確実に、ひとつの時代が終わった。
スーパーエディターこと安原顕さんが、亡くなった。彼が編集していた時代の「マリ・クレール」は、女性誌の枠を超えて斬新な特集を連発し、ワクワクするほど面白かった。淀川長治さんと蓮實重彦さん、山田宏一さんによる映画の画期的な鼎談は、今も忘れられない。
中央公論社を退社後は、書評家となって書きまくり、何かと物議をかもしだすユニークな人物だった。数年前、雑誌の特集で見たことがあるけれど、アフロヘアーに茶系の背広姿は、まるで歌謡曲歌手のマネージャーという雰囲気。その、知性のかけらもなさそうな風貌に度肝を抜かれ、活字と現実のギャップを思い知らされたものだ。
その後、著作を読んでみると、どの本も漫談のように面白く、しかも随分と参考になった。もう読めないかと思うと、残念でならない。1939年生まれというから、享年63歳だったはずだ。そういえば、もう一人、大好きだった書評家・向井敏さんも昨年亡くなっている。
物故といえば、不朽の名作「仁義なき戦い」の脚本家・笠原和夫さんが、正月早々に他界された。その後を追うように深作欣二監督も亡くなり、妙な偶然に驚かされている。代表作の「仁義なき戦い」は、かつて場末の映画館の深夜上映で観た。現在は、友人から譲り受けたビデオで全5部作を所有、とりわけ4作目のワンシーンが好きで繰り返し観ている。それは、刑務所の廊下で菅原文太と小林旭が「あの時代に頑張った俺たちは何だったのだろう」と言う意味のことを語り合う場面のこと。
この作品、単なるヤクザ映画の範疇をはみ出し、時代を映す鏡として大きな価値があると思う。人間ドラマとしても秀逸で、何度繰り返して観ても、とにかく観客を飽きさせない。どんなに名作と謳われても、繰り返し観るのはつらい映画もあり、そもそも大半の映画は時の流れで風化してしまう。その意味で、日本映画の中では類稀な傑作であると言いたい。生涯に1本でも、こんな作品を作れたら、監督としては本望だろう。さらに深作監督は、初期の傑作「誇り高き挑戦」や、知る人ぞ知る「現代やくざ・人斬り与太」、そして不滅の名作「仁義の墓場」も撮っているのだから凄い。
ともあれ、ヤクザな編集者とヤクザ映画の脚本家と監督の死は、確実にひとつの時代の終焉を証明していると思う。
ところで、わが社の新刊本の話を少し。夏は茶色で冬になると真っ白になるエゾユキウサギのチッチを主人公にした写真集『ユキウサギのチッチ〜サロベツ四季物語』(B5変形判・60頁/本体1500円)を、昨年暮れに出した。サロベツ原野を足場に活躍する動物カメラマン富士元寿彦さんが撮影したあったかーい写真は、眺めているだけで幸せな気分にさせてくれる。なんだか元気がない…という人に読んで欲しい。
相変わらずの自転車操業が続いているけれど、元気と勇気だけは人一倍ある北の小さな出版社。今年も、よろしくお願いします。