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このコーナーは空犬太郎さんにご協力をいただいています

フリーぺーパー4点 フリペで紹介された本 162タイトル
 

本屋フリペの楽しみ方

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空犬太郎さんが新刊書店で発行されているフリーペーパーの魅力について語るコラム。
(⇒ バックナンバーもどうぞ)

 

第24回 本屋フリペづくりのすすめ

2018-03-26

2016年3月に始まった本連載、もともとは1年ということでご依頼いただいたものでしたが、途中で1年延長になりましたので、今回で丸2年となりました。1回に1紙誌を取り上げるのを基本としていましたが、途中、いくつかをまとめて紹介する回もありましたので、全部で50ほどの本屋フリペを取り上げることができたことになります。

ほかにもまだ紹介できていない本屋フリペはあるのですが、2年と区切りのいいこともありますので、毎月更新の連載は今回で最後とし、今後は、紹介したい本屋フリペなりテーマなりがありましたときにつど更新という不定期連載のかたちとさせていただくことになりました。

次回更新が未定ということで、実質的には最終回のような回ですので、今回は、本屋フリペのつくり方講座のようなものをお届けしたいと思います。

つくり方といってもそんなたいそうなものではありません。本屋フリペは、誰がどのようにつくってもいい、完全にフリースタイルのメディアで、それこそが魅力なわけですから、つくり方も何もないのですが、ただ、興味はあるけれど何をどうしたらいいかわからない、じっくりと企画を練っている時間やつくり方を調べている時間がない、といった声も聞きますで、そのような方々の参考に多少でもなれば、ということで、気軽に挑戦できそうなつくり方の一例を紹介したいと思います。

(あくまで一例です。このようなものでなくてはならない、ということではありませんので、こんなつくり方もあるくらいの感じでお読みください。)
 

■用紙
A4判のコピー用紙が入手しやすく、費用も安価ですみますね。たくさん刷ることを考えないのであれば、クラフト紙や色紙などを利用する手もあります。ただ、地に色がついているものや質感のあるものは、印刷ののりがよくなかったり、手書きしづらかったりすることもありますのでご注意を。いずれにしても、サイズはA4判が安価で取り回しもきくのでおすすめです。
 

■判型
A4用紙を折らずにそのまま使う手もありますが、A4判1面を広く使うのはデザイン的にもけっこう工夫が要りますし、店頭での配布時に場所もとります。A5判(二つ折り)、A6判(四つ折り)のどちらかがいいでしょう。前者はPR誌と同じサイズ、後者は文庫と同じサイズですので、店頭での置き場を確保しやすいサイズになりますね。

↑(左)二つ折りだとA5判(4ページ)、文芸誌・PR誌などのサイズで、(右)四つ折りだとA6判(8ページ)、文庫のサイズです。
 

■ページ取り
以降は、A4判の用紙を四つ折りにしたA6判の仕上がりを前提に話を進めます。

四つ折りにしてできた部分を1ページとカウントすると、8ページになります。8つを個別に使ってもいいし、2ページ分、4ページ分を組み合わせるなどしてサイズを変えて使う手もあります。

↑縦書き(右開き)の場合はページ取りはこのようになります。(ページの境、折り目がわかりやすいよう、エンピツで線を入れています。)両面コピーする場合は、1ページの裏に2ページがくるようにします(横書きの場合も同様)。

↑こちらは横書き(左開き)の場合。

↑冊子状にこだわる必要はありません。内側を、縦書きの場合は右上から、横書きの場合は左上から順に使ってもいいですし、上左のように、上下2段に分けて大きく使うのも、さらに上右のように内側全面を1つのシートとして使うのもいいでしょう。内側だけ、向きを変えて横置きにするのもありです。店内図を使って売り場を案内するなどの場合は、横置きの紙面が合う場合がありそうですね。
 

