点が線となって面になるとき
こんにちは、KISSA BOOKS の瀧本です。今回初めて版元日誌を書かせていただいています。KISSA BOOKS は2022年より出版社としてスタートしました。2012年よりオープンしている東京の浅草橋にあるgallery kissaというギャラリーを通し、彫刻家はしもとみおさんや、作家の井上奈奈さんと繋がりを持ちました。
井上奈奈さんには絵本創作のワークショップをしていただき、その影響を受けたことで、主に絵本を出す出版社を立ち上げました。現在、井上奈奈 著「ウラオモテヤマネコ」新装版、はしもとみお著「おもいででいっぱいになったら」「トゲトゲ」の3冊を刊行しています。
「KISSA」はフィンランド語で「猫」という意味です。ギャラリーを立ち上げたきっかけは、アメリカに留学中に「Pete the Cat(ねこのピート)」という青い猫の絵を見て一目ぼれしたことです。日本に帰国後に原画を買い付けて、原画やプリント画を販売するギャラリーを立ち上げました。ギャラリーの名前は、「猫」を入れようと思っていたのと、ちょうど絵のモデルである猫のPeteが作家のコーヒーを舐めるというエピソードもあったので、gallery kissa にし、コーヒーも出すギャラリーにしました。
ギャラリーオープンの年、留学時に購入していたPeteの絵本「Pete the Cat: I Love My White Shoes」があり、絵はもちろんのこと、ストーリーも良かったので、高校時代の友人でひさかたチャイルドの編集者に翻訳出版を持ちかけました。今思えば、これが絵本出版との最初の関わりになります。この翻訳絵本「ねこのピート だいすきなしろいくつ」(ひさかたチャイルド)は、ベストセラーになっています。
ねこのピートは、現在シリーズで5冊刊行されていて、それぞれの翻訳時にアドバイスのような形で微力ながら携わっています。
KISSA BOOKSを立ち上げた直接的なきっかけは、冒頭でも書きましたが、gallery kissa で2019年2月より始めた作家 井上奈奈さん(昨年、「PIHOTEK」で日本絵本賞の大賞を受賞)の「絵本創作ワークショップ」です。井上奈奈さんが絵本づくりで大切にされていることをまとめた「星に絵本を繋ぐ」(雷鳥社)の制作にも関わり、刊行後に元雷鳥社で編集をされ、現在フリーで編集者をされている谷口香織さんと再会したことです。谷口さんには、KISSA BOOKSの編集を行っていただいていて、谷口さんがいなければ出版社を立ち上げていなかったと思います。
KISSA BOOKSより最初に刊行した「おもいででいっぱいになったら」と、昨年11月に発売した最新刊「トゲトゲ」は、彫刻家 はしもとみおさんによる絵本です。はしもとみおさんとはギャラリーをオープンした年に出会い、2014年に個展をさせていただいて以来、現在も継続してギャラリーで個展やグループ展をさせていただいています。出会い当時のことは、コミックのエピソードにもなっていて、はしもとみお彫刻日誌 (ねこぱんちコミックス)に載っています。
最新刊の「トゲトゲ」は、2014年の個展の時に教えていただいた絵本です。同名絵本が新風舎より発行されていたのですが、その時点で廃業されており、絶版になっていました。教えていただいた方によると、「トゲトゲ」には原作があったが、新風舎の当時社長の松崎氏により手を加えられていて、「マツザキ ヨシユキ (著)、はしもと みお (イラスト)」という形で出版された絵本だということでした。原作の「トゲトゲ」と新風舎版を比べると、明らかに原作の方が良かったので、何とかしてこの原作を出版できないかという思いが強まりました。しかし、いくつかの出版社に企画を持ちかけたものの残念ながら採用されませんでした。(ただし、このときの出会いをきっかけに、「はじめての木彫りどうぶつ手習い帖」(はしもとみお著・雷鳥社)の出版や編集者の谷口さんとも繋がることができました)
そんなこともあり、出版社を立ち上げたときに、最初に出版したいと思ったのが「トゲトゲ」です。さっそくはしもとみおさんに連絡すると、タリーズジャパンより出版されていた「神様のないた日」が長らく増刷されず絶版状態で、この絵本をとても大切にしているので「トゲトゲ」より先に復刊したいとの返答でした。タリーズジャパンから再販について快諾いただけたこともあり、「神様のないた日」を先に進めることになりました。「神様のないた日」というタイトルは、出版時に編集者が付けたもので、元々は「おもいででいっぱいになったら」だったそうです。タリーズジャパンの編集者には「オリジナルタイトルでは絶対に売れない」と言われ、変更になったそうですが、はしもとみおさんと編集の谷口さんの猛プッシュにより、オリジナルタイトルで勝負することにしました。正直不安はありましたが、せっかく KISSA BOOKSで再販するのであれば、作家の想いを重視したいと思ったからです。復刊ですが、絵はすべて新たに描き下ろして、文章も出版前のオリジナルに近づけて編集しなおしています。
