知らないうちに20周年。初めてのベストセラーの兆し。
今年4月10日で、創業20年になります。
販売する本一本で、ここまでやってきました。
160点ほど作って、出荷ベースで160万部。
それでも、初版分の取次各社からの入金は6か月後。追加注文についても7割は翌月だけど3割は7か月後。印刷代と印税を払うと、なかなか残りません。
とにかく現金がない。
以前、ここに、「創業時月収30万円で設定し、自社出版以外の仕事もやることに決めた」と書かれている版元さんがいらっしゃったけど、「それが、まっとうな道だよな」と感心しました。
社員3名で、事務所・倉庫の維持費など販管費で月200万から250万ほど、それを支払うと、結果的に僕が給与としてもらえるのは、最大8万円。
なので僕の給与はやっぱり創業以来8万円。
同居人の、ほぼ同額負担で生活はまわっています。
ただ、月半分は、書店さん営業と、取材の旅に出ているので、半月は経費で暮らしているような気もします。
ともかく、山はぼちぼち谷が多い中、ここまでやってきました。
そして、突然襲ってきたのがコロナでした。
「コロナで、本は儲かったんでしょ、いいなあ」と、よく言われますが、めっそうもない。
なぜか返品はめちゃめちゃ減ったんですが、追加注文がこない。
いい感じで売れ始めるのに、すぐ止まる。
正直、厳しかったです。
ところが、嬉しいことにここにきて「まるありがとう」がヒットの兆しです。
昨年12月2日に初版15,000部。以降12月末に5000部、年明け5000部、1月末に10,000部、3月1日に10,000部。そして今、4月1日できで10,000部印刷屋さんに発注しました。
返品は、今のところ200部ほどです。
2021年1月、共同通信社の記者さんの紹介で、養老孟司さんと出会い、この本の企画が動き始めました。
「先生が18年飼っていた猫まるが、12月に亡くなり、気落ちされているだろうから、本を作って励まそう」そんな話から、「まるのことを、今自分で書くのはちょっと難しいかもしれない」のお返事を養老さんからいただき、共同通信社の記者大津さんに、執筆をお願いしました。
以前から、大津さんの養老さんについての語りを聞く度に、その愛の深さを感じていました。
そんな、大津さんが取材執筆した養老さんの話が、読者の琴線に触れないわけがありません。
写真は、まるの一番近くにいた、養老さんの秘書平井さん。
すごくチャーミングな女性で、お会いして急遽、まるの日常のことをコラム風に書いていただくことにしました。
判型は新書。
「バカの壁」や、瀬戸内寂聴さんの新書の隣に置いていただくことをイメージしました。
はたして、まるの死を経て深化した養老さんの思索を、大津さんが的確に文章にしてくれて、そこに、まるの写真114枚が絶妙に絡み合い、本当にいい本になりました。
唯一の心配は、書店さんの担当者が間違って、「ペットコーナー」に置いてしまわないかということ、養老さんのファンは、ペットコーナーには行かないだろうと思ったからです。
表紙カバーからまるの写真を外すか。
でも、それはないよな、いろいろ悩みましたが、どすこい座りのまるが、何とも言えず、かわいいので、結局現在の写真でいくことにしました。
果たして、猫の表紙を見て、ペットコーナーに並べている書店さんは思いの他多かったです。やっぱり、ここでは売れないんですけど、一度置き場を決めるとなかなか動かせないんですよね。
この本の半分は文章なのです。そして、読みやすい。
新潮社の養老さんの「〇〇の壁」シリーズと一緒に読むと、より理解が深まります。
さて、営業なのですが、意外に厳しかった。
初版20,000部ぐらいは必要かなと思っていたのですが、西日本出版社という知名度のない出版社の本だからなのか、書店さんに営業に行っても、事前にファックスした注文書の反応も、件数はくるものの、一書店あたり数冊程度の注文がほとんど。
トーハンさんや日販さんの仕入れ担当者に相談しても、「書店さんから注文が来たら配本しますけど、別に希望数はないです」
そんなことで、書店さん受注数からすると多めだったのですが、アマゾンだけは8,000冊注文がきていたので、思い切って初版15,000部刷りました。
最初に反応してくださったのは、くまざわ書店さん。
取次さんを通じてでも、電話でも、ファックスでも、メールでも、来る注文は、くまざわ書店さんばかり。
