スタートして2年余り、いま考えること
はじめまして。りょうゆう出版の安(やす)と申します。創業して2年余り、最初の本を出してから1年半ほど経ち、これまで4冊の紙の本(内1冊は電子版あり)と2点の電子書籍を刊行しました。学校教育や授業、体験学習分野と評論の本を出している(出していこうとしている)出版社です。
ここに1枚のイラストがあります。ひとりで出版社を始めようと準備をしていたころに、イラストレーターの寺中有希さんに描いてもらった「居ドコロ新聞」です。出版の仕事をやるのだったら、どんなことをしたいのかいろいろ話してみませんか、と誘われて、そのときの対話を1枚のイラストにしてもらったものです。
今回、版元ドットコムの寺門様から「版元日誌」のお誘いをいただいて、どんなことを書こうかと考えているときに、このイラストのことを思い出しました(弊社のホームページにも載せているのですが、滅多に自分では見ることはないのです)。
「窓から入ってきたものと出会う」「好奇心」「何かと何かがつながって本になっていく」「ユニークで面白ければジャンルを問わず」「本にまつわる人々のやっていることが全部好き」など、少々気恥ずかしい言葉が書かれていますが、初心というか、確かにそんなことを考えてスタートしたのでした。
私自身は、30代の半ばに出版社に転職して以来、30年ほど「業界」にいますが、主に小学生向けの学習参考書や体験学習、環境教育の専門書ばかりやってきて、一時は他業種にいたこともあり、出版のメインストリームとは離れたところにいました。出版販売額が2兆円を超えていたころも出版の仕事はしていたのですが、あまり恩恵はなかったように思います。ただ、何度か転職はしたものの小さな組織ばかりだったので、紙の本の編集だけでなく、電子書籍づくり(緊デジではお世話になりました)、営業や制作、商品管理、会社勤めの最後のほうでは総務や経理に近いこともやったりしたので、「一通り」は経験できたように思います。
60歳を超えていろいろ事情があって最後の会社を辞めたあと、はじめは個人で編集業をしていたのに、自分で本を出そうと思ったのは、何冊かどうしても出してみたい企画があったこと、この著者の本は出したい、という方がいたことが大きかったのですが、一方では「一通り」は知っているので、なんとかなるのではないかと思ったということもあります。
しかし「一通り」知っているのと、実際にやってみるのとは、大違いです。
本づくりのいろいろな段階で、「それ、おかしいですよ」「こうしたほうがいいですよ」と言ってくれる同僚はいませんし、かわりに書店訪問をしてくれる担当者もいません。「延勘」「番線」「返品了解」「余丁」「キャラメル梱包」などの謎の言葉に戸惑うことはなくても、では、その実務はいつまでに、どのようにするのか、という点になると、わかっているようで、わかっていないことが多いですし、以前勤めていた会社は小なりといえども、大手取次会社に口座があって、弊社のような新規の小出版社には当てはまらないこと多数、などなど気づかされ、ちょっとこれは大変だ、と思うこともたびたびです。創業以来、未だ重版がないという状況にも、心が沈みそうになります。
それでも、著者・編者をはじめ、いろいろな方の力を借りて、自分が出したいと思った本が出せること、新しい書き手の方と出会えること、お名前も顔もわからない未知の方に弊社の本を買っていただけることは、嬉しいことだなあと心から思います。
この文章の最初でご紹介した寺中有希さんとは、私が最初に入った出版社で、25年以上前に体験学習の翻訳書をつくる際、訳者グループの取りまとめ役を引き受けてもらい一緒に仕事をしました(この時の本をはじめ、続けてつくった数点はいまも版を重ねています)。
ここ数年はSNSと年賀状のやりとりばかりだったのですが、イラストを描いてもらった半年くらい前に、オンラインのイベントで5、6年ぶりに画面越しですが、再会しました。
その後、寺中さんの活動をnoteやインスタで知り、イラストや文章などたくさん見せてもらいました(「居ドコロ新聞」も彼女の多彩な仕事のなかの一つです)。その過程で「本にしませんか」と声をかけて、2022年2月に刊行したのが『自分のとなりに座ってみたら 私の幸せチャレンジ 明るいほうへ、楽しいほうへ』です。
イラストを中心としたオール4色のエッセイ本というスタイルで、りょうゆう出版の守備範囲からは若干ずれるのですが、「何かと何かがつながって本になっていく」「ユニークで面白ければジャンルを問わず」と寺中さんが私に書いてくれたことが実現したような本です。
ただ、本当に残念なことなのですが、寺中有希さんはこの本ができる直前に、46歳の若さでお亡くなりになってしまいました。本を素材にしたワークショップをしたり、イベントで一緒に販売をしたかった...
偶然に再会して、いろいろなタイミングが合って、本ができたのですが、りょうゆう出版にとって大切な本になりました。
著者と出会って、意気投合して、いろいろな苦労を重ねながら本をつくっていく。そして、できあがった本が多くの方の手元に届いて、喜んでもらえる。そんなシンプルなことをあらためて思いました。本をつくり広めていくときには、どんな本でも当てはまることだと思います。
「版元日誌」という機会をいただき、なんとも個人的なふり返りのようなことを書いてしまいましたが、なにを自分がやりたかったのか、あらためて確認できたように思います。
来年の春までにあと2点の刊行を決めているシリーズ企画や、その他にも数点の単行本の企画が動いています。著者と読者の皆さんに喜んでもらえるような本づくりを、これからも続けたいと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。