協働する人たちの想いを胸に抱き働いている
お世話になっております。水窓出版の高橋と申します。
版元ドットコムには、今年の九月に加入したばかりの新規の出版社になります。今回「版元日誌」を書く機会をいただいたので、自己紹介代わりになるかわかりませんが、以前、私の就いていた仕事について少し書かせてもらおうと思います。
私は現在、「水窓出版」という屋号でひとり出版社をしていますが、過去に出版社に勤めた経験もなく、編集者未経験でこの事業を始めました。また、一所に落ち着かず転職も多かったので、まったく異なる業種を転々としていましたが、この事業を始める直前の職は、建材メーカーで営業職をしていました。
営業職なので、毎日客先をまわって注文を取ってくるのが本来の私の役割です。しかし、その業種独自のものか不明ですが、工場都合での商品の納期遅延、商品の不具合によるアフター対応、発注システムの入力ミスによる誤発注等、この他に私自身がやらかした失敗もありますが、やたらトラブルが発生することが多く、そして、問題が発生した場合には、概ね営業が対応するということになっていて、私が工場まで商品を受け取りに行ったり、スーツ姿で現場に行き作業したりするということもありました。その間、本来の業務である営業活動は一切出来ていないので、この行為はまったく褒められたものではありません。ただ、そのようなトラブルに対応していると、通常であればあまり接点が無い人たちとも接する機会が生まれます。商品を早急に出荷してくれた工場の人であったり、現場作業を手伝ってくれた職人であったり、本来なら顔も名前も知るはずのなかったただの同業種の人ですが、そこでお互いの顔を見て会話をすることで、今まで不明瞭に認識していた「同業種の人」という存在とは打って変わり、顔も名前も明確な一個人として相手を認識するようになりました。そのことに気付くと、自分が組織で仕事をしているという捉え方も大きく変わり、その人たちに対して恥ずかしくない仕事をするためにも、自分自身の役割をまっとうしなくてはならないと強く自覚するようになりました。また、図らずも商品を流通するのに多くの人たちが関わっていることに気付くきっかけにもなりました。
メーカーと出版社は今まで世の中になかったモノを生み出して、社会に流通させるという意味では似ていると思っています。そして、一つの商品を完成させるのに多くの人たちが関わっているということも、当然ですが同じです。そこには、大企業、零細企業等の会社の規模は関係なく、血の通った人間が一人一人存在していて、その人たちの確かな仕事によって、一つの商品が出来上がり、世の中に流通し、日々の生活を送る人々の手に渡っていくのだと思います。
私も出版社を始めた当時、多くの人たちに助けられて、なんとか一冊の本を完成させることができました。そして、書店に直接出向いて本の紹介をすることで、快く取り扱いを引き受けていただいた書店も数多くありました。ひとりで始めたこの仕事ですが、ひとりでは何も出来ないということを強く実感します。また、過去に一切実績の無い小社ですが、それでもお力を貸していただき、応援していただいた皆様には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。今はひとりで作業することがほとんどですが、常に協力してくれた人たちの顔を思い浮かべながら、今後もこの仕事を続けていきたいと思っています。
最後に取ってつけたような形になりますが、小社の刊行一点目『ミッドワイフの家』(著者:三木卓)は現在発売中です。どうぞよろしくお願い致します。