10年以上前、数か月に一回本部に顔を出し、忘年会にも出席していたのですが、仕入れの担当者がかわったのをきっかけに、アポイントが取れなくなり、足が遠のいていたのです。
不思議に思い、関西のくまざわ書店チェーンのある店長に聞くと、「本部から、「この本いいよ」ってメールがきたんですよ」、続いて、ほかのあちこちのお店の店長からも「ほんと、いい本だよ」って。
じつは、東京でうちの記紀万葉の本に火をつけてくださったのも、くまざわ書店の聖蹟桜ヶ丘店さん。
それまで、京王線沿線の書店さんには、そもそもどこの記紀万葉もほとんど置いてなかったので、「沿線の人は、記紀万葉に興味ないんや」と思っていたのですが、営業をかけて積んでいただくと、それこそ飛ぶように売れ、二桁売れるお店が続出。
話がそれました。
でも、他の書店さんはというと、電話は一日途切れることはありませんでしたが、「お客様からの注文があったので1冊」が続きました。
「店頭分はいりませんか」のお声がけはするのですが、反応は4~5件に一回、「3冊注文します」。
それでも、嬉しかったです、ほんとうに。
新聞広告は、朝日・読売・毎日・日経、あと地方紙に、ほぼ10日ごとに三八を出しています。
12月も半ばごろから、注文単位が3冊から5冊と増えてきました。
また、今まで関係が薄かった書店さんチェーンの本部からメールで一括注文をいただくようになってきました。チェーンによっては1,000冊単位で。
トーハンさんのHPに、日ごとのベストセラーが載っているのですが、ある日、そのノンフィクション・教養部門で、7位になっていることに気づきました。以降、最高位が2位で、20位以降の圏外になったのは1日だけ。
これは励みになるとともに、街中の書店さんでお買い求めいただいているんだと、勇気をもらえます。
このころ、養老さんの新刊「ヒトの壁」が発売されて、書店さんの店頭は、「壁シリーズ」一色になりました。一週間ほどは、注文数が落ち着いたのですが、徐々に一緒に置いていただける書店さんが現れ、復活。
ともに新書なので、一緒に買われているようです。
1月から、東京を中心に週間ベスト5に入る書店さんがでてきました。
2月半ばから、10冊単位で注文していただける書店さんが増えてきました。
小さな書店さんからの「お客様からの注文1冊」とのお電話に、「もう少し置いていただけませんか」というと、「えっ、いいんですか」というお返事が増えてきました。
月間新聞広告料4紙で70万円ほど、書店さんへのファックス月延べ5,000件ほど、書店さん本部との連絡、そしてもちろん訪問営業。
取次さんの大阪の倉庫に納品すると書店さんに着くまでに時間がかかるので、一日10件以上、宅配便でご希望の書店さんには直送しています。
このサイクルを重ねて、実売5万部が見えてきました。
心配なのは、大手チェーンの中で、実売率85%を超えているのに、追加注文をいただけなくなった書店さんがあること。売り切った感があるのでしょうか。
西日本出版社の過去最高部数は、「瀬戸の島旅」の6万部。
香川県で「リトルマガジン」を出していた島愛の強烈に強い女子たちと作った、980円128PオールカラーAB判のガイドブックです。
この時は、中国地方と関西・東京で集中して売れ、いただく注文の単位は50冊から100冊、少ないお店でも30冊でした。ここから島ブームは起こりました。
その前は、讃岐うどん愛満載の、「超麺通団」シリーズ、累計8万部。ここから讃岐うどんブームが全国区になり、爆発しました。
この時は、地元の宮脇書店さんが数万ではきかない部数を販売してくださいました。
つまり、この時も、どっかーーんどっかーーんと出荷していたわけです。
あまりの出荷量に、トーハンさんの仕入れから「返品が怖いので、支払いを止めてもいいですか」と謎の一言を言われたのも、このころです。
ところが、今回は、本当に日本の津々浦々からのご注文。
NHKの「まいにち養老先生 ときどきまる」で人気者になったまるの力です。
「全国紙の広告は、全然意味がない」、地方の書店さんでは必ず言われる一言ですが、どうしてどうして、朝日・毎日・読売・日経の広告の威力はすざまじいものがあり、地方の町の人たちからの注文の電話の量、ほんとすごいです。
さあ、次の目標は10万部です。
