ブルーシープはこんな会社です
18年続けてきた書店員を辞め、ふらりと無職のまま東京に来ました。児童書に関わる出版社で働きたいと思いながら2年経った去年、ブルーシープの求人を知って応募。
正直、面接に行った時は、どんな会社かあまりわかっていませんでした。でも、その時にjunaidaさんの絵が好きだと話したら、「展覧会やるよ」とさらりと言われ、働きたいなぁという思いでいっぱいになって帰ったことを覚えています。
ブルーシープは出版社ですが、展覧会制作がメインで、その手がけた展覧会の図録を企画・出版している会社です。東京・立川のPLAY! MUSEUMで開催される展覧会関連書は、ブルーシープから出版しています。
出す本が決まると、書籍担当である私に情報が来て、告知や販売に向けての準備が始まります。
ある程度できあがった本を見て、元書店員目線でいつも思うことがあります。
この本の置き場所、きっと困るだろうなと。
例えば、この本。
『柚木沙弥郎 life・LIFE』は、柚木さんの染色作品を大迫力で楽しんでもらうためにA3変型という大きさで作った図録です。原寸大の染色作品が片観音の外側にあしらわれていて、そのページをひらりとめくると、全体の佇まいが現れて楽しめるという仕掛け。
すごい!と一読者として驚いたすぐ後、書店で置かれる姿を想像します。もちろん購入していく人の姿も。この大きさの本が入る袋、書店にあるかな。新刊の時は頑張って置いてくれるとして、既存の棚には収まらないから新刊の時期が終わったら返品の可能性高そうだなと、不安がふつふつ。
次に『ぐりとぐらのたまご』。子どもの頃に読んだ『ぐりとぐら』シリーズは、大人になってからもこんな楽しみ方があると提案するポケットブックです。[ぐりとぐら]とタイトルについているけれど、内容は完全にライフスタイル本。
『ぐりとぐら』のミニ版みたいで可愛い。帯もカステラ色!とはしゃいだ私ですが、うーん…内容を見ると児童書担当者は置きたがらないかも? そして、ライフスタイル本を扱う実用書担当者も、いやいや『ぐりとぐら』は児童書でしょ、と並べてくれない気がする。
など、ブルーシープの本は書店泣かせというのが、身に染みてわかってきました。
営業、むずかしい。
書店員は本を注文する時、自店の客層に合うか、どの場所に置くか、どういう風に展開するか、それには何冊必要かなどを、わりと瞬時に判断して発注をしています。
その時に想像しにくい本は、ジャンルのたらいまわしになったり、新刊配本で内容見てからでいいかと判断されてしまいます。(注:ブルーシープは新刊配本をしていない出版社です)
でも、その置きにくいと思うポイントが、ブルーシープの強みであり、個性!
置きたいという気持ちが置きにくいを超えさせるような営業って?
まだまだ試行錯誤しています。
そして、今言ったことと正反対になりますが、ジャンルがわかりにくいからこそ、売りやすいという側面もあります。
ブルーシープのロングセラー『かえるの哲学』は、アーノルド・ローベルの[がまくんとかえるくん]シリーズから、選りすぐった言葉をまとめたポケットブックです。小学校の教科書で、ふたりの物語を楽しんだ方も多いと思います。
この文庫サイズのポケットブックは、児童書・芸術書(画集)・文芸書(ギフトブック)・文庫と、どんな場所でも置いてもらえます。この4ジャンルの担当者のうち、誰かひとりでも気に入ってくれたら、そのお店に並べてもらえる。だからこそ、ずっと売れ続けているのかもしれません。
4月に発売した『コジコジにきいてみた。モヤモヤ問答集』は、親本がコミックなので、コミックで置かれていることが多いのですが、あるお店で気に入ってくれた文庫担当の方が、集英社文庫のさくらももこさんのエッセイと一緒に展開してくださいました。売れたからとなんと追加まで!その柔軟な発想に嬉しくなりました。
ジャンルを飛び越えて、置きたいと思ってもらえた成功例です。
さて、ここで元書店員が出版社に入って驚いたことをふたつ紹介します。
まずひとつめは、新刊案内を作れるのが遅いこと。本を出すことは決まっているけれど、金額や発売日が未確定。だから、案内が発売の2・3週間前になることが多いです。
書店で働いていた時、新刊の案内は1・2ヵ月前に情報が入ってきていたので、そこが最初の頃すごく不思議でした。
なぜ遅くなるかというと、その時々で原因はさまざまですが、ブルーシープでは、展覧会担当が外部の編集者と協力して作っているという流れがあります。展覧会制作と同時進行になるため、書籍だけに注力しにくい。
ここでも、展覧会にあわせて図録を企画・編集し、手元に置いておきたいと思ってもらえるような本を作る、ということに対してのメリットとデメリットが交錯しています。
ただ、新刊にあわせてのフェアやコーナー作りを提案することを考えると、やはり早めにお知らせしたいというのが書籍担当としての本音だったりします。
ふたつめは、コピーライトです。
本来は注文書やPOPなどにも必要になってくる著作権の許諾。あることがあたり前すぎて、自分が入れる側になるまで気づいていなかった【©】マークなどの表記。書店員時代、POPを作る時も、販促用として黙認・許容されているということは、なんとなく知っていたせいか、まったく気にせず。表紙をカラーコピーして人物だけカットして貼り付けたり、吹き出しつけたりと好き勝手にやっていました。
今は、キャラクターものを見ては、なんとなく【©】をチェックしてしまうようになりました。
10月、私が待ちに待ったjunaidaさんの本が出ます。
PLAY! MUSEUMで開催されるjunaida展「IMAGINARIUM」の展覧会図録です。もちろん、ブルーシープならではの特別なギフトページもあります。それはめくってのお楽しみと言いながら、9月29日現在、私もまだ現物を確認していないので、本のできあがりをすごく楽しみにしています。
先日、junaida展のグッズ撮影があり、サンプルを見ましたが、どれも可愛い。すごく可愛い。どれだけお金使うんだろう?と思ってしまうくらい、可愛いです。
気になる方は、ぜひPLAY! のHPをチェックしてみてください。
https://play2020.jp/article/junaida-goods/
面接の時の「junaidaさんの展覧会やるよ」から1年と4ヶ月、働いている会社から、自分の好きな画家さんの本を出せるってすごい。原画も素敵だなぁと読者として楽しんでいた頃の自分に教えてあげたい。ひとつ夢が叶ったような、そんな気持ちでいます。
そして、次の夢。
書店員の時に叶えられなかったことを形を変えて実現したいと、ひそかな野望を抱いています。
入社して1年ちょっと。ブルーシープってどんな会社?と聞かれたら、やっと、こう答えられるようになってきました。
「やってみたいことをきちんと伝えられたら挑戦できるところ。ワクワクするし、同時にプレッシャーも感じられる自分を試す場所」
ひと言で紹介するなら、「発展途上中」です。
会社のみんなで、一緒に作りあげていく感じがたまらなく面白い。書店員をしていた頃のあくせくと頑張っていた楽しい感覚を久々に感じています。
ブルーシープはこれからも、「ありそうで、ないこと」を、展覧会と本でお届けしていきます。
そして、私もその届けるひとりとして成長していきたいです。