装丁作り、はじめました。
日本語・日本文学の研究書を刊行しております、笠間書院の編集 兼 営業 の西内と申します。2年ぶりに日誌を書かせていただきます。
最近、社会評論社の濱崎さんのweb連載で「HONZ「ハマザキ書ク」『編集者による装丁マニュアル』」という記事があり、参考になるなあと思いながら読ませていただきました。小社では以前から編集者が装丁を手掛けていますが、わたしも最近、見様見真似で装丁を作りはじめました。ほとんど初心者ですので、書店で本を観察したり、先輩の真似をしたりと、かなり試行錯誤しています。
記事によると、編集者で装丁まで手がける人はあまりいないとのことですが、研究書に関して言うと、編集者が装丁まで作る話はたまに聞きます。装丁に限らず、パンフレットやポップまで作ることもしばしば。やはり経費削減というのが大きな理由だと思います。加えて、研究書は研究対象に関する写真や絵巻物といった素材があるので、ゼロからアイデアを捻る必要がないこと、読者が限られてくるので、不特定多数の読者に働きかけるために練られた装丁があまり意味を成さないことも、理由としてあるのではないかと思います。
練られた装丁に意味がないなら、昔の研究書に多い著者名と書名だけのシンプルな装丁でいいじゃないか、という考え方もありますし、現に小社ではそうした装丁も作っていますが、あえて一般書のような装丁も作っているのは、手に取ることがあるかもしれない一般のお客様、この分野にあまり詳しくない書店員さんや司書さん、ちょっと興味があるような隣接分野の研究者の方へ「こういう本なんです」ということを伝えるひとつの手段でもあります。小社の本のほとんどに帯がついているのも、この理由によるところが大きいです。
わたしが装丁を作った本を3点、ご紹介したいと思います。
●小林とし子『翁と媼の源氏物語』(笠間書院)
はじめて装丁した本です。源氏物語の研究書ですが、一般の方でも読みやすい内容です。この本は『さすらい姫考』・『女神の末裔』に続く、三部作の最後にあたる本だったので、前著までの装丁を踏襲して、浮世離れした雰囲気のある女性の絵にしました。内容から、橋があること、複数の女性がいること、赤を基調とするものをイメージしていましたが、ぴったり合うものを探すのが大変でした。
●日向一雅『源氏物語 東アジア文化の受容から創造へ』(笠間書院)
こちらも源氏物語の研究書です。著者の所蔵する「紫式部日記絵」の複製が装丁の材料として用意されていましたので、材料探しはしていません。研究書の装丁で特に腐心するのは帯文です。分厚い研究書の帯文が数行でうまくまとまると、装丁作りの半分が終わったような気分にすらなります。あとは絵の邪魔をしないように文字を配置し、紙や加工方法を選びます。
●中野三敏『江戸文化再考 これからの近代を創るために』(笠間書院)
原稿を読んでいろいろとイメージしていたら自分で作りたくなったので、一般書ですがデザイナーさんにはお願いしませんでした。本書は、現代人のほとんどが読めなくなってしまった「くずし字」で書かれた和本(=糸で綴じた和紙の本)から、江戸の本当の姿を教えてくれる本です。和本に詰まっている江戸の姿が、この本に詰まっている!ということで、ストレートに和本の形にしました。本物の和本の表紙、裏表紙、背の部分をスキャンして文字を載せ、紙なども風合いを意識して選びました。
編集してかつ装丁まで作るのは大変ですが、最後まで自分で考えながら形にすることが出来るのは楽しいです。一方、濱崎さんの記事にもあるように、思い入れが先行してしまい、良し悪しを客観的に判断する目が欠けてしまうということも、作りはじめて時間が経った今、感じています。
また、小社ではデザイナーさんに依頼することも(特に一般書の場合)あります。プロの手掛けた時間を経ても飽きのこない装丁はさすがだなあと感じることも多いです。その領域に辿りつくのは難しいことだと思いますが、出来れば多くの方に気に入っていただける装丁を作っていきたいと思っています。