JPO近刊情報センターと近刊検索β
皆さんはJPO近刊情報センターをご存知ですか? 日本の出版社がこれから出す本(近刊)のデータを集め、有効に活用しようという機構で、一般社団法人日本出版インフラセンター(JPO)により運営されています。
●JPO近刊情報センター
http://www.kinkan.info/
●一般社団法人日本出版インフラセンター(JPO)
http://www.jpo.or.jp/
私は、このJPO近刊情報センターに推進委員として参加し、普及促進ワーキンググループのリーダーを務めております。
JPO近刊情報センターについては版元日誌で過去に以下のような記事を書いています。
この時は、本稼動前の説明会へのご案内でした。その後、JPO近刊情報センターは2011年4月1日から本稼働しました。本稼働後に「マガジン航」で、JPO近刊情報センターの成立の過程や意義について以下のような記事を書きました。
昨年4月の本稼働後、順調に参加出版社・利用書店(取次)を拡大してきたJPO近刊情報センターですが、そうした拡大の背景には具体的な利用の進展があります。そのひとつの例として、版元ドットコムの姉妹サイトとして昨年9月から稼動した「近刊検索β」をご紹介いたします。
●近刊検索β
http://www.hanmoto.com/jpokinkan/
近刊検索βは、JPO近刊情報センターで提供される近刊情報を手軽に検索・閲覧するためのサイトです。単に閲覧するだけでなく、その情報をTwitterやFacebookなどで共有できる機能を盛り込みました。これが意外と好評なようで、ここ最近になって急激にアクセスが伸びております。
実は、このサイト(近刊検索β)、私が作りました。見た目がイマイチなのは私のせいです。すみません。近いうちに全面リニューアルしたいです。
なんでこんなサイトを作ったかというと、ひとつは、XMLファイルを使ったWebサイトを作ってみたかったから。もうひとつは、XMLが扱えないという書店さんの意見を伺ったので、なるべく手軽に検索・閲覧できるサイトを用意し、まずは近刊情報そのものを見てもらおうと思ったからです。(本当はもうひとつ、楽々とXMLを扱う数理計画(JPO近刊情報センターのシステム構築・管理を担当しています)の若い皆さんが羨ましかったからというのもあります。オレもできたら楽しいだろうなあ、と思って)。
実際にサイト(近刊検索β)を作ってみてよくわかったことがいくつかあります。
- 近刊情報は本屋の皆さんや取次さんだけでなく著者や読者がすごく関心を持って見てくれている。
そのまんまですね。これから出てくる本の情報がネットに出てくることに著者やそのファンは非常に強い関心を持っています。当たり前といえば当たり前ですが、今まで出版社がそのあたりにどれだけ働きかけられていたか、ちょっと考えさせられました。 - 情報を共有したいヒトが沢山いる。
これもそのままです。せっかく見つけた情報は積極的に皆と共有したい、そう思っている方が少なくないことにやはり色んな事を考えさせられます。 - 皆さん、本の話題が好き。
本の話題、好きですね。なんというかテレビとか映画に比べるとすごく狭い関心領域なんですが、そこでの意見交換や情報交換に皆さん前向きです。ある意味、狭い範囲の話題だからこそ盛り上がるんでしょうか。 - タイトルだけでも盛り上がる。
新潮社から出る『股間若衆』(多分、古今和歌集をもじったタイトルだろうと思われます)に反応したツイートがドンドン増えました。近刊検索βでは先日から「アクセスTOP10」ということで週単位のアクセスランキングも公開しています。これで見ても『股間若衆』は大人気です。
近刊検索βの宣伝になってしまっているようで恐縮です。JPO近刊情報センターの近刊情報を気軽に閲覧・検索できるサイトは他にもあります。例えば、フライングラインの「本が好き!ラボ 近刊情報サーチ」では私が作った「近刊検索β」より洗練されたデザインで手軽に近刊情報を検索・閲覧できるうえに「新着」かどうかもわかります。悔しいので紹介したくなかったんですが、JPO近刊情報センターの推進委員としては紹介しないわけにいきません。
●「本が好き!ラボ 近刊情報サーチ」 フライングライン
光和コンピューターの「これから発売される本検索」は、書店に置いてそこから予約できる専用端末のデモを兼ねています。プロ向けのシステムですが、店頭での予約が一般的になればずいぶん便利ですよね。
●「これから発売される本検索」 光和コンピューター
現在、JPO近刊情報センターに登録されている近刊情報は14日分で900点超です。日本で刊行される新刊が年間72,000点だとすると、1ヶ月6,000点、半月で3,000点、ということは、現状で30%以上をカバーしているということになります。
「30%では少ない」と思われるかもしれませんが、自費出版や書店での流通を前提としていない本の存在も考えると、実際に書店の店頭に並ぶ本についてのカバー率は30%をはるかに上回るというのが体感です。
ちょっと視点は違いますが、ダ・ヴィンチの「好きな出版社ランキング」 に並んだ11の出版社のうち、JPO近刊情報センターに未参加は3位幻冬舎と8位岩波書店のみ(文春はもうすぐデータが来ます)です。また、2010年新刊刊行点数上位10社(やや不正確なのでリストは掲載しませんが)のうち、JPO近刊情報センターに未参加は文芸社とエンターブレインのみです。
そう考えると「けっこうカバーしている」ような気がしませんか?
