時代の問題に対してポジティブな建築的解決手法を紹介する
ユウブックスの矢野優美子と申します。
2016年に立ち上げ、現在まで13冊の書籍を刊行しました。
領域はざっくりと「建築・アート・地域の文化」とし、設立当初はとにかく、建築専門出版社勤務時代にはできなかったような、やわらかいテーマだったり、建築以外のもの、いろいろなものをつくりたいとフワフワと思っているばかりで、明確なテーマは見つけられていませんでした。
一方で版元立ち上げにも関わらず、なかなか依頼した原稿が集まらずにいたため、自分さえ動けば形になるという苦肉の策として、若手建築家に自ら取材し、原稿をまとめたインタビュー集をつくることにしました。しばらくその手法を続け、現在まで刊行した13冊のうち、4冊が純粋なインタビュー集、2冊が取材をもとにまとめた本となっています。最近はようやく版元としての信頼が生まれたのか、原稿が集まりやすくなってきました。
このように著者との出会いによって生まれるテーマというよりは、自分で調べていかないと内容の見えてこない取材系の本を続けて手がけていくうちに、立ち上げから5年ほど経った頃から、ようやく自分の関心のありかが見えてきたように思います。
現在では、「建築・アート・地域の文化」という領域のなかで、より社会との関係性を見つめ直し、大袈裟に言えば社会的な時代の問題に対してポジティブな解決手法を提案する版元でありたいと考えています。
2022年4月に刊行した『小商い建築、まちを動かす!』
は、働き方の変化に伴って増えてきた、副業のような小さな商売を行えるスペースをもつ建築を取り上げています。
日本では建築基準法によって、地区ごとに住居や店舗、工場など、建てられる建物の用途がガチガチに決まっていて、たとえば第一種低層住居専用地域では店舗は建てられません。しかし住居と兼用であれば、50m²以下かつ建築物の延べ面積の1/2未満を店舗スペースにすることができます。
新興住宅地などでは商店街以外、兼用住宅が最初から建てられることはあまりなく、閑散として淋しすぎることがあります。しかし上記のルールを適応して、住宅や集合住宅の一部を店舗やアトリエ、シェアスペースなどにうまく改修することができれば、引っ越しや転職などで現状を大きく変えることなく、住人が新しい生活を始めることができます。
このように小商い建築にはコミュニケーションの機会を創出したり、お金のかからないリクリエーションとして生きがいを提供したり、地域経済を活性化するような大きな動きにつなげられる可能性さえあります。
また今年2月に刊行した『わたしのコミュニティスペースのつくりかた』
では、小商い建築や民営図書館のような、自分流コミュニティスペースづくりのハウツウを紹介しました。
これからも「少しでも楽しく生きやすい社会になるようなポジティブな提案」を目標に据え版元としての活動を続けたいと思っています。