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木星社と走ろう

2年を振り返る

 こんにちは、木星社です。 

2021年2月に創業し、マイク・スピーノ『ほんとうのランニング』(近藤隆文訳)をその年の12月に刊行しました。走ることを競技としてだけではなく、心身の健康や人間によるある種の表現だととらえたマインドフルランニングの名著で、『BORN TO RUN』の訳者でもある近藤隆文さんが翻訳してくれた一冊です。たくさんの方々に手に取っていただき、嬉しかったです。

この本を出してからあっという間に日々が過ぎ、2023年3月下旬から発送開始となるエドゥアルド・ガレアーノ『スタジアムの神と悪魔——サッカー外伝 改訂増補版』(飯島みどり訳)で、小社の刊行書籍は5冊目となります。書店のみなさまや、何といっても読者のかたがたのおかげでここまで参りました。ほんとうにありがとうございます。

きょうは版元日誌に書かせていただく機会をいただき嬉しいです。版元ドットコムは日々使っていますし、他のかたがたの日誌も楽しく読んでいます。ここでさらに何をお届けするのがいいのやらと悩みましたが、仕事でもそうでなくても大好きなランニングと本にまつわるエピソードにしようと思います。

走ることと読書は似ている

京都の誠光社や大阪のスタンダードブックストアや東京のランニングショップでのトークセッション、小社のポッドキャスト『Thursday』でもよく話しているのですが、ランニングと読書は似ている気がしています。

走るスピードや本のページを繰る速さは人それぞれ、途中で気になることや感動するポイントもそれぞれです。それでも自分なりに一歩一歩進み、ひとことずつ読み進めていくと、いつのまにか新しい世界に入り込んでいくことができます。身体と頭というふうに使う場所は違うのかもしれませんが、ランニングと読書はそんなふうに自分のなかではつながっていて、よく似た活動です。

そして、そんなふうに進むことは日々の生活の時間そのものをやりくりする知恵のようなものにもなっています。世界で最も影響力を持つファッション誌『VOGUE』などで活躍しているライターでランナーのマヤ・シンガーはこんなことを言っています。

「私は、4~5マイル走るごとに目印というか、区切りをつけるような考えかたを、ランニング以外の生活の時間でも結構やっています。たとえばチャイナタウンにある自分のアパートを出て最初にぶつかる目印は、ウィリアムズバーグ橋で、それを越えたら、ブルックリンに入って米国海軍の造船所につきます。その横をさらに進むと、次の目印のヴィネガー・ヒルまで行きます。こんな風に、ランニングするときにやっている「目印をつける」ということをランニング以外の生活の色々なことにも当てはめているってことです。(中略)だって目印を作れば、ここまではできて、あとは残りこれだけっていうように、ものごとの経過が図れるようになるから」(”Running As Meditation” より)

小社の3作目『アメリカを巡る旅 3,700マイルを走って見つけた、僕たちのこと。』(川鍋明日香訳)を書いたランナー/ジャーナリストのリッキー・ゲイツもまた同じようなことを話しています。

「自然の中でも目印にできる木がたくさんありますよ。自分も目印にしているものがあります。面白いですね。というのも、出身地のコロラドに戻ると、20年以上走っているトレイルをいくつか走るんです。同じ場所にいまも変わらずある木や橋に通りかかると、20年前はここまで走れたことに感動したなぁ、なんて思い出すんです。今だとこの距離まではウォームアップ程度で走ってきてしまいますが、かつてはここで引き返していたなぁ、とか。人生において何かをずっと続けることは、忍耐力や人間としての成長につながると思います。(中略)ランニングであろうと、人間関係であろうと、編み物であろうと、人生で追求したいことがあれば自分なりに目印を見つけて、その目印を心に留めておくことは非常に大切だと思います」(同上)

一緒に行きましょう

木星社を始める前の2020年2月、ニュージーランドでトレイルランニングレースを走りました。「コロナ以前の時代」の最後のレースになるとは想像もつきませんでした。

それから、ずっとレースはキャンセル続きでした。2022年4月にようやく「ウルトラトレイルマウントフジ(UTMF、160キロ)」を走るまで、皆さんと同じくいつもと違う日常、つまり「コロナの日々」を進んできました。本を読みながらも、誰かと一緒に走る経験は少なくなって寂しいし、つらいこともありました。

それでも2021年に木星社をスタートし、パーシー・セラティ『チャンピオンへの道』(近藤隆文訳)や

ドミンゴ『ニュー・ダイエット 食いしん坊の大冒険

も含めてここまで来ることができました。

淡々と走り、ページを繰る手を止めなかったことと、マヤやリッキーが語るのと同じような感覚で、なんとか目印をつけてやりくりしてきたからだと思います。そして、ふと見渡すと、いつのまにか読者の皆さんや他の版元の皆さんがつけた同じような目印が周りにあったり、誰かがそっと助けてくれることもたくさんありました。とても心強かったし、これで良かったと感じました。

思ったよりも長いあいだ迷宮を進まざるを得ない時代ですが、誰かや目印の存在を知っているとともに進み続けられるのだなと思います。

写真家ロバート・フランクが『The Americans』で、ランナー/ジャーナリストのリッキー・ゲイツがフランクに匹敵する作品『アメリカを巡る旅』で進み続けたように。ロックダウンの時代を経たいま、そこにあるものを見に行きたいと思っております。

途上でどんなものが見えるのかはわかりません。わかりやすいもの、そうでないもの、見たことのあるもの、ないもの、形のあるもの、何かの兆しのようなものなどなど色々だと思います。そういうことを本という形にしたいと思います。

旅の途中に出会ったら、一緒に行きましょう。

PS:2月22日は、木星社の誕生日でした! 

木星社の面々は、国立近代美術館で開催されていた大好きな大竹伸朗さんの展覧会に行きました。

大竹さんの本『既にそこにあるもの』(筑摩書房)をまた読み返しております。名作ですよね。

トークセッションやウェブ、音声でそんな感想も発信しています。
・木星社のサイトはこちら、インスタグラムはこちら。
・小社のポッドキャスト『Thursday』も好評です。
・木星社のストア「Mokusei Book Club」もよろしくお願いします。

木星社の本の一覧

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