「まるのように生きれば、戦争はなくなる」
「思えば、今まで理で生きてきた、でも、まるのように、気持ちいいところにいつもいて、嫌なことはしない、ということの大事さがわかってきた」という養老さんの思想。
もっともっと多くの人の手に届けたい。
今回、わかったことは、今はもう勝手に売れてベストセラーになるような本は生まれないだろうなということ。
書店さんをよく回っている版元さんは分かっていると思うけど、個別店での発注を止めて、本部に発注権限を一元化している書店さんチェーンが多くなってきました。
僕も経営者なので、資金管理を一元化しないと、資金繰りが危うくなるというのはわかりますが、こうなると、売れ始めても簡単に品切れになって、その本の力に現場が気づかなくなります。なので、本部へのマメな情報発信と情報交換ができないと、ベストセラーにすることができないのです。
寮美千子さんの「あふれでたのは やさしさだった」
は、新聞やラジオで紹介されたこともあって7刷り29,000部までいったのですが、ある時から突然注文が減って8刷りにいくことができなくなりました。
思えば、書店さんの本部と連絡は取っていたものの、反響はあまりなく、このサイクルを作れなかったのが、より多くの人の手に届けることができなかった原因だと思います。
ともかく、「まるありがとう」のおかげで、多くの書店さんの本部のアドレスを知ることができました。
これは、ほんと財産です。
ぼくが書店さんをまわる所以は、今作っている本を、書店員の皆さんがどう評価しているのか知りたいからなので、実際に注文をいただかなくてもいいのですが、本の実力への評価は、担当者のみなさんの注文数に如実に表れるのです。そこから、どうしたら売りたくなるかを、いろんなお話をしながら探っていきます。タイトル?定価?装丁?プロフィール?帯の文章?注文書?
書店さんには、ぼくらが持っている原稿を、どうすれば一人でも多くの人に届けることができるかという情報満載で、それを聞き出すには「注文」というワードがあったほうがいいのです。
「まるありがとう」に続く本は、「金峯山寺の365日」。
「興福寺の365日」から始まったシリーズで、奈良の若い僧侶たちの思いを一般の人たちに伝える本です。オールカラー168P、DVDがついて、本体1,700円。
初版はそれぞれ、10,000部と7,000部です。
続いては、地方財政を読み解く本で、こちらは初版2,000部、本体価格2,400円です。
「海とヒトとの関係学」も5巻目。初版3,000部、本体価格1,600円。
4月には「僕のあるき遍路」。
京都大学を出、就職後鬱になったのを機に、歩き遍路を始めた32歳の男子の本、イラストもふんだんに入れているので、お遍路の実用書にもなります。
昨年、友人の紹介で事務所に来られたのですが、お話をする様子を見ているうちに、「この本出さなきゃ」と思いました。
実は、先週一週間、四国の書店さんと新聞社さんをまわる、営業お遍路をしてきたのでした。
書店の担当者さんとしこたまお話ができました。特に、地元で長くやっている書店さんで、お遍路愛を感じました、初版5,000部、本体価格1,500円の予定です。
5月は、「奄美の島あるき」。
3年前に発売する予定を、コロナで寝かしていたガイドブックです。オールカラー140P弱、定価1,300円にできたらいいなと思っています。
コロナ前5,000部ほどいただいていた注文は、これだけ日にちがあくと、さすがにチャラ。
しかし、今書店さんに行っても、「旅の本は売れない」が染みついた担当者のみなさんから、大きく注文をいただくのは、厳しい。奄美は、昨年、世界遺産になったのに・・。
オールカラーだと最低7,000部は刷らないと、宣伝費など攻めの経費が捻出できない。
コロナがあけたら、九州・奄美・沖縄には営業にいかねばと思っています。
人間と人間が共感し、時に格闘しながら作っていく本、これは、やっぱり対面で、「伝えたい」思いを書店さんや取次さんと、語り合いたい。
一時、ズーム打ち合わせに振れていた、著者の皆さんとの打ち合わせは、「やっぱり、無理」と、概ねお会いしてお話することにしました。
だから、これからも営業の旅にでて、書店のみなさんと語り合いながら本を作っていきます。そのためには、より一層書店さんとの縁をつなげていかないと、そう思います。