このカバー率をさらに上げていくために、JPO近刊情報センターでは今年の4月までに出版社500社の参加を目指しています。ちなみにこの原稿を打ち込んでいる2月21日時点で参加出版社は230社です。かなり遠い目標です。ですが、不可能でもないような気もします。
JPO近刊情報センターへの参加で必ず聞かれる話が二つあります。ひとつは、「お金はどれぐらいかかるのか」、もうひとつは「手間は?」です。
お金については、商品基本情報センターへの承諾書を提出済の出版社は追加費用無しで参加できます。受信利用者(書店や取次)は無料です。システム構築等については、出版社の基幹業務を開発しているシステム会社や、倉庫会社、POS等のマーケティングデータを扱う会社が安価なシステム提供を提案されています。また、版元ドットコムや大学出版部協会のように出版社による協業によって情報提供を実現している団体もあります。もちろん、JPO近刊情報センターが用意したWeb入力システムを使えば無料です。
手間についてですが、出版社の参加が増えてきた段階で、これまであちこちに送っていた刊行情報を一元化しようという動きはあります、つまり、出版社の参加が増えたら、これまであちこちに送っていた刊行情報をJPO近刊情報からのデータ提供で済ませられるようになるということです。そうなると手間は激減します。
まだJPO近刊情報センターに参加していない出版社でも比較的大きいところはネット上での検索などあまり気にしていないかもしれません。なぜなら今まで書店や取次が全部やってくれましたから。ですが、面倒見のいい取次や書店に甘えていれば至れり尽くせりという時代は既に終わりつつあります。自分たちの手でどうやって情報を発信するか、それを著者や読者とどうやって共有するか。今まで考えても見なかった問題に多くの出版社が直面することになります。
それに加えて、スマートフォンがさらに普及していけば「検索」は今まで以上に身近な作業になっていきます。その際、「検索しても出てこない」は「存在しない」と同義とみなされてしまうかも知れません。いえ、今でも「アマゾンで検索してみつからない本はこの世に存在しない」と思われているのかも。もちろん、ネットの外の世界は間違いなく存在していますし、それを理解できるリテラシーの啓蒙は不可欠です。けれど、「見つからない=無い」は本当に怖い。
だからこそ、自分たちの手で発信することが求められています。
自分は古いタイプの営業なので、諸先輩から、「書籍の営業は出てからが勝負(刊行後にじっくりと取り組むことが肝要)」と教わり、それをある程度まで忠実に守ってきたつもりです。しかし、この十数年で急激に増えた刊行点数によって店頭での陳列期間はますます短くなりつつあります。じっくり取り組むために不可欠とも言える立ち上がりの数字を確保するための十分な期間が取れなくなってきた。その短い期間で最大の効果を出すためには事前の告知が必須です。「出てから」ではなく「出るまで」に何ができるか。書籍の営業は、大小問わず、変わりつつあります。
ということで、出版社の皆様、是非、JPO近刊情報センターにご参加ください。お待ちしております。また、書店さん、取次さんも受信利用者としてご参加ください(くどいようですが、受信利用は無料です)。
本と読書の未来を一緒に作っていきましょう。