■構成
8ページものの場合、最初のページは表紙、最後のページは裏表紙(奥付)とし、記事をそれぞれ単ページの個別のものにすれば、6つの要素を入れればいいということになります。何を入れてもいいですが、たとえば以下のようなものを組み合わせれば、すぐに埋まりそうですね。音楽や映画、食など、本と相性のいいジャンルの情報を組み合わせるのもいいでしょう。
 

●本の紹介

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  • おすすめ本紹介
  • 書評
  • 新刊発売カレンダー

●お店の紹介

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  • 店内フェア案内
  • 店内イベント案内
  • 店内売り場案内

●その他

  • スタッフ日記
  • 4コママンガ
  • 編集後記
  • 寄稿(お店にゆかりのある作家・出版関係者などからの寄稿)
  • 投稿(お客さんからの投稿)

第8回で紹介した吉祥寺書店員の会「吉っ読」発行のフリペ「ブックトラック」の例を紹介します。
 

  1. 表紙(短詩+イラスト)
  2. 記事1
  3. 記事2
  4. 記事3
  5. 記事4
  6. 記事5
  7. 記事6
  8. 裏表紙(編集後記+奥付)

 

「ブックトラック」は上記をスタンダードとしつつ、号によって構成をアレンジしています。たとえば、過去の号では、記事3と記事4(ページ4〜5で、ちょうど真ん中の見開きになります)のスペースを吉っ読に縁のある方のインタビュー・対談記事などにあてていたこともありました。また、記事6のところには、各店のフェアの案内をまとめて載せることもありました。

奥付は必ず入れるようにするといいと思います。発行店・発行者・発行日の情報を入れるといいでしょう。オリジナルのイラストなどを誌面に入れた場合は、描き手のクレジットもお忘れなく。
 

■編集・レイアウト
すべて手書きでというのがいちばん手軽そうですが、実は手書きで、見やすい字体・サイズでバランスよく字を配置し、決められた枠内におさめるのはけっこう大変です。時間をかけたくない、かけられない、という場合は、パソコン(ワープロ)のほうが簡単です。ワープロの場合、一度、フォーマットをつくってしまえば、次からはそれをベースに新しくするところだけを入れ替え、更新していくやり方でつくれますので、複数のスタッフでつくったり、担当者が変わってしまったりした場合にも向いています。

本屋フリペのつくり手のなかには、InDesignやIllustratorのような、出版の現場でも使われているレイアウトソフトを駆使してつくっている方もいらっしゃるかもしれません。それはそれですばらしいことですが、そういうソフトを自由に使える環境にあり、技術的にもすでに習熟しているという方を除けば、基本的には、作業者を選ばない、担当者が変わっても環境を引き継ぎやすい、ということで、できるだけ一般的なソフトを使ってつくるのがおすすめです。Word、Google Document、AppleのPagesなどです。吉っ読の「ブックトラック」では、編集作業は筆者が担当していますが、ぼくでなくても誰でもまねしてつくれるようにということで、Wordだけを使ってつくっています。

手書きとワープロを組み合わせるのもいいですね。手書きでつくる場合でも、タイトルやページ枠などはワープロで定型のものをつくっておいて、中身だけ手書きで埋めるとすれば、制作時の負担も軽減されますし、各号に統一感も生まれ、定期刊行物っぽくなります。

なお、次の仕上げとも関わりますが、もし、小さいサイズでつくるのが苦手、大変という場合は、大きめのサイズでつくってそれを縮小コピーしてください(A3でつくってA4にコピーする、など)。縮小コピーすると、描線やフォント、写真などがぐっと引き締まって、シャープに見えます(ただし、つぶれてしまわないよう、注意が必要です)。

逆に、小さくつくられたものを拡大コピーすると、線がぼけたり、小さいときには気にならなかった不要な線やゴミなども拡大されてしまったりなど、見た目が粗くなりますので、ご注意を。(大きめのサイズでつくったものを、仕上がりに合わせて縮小するのは、商業出版でも一般的に用いられているやり方です。「ブックトラック」もそのようにしてつくっています。)
 

