かつては子どもだったあなたへ
十二月には、てらいんく社員一同で心待ちにしている日があります。二十四日…では勿論ありません。二十一日です。三連休の始まりだから…では勿論ありません。十二月二十一日より、神保町の岩波ホールにて、てらいんく刊「サンサン」が「草ぶきの学校」として映画化されるのです。
「サンサン」はサンサン君をとりまく中国の農村の様子が美しく描かれた物語。好奇心を抑えきれなくてやってしまった悪戯、女の子への淡い気持ち、コンプレックス、ライバル視していた子との友情、学校の近くに住むおばあちゃんの話、垣間見える大人の恋愛、病気、親の事業の失敗…。人生はいいことばかりではないけれど、悲観することはないよ、すべては自分の糧になるのだから、と作者が語りかけているかのように、物語の中の人々はすべてを受け入れていきます。
一九六〇年前後の中国の話ですが、自分たちの身近にもあふれている事柄ばかりです。
そして、この本を読むと、自分たちの日常も、また美しく見えてくるような気がします。
中国では児童文学として出版されたものですが、日本では中高年に人気が高いようです。
「僕の小さい頃に経験したことが、この本には沢山詰まっている」「自分が失いかけている何かがこの本には書いてある」等など、ノスタルジーを感じてくださる方も多くいらっしゃいます。
自分自身の読後感想は、こんなに分かりやすい文章で、こんなにありふれたエピソードで、どうしてこんなに泣かされるのだろう、ということでした。やはりほろ苦い記憶を呼び起こされるシーンが泣き所です。正直に申し上げれば、私は「サンサン」一冊で三回も泣いてしまいました。
そうして、ふと思い出した言葉があります。サン=テグジュぺリの「星の王子さま」の前書き。「そのおとなの人は、むかし、いちどは子どもだったのだから、わたしは、その子どもに、この本をささげたいと思う。おとなは、だれも、はじめは子どもだった」
児童文学というのは、子供向けに書かれた本という以上に、子どもと、そしてかつては子どもだった大人のために書かれたものなのでしょう。「サンサン」を読んで泣くのも、はっとするのも、しみじみするのも、かつては子どもだった頃の自分なのかもしれません。
ビジネス書も大事。啓蒙書も大切。専門書も必要。だけれども時に、子どもの頃に語りかけてくれる、そんな本もいかがでしょうか。