堀淳一さんをご存知ですか?
堀淳一さんをご存じですか?
堀さんは1972年、『地図のたのしみ』(河出書房新社)で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した、地図エッセイストです。
1960年代から廃線跡歩きを始め、北海道大学物理学部教授を務めながら北海道内はもちろん日本全国、さらにはヨーロッパの地図歩きを続けてきました。
1980年には定年退官を前に職を辞し、札幌に居を構えながら文筆業に専念。その著作の数は、実に100冊以上に上ります。
そんな堀さんが、札幌で出版業を営む小社の依頼に応じて初めて書きおろしてくださったのが、2012年に刊行した『地図の中の札幌』です。企画した小生が執筆のお願いにうかがうと、堀さんはその場で書き下ろしを引き受けてくれました。
約180枚の地図を駆使して札幌の歴史と変遷を綴った本書は、本体6,000円という価格にもかかわらず2,000部を完売。このとき86歳だった堀さんの健在ぶりを、世に知らしめました。
その後、2014年に新旧地形図のべ200枚でJR北海道全線を案内した『北海道 地図の中の鉄路』を刊行。そして2017年12月1日、〈地図の中三部作〉
の掉尾を飾る最新作『北海道 地図の中の廃線』
を刊行することができました。
本書は、廃線歩きの元祖として知られる著者が、道内旧国鉄の廃止28路線を廃線直後に歩いた日々を、のべ220枚の地形図で追想したシリーズ完結編です。
しかし、本書の最終校正に目を通した堀さんは、2017年11月15日、完成品を見ることなく91歳で急逝されました。発売前に著者が亡くなるという小社にとって初めての事態に、ただただ茫然とするしかありませんでした。
そして、去る2月17日に開催した「堀淳一さん偲ぶ会」を無事終え、ようやく堀さんとのお別れを済ませることができたように感じています。
徹底した天邪鬼で、趣味は地図歩きと読書。気難しい一面を持ちながらも、その気取りのない人柄は多くの人に愛されました。邪気のないチャーミングな笑顔が、ありありと浮かんできます。
「わたしの一番売れた本は、地図の本じゃないんです。講談社ブルーバックスの『エントロピーとは何か』なんですよねえ」と、いたずらっぽく話された堀さん。
その諧謔の精神は、遺作となった「地図の中の廃線」で侘びさびの境地にまで昇華されました。まるでレールの残照と廃墟の風景に、自らの人生を重ねたかのように。