■仕上げ
A4判用紙の四つ折りは、そのまま折りたたむだけでもいいですが、「ブックトラック」では、以下に写真でお見せするように、天の袋に、折り目の中心ぎりぎりのところまで切れ目を入れて、「ホッチキスで綴じられていないのに、なんとなく冊子状になっている」という状態にして配布しています。

ホッチキスの針は、とめてある部分が紙にひっかかって浮いてしまったりすることがあり、お客さんがけがしたり商品が傷ついたりなどの心配もあります。この方式だと、綴じる手間もありません(切れ目を入れるのと、どっちが面倒か、という問題はありますが……)し、単に紙を重ねてあるよりは冊子感も出せるということもあり、おすすめの方法です。

もちろん、冊子状にしない(ページを順に読ませない)場合は、このような作業は必要ありませんので、そのまま適当なサイズに折って配布すればいいということになります。

↑「ブックトラック」方式。天の袋部分のうち、紙の中心の折り目ぎりぎりのあたりまで、写真の赤い部分あたりにカッター、ペーパーナイフなどで切れ目を入れます。

↑上のように切れ目を入れると、こんな感じに開きます。紙をただ重ねた場合と違い、ばらけませんし、読みやすくてなかなか便利です。
 

■「権利」について少しだけ
最後に、権利に関わることにもちょっとだけふれておきます。本屋フリペは、本屋のみなさんが主にお客さんに向けて情報発信するメディアですので、内容は、お店オリジナルのもの、手がける方が独自に書いたり描いたりしたものであるのがいいと思います。

写真などを使う場合。書影(本の表紙写真)は、厳密にはいろいろありますが、本を紹介する際に書影を添えるのは業界慣習的にもOKとされることが多いようです。ただし、書影の一部から特定の要素を抜き出したり(たとえば、描かれている人物を切り出したり)、加工(反転、トリミングなど)したりはNGです。

書影以外の要素で、出来合の何かをそのまま紙面に掲載する場合は、注意が必要です。SNSなどではコミックのキャラ、コマ絵などがけっこう自由に使われている例があります。不正利用としてよほど目立つものでないかぎり、とくに出版社や権利者からの指摘もなく、そのままになっているケースもたくさんありますから、ついつい、あんなふうに使っていいんだ、と思ってしまうかもしれませんが、基本的には、許可なく、コミック作品などから特定のキャラの絵を抜き出したり、一部か全体にかかわらず紙面をそのまま掲載したりすることはできません。

文章の場合も同様です。今週の新聞の書評にはこんなのがありましたという掲載情報を載せるのはいいですが、特定の書評を許可なく全文掲載したり、新聞の紙面のコピーをそのまま載せたりしてはいけません。

ネットに上げないんだし、お店で紙で配るだけなんだから別にいいじゃん、ばれないじゃん、と思われる方もいるかもしれませんが、最近では、こんなのを入手したとSNSに写真入りであげる行為はごく当たり前になっていますし、いったん一般公開したものは、どこにどう広がり、誰の目にふれるかわかりません。ある本やその書き手の応援のつもりでつくったものが、結果的に、誰かの権利を侵害してしまったり、誰かを不愉快な気持ちにさせてしまったりがあってはいけませんからね。

「本屋フリペ」は、受け取る人(主にお客さん)が気持ちよく楽しめるものであるだけでなく、そのなかでふれられている人(紹介されている作品の作家や出版社など関係者)が目にしても同じように楽しめるもの、うれしく感じられるものであるのがいちばんですね。
 

いかがでしたでしょうか。本屋フリペには興味があるけれど、つくり方がわからずにいた、どこから始めればいいかわからなかった、という方がもしいらっしゃったら、本稿がそのようなみなさんの参考に少しでもなれば、本屋フリペの愛好家としてとてもうれしいです。
 
 

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