ヘルシンキの新しい図書館
小社はフィンランドの本を刊行しています。
毎年1度はヘルシンキに出張しますが、今年は夏至祭を過ごしてきました。
夏至祭は北欧でクリスマスに次ぐ大切なお祭り。
ほとんどの人が湖のほとりのサマーハウスに出かけていくので、街は少し静かになります。
夏のご馳走は、皮ごと食べる新じゃが、サーモンや酢漬けのニシン。
デザートには、採れたてのイチゴが出てきます。
夏至祭には玄関の両脇に白樺の若木を立てて飾ります。
若葉のついている枝を束ねて、サウナで体をたたくヴィヒタを作ると、いい香りが楽しめます。
上手な人が作り方を見せてくれました。
白樺には、いろいろな用途があります。
家具を作るのはもちろんのこと、樹皮は柔らかくて丈夫なので、籠を編むには最適です。
戦時中は樹皮で靴も作っていました。
ガムでおなじみのキシリトールは、白樺の樹液から採るってご存知ですか?
さて、街にもどって、大きな書店をのぞいてみました。
入口近くの台には本がたくさん平積みになっていて、「40% OFF」と大きく書いてあります。
フィンランドでは書店が本を買い取るので、安売りが可能です。
ずいぶん前の話ですが、1kgいくらという本の量り売りセールをやっていたこともありました。
これでは、じゃがいもと同じではありませんか !!
2018年12月、前年のフィンランド独立100年を記念して、
ヘルシンキに新しい図書館Oodi(頌歌という意味)が完成しました。
おそらく今世界で一番注目されている図書館ではないでしょうか?
17,250平方メートルという規模の、とにかく巨大で見事な公共建築物です。
1日の利用者は8,000~10,000人。
1階は映画館やカフェ、2階はワークショップとレストラン、
3階に10万冊の本、親子で読み聞かせを楽しめるスペースやカフェがあります。
2階は活動の場で、ミシン、3Dプリンター、作曲や録音のできるスタジオ、
料理教室が開けそうなキッチン、ミーティングルームなどもあり、
このあたりが日本の図書館とは全く違うところです。
12月にオープンすると、2日間で55,000人が訪れ、
12月だけでも本、CD、楽譜など66,000タイトルが貸し出されたそうです。
図書館の棚がほとんど空っぽになってしまうのですから、めったにない光景でした。
開館と同時に大人気のOodiですが、この図書館ができてからというもの、
ヘルシンキの他の図書館も大賑わいになり、朝から晩まで席がいっぱいで、
特に児童書の需要が増大したということです。
フィンランドでは、これまでも図書館がよく利用されていましたが、
この現象をいったいどうとらえればいいのか……。
Oodiは、国際コンペを経て、フィンランドの建築設計事務所
ALA Architectsのプランが採用されたものです。
設計者は「この図書館が、キッチン、仕事部屋、リビングルームのある、
市民の家のようになるといいと思う」と言っています。
本当に、その通りの建物になったと思います。
子供と一緒にソファーで本を読んだり、ミシンで繕いものをしたり、
たまには、友人とロック音楽を楽しんだり……。
司書と市民が十分な意見交換をして完成に至ったそうです。
ヘルシンキ市の文化・余暇担当者が「Oodiは、誰をも歓迎する平等で文化的な場であり、
私たちがどんな社会を望んでいるかについてのメッセージだ」と話していました。
「図書館はいかにして世界を救うのか」という市民の問いかけに、
美しく誠実に応えたのがOodiなのでしょう。
その結果、人々は、その快適な空間に身を置き、本を読むという喜びを思い出し、
本が人々の心にもどってきたのではないでしょうか。
建築の力はすごいです。
図書館とは?
本とは?
さらに、人間とは?
ここまで考えないと、日本の私たちの問題も解決しないのではないかと思いました。
最後にかわいいニュースを一つ。
Oodiには台車に大きな目がついたようなロボットが3つあります。
このロボットが利用者を本の場所まで案内してくれるそうです。
名前を公募したところ、10歳の子が提案したTatu、Patu、Veeraが採用されました。
3つとも人気絵本の登場人物の名前です。
大きな書店の児童書ベスト10の中に「タトゥとパトゥ」シリーズが3冊も入っていました。