉本さなえさんのものです。
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ねこの本を通じて、魅力あふれるねこたちを描くアーティストや書店さん、日々心を込めてていねいに、太い主張をもって、一つひとつの作品や本を送り出している方たちとの幸せな出会いにも恵まれました。
本づくりに欠かせない作業や営みをお任せする方がたにも、思いがけないつながりを見つけることがあります。
読まれることによって、書き手の精神は息づく。広く、長く読み継がれるものを。
ストーブのように、必要とされる時誰かの傍らにあり、深く思考する手がかりとなるような、道しるべとなるようなそんな本を届けてゆけたらと願っています。
来年には、2025年がひとつの節目となる人物をとり上げた2冊を、素晴らしいおふたりの先達の力を借りて刊行する予定です。
トランスビューさんの集いでは、ワー。この方が○○社の○○さんかー(憧憬)とドキドキしてばかりの甚だ心もとない存在でありますが、版元としての片隅で歩んでまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
拙い自己紹介、失礼いたしました。
先日、ずっと行きたかった市谷の杜 本と活字館の企画展 「ようこそ魅惑の書籍用紙の世界」に行ってきました。
厳かな佇まいと古めかしく愛おしい道具たちは変わらずそこにあって
白や生成りの麗しい本文用紙に触れ、とっくりと眺めて、61種類を好きに選んで見本帳にして持ち帰ることができます!(天糊製本は17:30までの受付なのでご注意ください)
紙の本のあたたかさを感じながら、ツイードに色づく都会の鋪道を歩いて帰りました。
現在拠点としている田舎は、作業を終え少し歩けば大きな空が広がっているところです。
地元宇都宮、各種のロケなどで近年知られるところとなった大谷資料館(大谷石の採掘場跡)からほど近い、若山農園の広大な竹林を過日友人と訪れました。乾いた晩秋の風が青々とした香りを運んでいました。
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