2冊目の井上奈奈著の絵本「ウラオモテヤマネコ」(新装版)も色々とドラマがあり、とても大切な絵本なのですが、これはいつかまた。
出版3冊目の絵本「トゲトゲ」は、ある意味 KISSA BOOKSの原点とも言える絵本です。装幀は「おもいででいっぱいになったら」に続いて名久井直子さんに手がけていただきました。名久井さんは2010年の情熱大陸の放送で拝見して以来、ずっと憧れだったブックデザイナーです。もし、10年前「トゲトゲ」の出版の売り込みをして、どこかの出版社で出してもらえたとしても、今のようなベストな形にはならなかっただろうと思います。今回は特に印刷の色にこだわりたかったので藤原印刷にお願いしました。はしもとみおさん、名久井さんと共に松本の工場まで印刷立ち合いに行き、印刷の仕上がりを見届けました。
今月からスタートする全国さまざまな書店をめぐる「はしもとみお巡回展 いきものたちの物語」で、「トゲトゲ」の原画や彫刻を展示します。巡回最初の書店は、昨年久留米市に2号店を出された MINOU BOOKS 久留米店です。期間は、1月27日(土)〜2月12日(月)。「はじめての木彫りどうぶつ手習い帖」(雷鳥社)の見本彫刻や、はしもとみお彫刻日誌 (ねこぱんちコミックス)に登場する、自分の愛猫タラちゃんの彫刻も展示します。
また、「トゲトゲ」の出版と同じ昨年11月に、はしもとみおさんは、内田麟太郎氏と共著で、絵本「ともだちのなまえ」(教育画劇)を出版されました。彫刻を使った絵本で、こちらの彫刻も巡回予定です。
巡回展の詳細はリンク先 https://kissabooks.com/miohashimoto2024でご確認ください。九州から北海道まで日本全国13店舗の巡回が現在決まっています。なお、2024年12月、2025年2月は現在募集中ですので、もしこの版元日誌をお読みいただき、巡回展開催に興味がある書店がございましたら、ご連絡ください。巡回展リストにない都道府県であればなお嬉しいです。
今回の巡回展では、内田麟太郎さんの地元で深いつながりのある「大牟田市ともだちや絵本美術館」という、大牟田動物園内にある美術館も巡回予定です(2024年9月)。実は、大牟田動物園には職員で研究者の冨澤奏子さんという方がいて、タンザニアでティンガティンガというペンキで動物を描く技法を学ばれ、作品の個展をgallery kissaで行ったこともあります。冨澤さんに美術館でのはしもとみおさんの彫刻の展示を持ちかけていただきました。それが絵本「ともだちのなまえ」の出版を知る前のことだったので、少し驚きです。
色々なところで点として繋がっていたものが、時を経て線で繋がり、全国の巡回展では面で繋がれる。そんなことを出版社を始めたことで感じています。出版を通じて色々な人や社会と繋がりができ、様々な専門家や職人の方に支えられ構築される本という媒体に特別な魅力を感じています。まだ駆け出しの出版社ですが、今年は海外展開という野望もあり、2月の台北ブックフェアへ売り込みに行く予定です。
ギャラリーでは作家の井上奈奈さんに、現在でも創作絵本ワークショップを行っていただいていて、このワークショップが参加者にとっても、自分自身にとっても大切な時間になっています。2月には、第9期生の絵本作品展、4月はアドバンスコースという、さらに踏み込んだ絵本作品の展示をgallery kissaで予定しています。ぜひ絵本作品展に、お立ち寄りいただけると嬉しいです。特に絵本出版の編集者の方に見ていただきたいです。また、ワークショップに興味のある方は、オープニングに行われる作家による読み聞かせと講評会に参加されることをお勧めします。とても刺激を受けると思います。
現在KISSA BOOKSでは、井上奈奈さんの「絵本を建てる」というタイトルのエッセイ集の刊行を5月頃に予定しています。井上奈奈さんが手がける本だけに、あっと驚く仕かけを用意しています。そのほか、2024年中に創作絵本ワークショップに参加された方の絵本も2冊出版予定です。ここまで書くと、本をどんどん出版して楽しいことばかりと思われると思いますが、やはり出版は他の出版社同様(ですよね?)、資金繰りが大変です。この版元日誌を読んでKISSA BOOKSに興味を持っていただけたら、1冊からでも直販していますので、ご注文お願いします。もちろん取次からでも注文可能です。細々でも、末永く世に残る本を作り続けたいと思っていますので、今後ともどうぞよろしくお願いします
KISSA BOOKS ロゴは、井上奈奈さんに手がけていただきました。ロゴの黒猫は、コニちゃんというgallery kissaの看板猫がモデルです。
gallery kissaのコニちゃんと、タラちゃんの彫刻