版元ドットコム

探せる、使える、本の情報

文芸 新書 社会一般 資格・試験 ビジネス スポーツ・健康 趣味・実用 ゲーム 芸能・タレント テレビ・映画化 芸術 哲学・宗教 歴史・地理 社会科学 教育 自然科学 医学 工業・工学 コンピュータ 語学・辞事典 学参 児童図書 ヤングアダルト 全集 文庫 コミック文庫 コミックス(欠番扱) コミックス(雑誌扱) コミックス(書籍) コミックス(廉価版) ムック 雑誌 増刊 別冊

真実と正義と美の化身、シン・ウルトラマン

「成田亨氏の描いた『真実と正義と美の化身』を観た瞬間に感じた「この美しさをなんとか映像に出来ないか」という想いが、今作のデザインコンセプトの原点でした。」

 
 こう語るのは、庵野秀明さん。企画・脚本を務めた映画『シン・ウルトラマン』公式サイトの「シン・ウルトラマンの姿」に掲載されたコメントの冒頭部分です。コメントの日付は2019年12月11日。
 いまやコロナ禍が久しく、自分たちがいったいいつからマスクを着けはじめたのかも忘れてしまいそうな昨今ですが、新型コロナウイルス感染症パンデミック前夜の2019年12月、映画『シン・ウルトラマン』は公開にむけた情報を解禁しました。
 しかし、2020年春からのコロナ禍に遭遇し、公開日は明らかにされないまま時がすぎ、2020年11月になってようやく2021年初夏の公開決定が発表されました。さらに、長引く流行は制作スケジュールにも大きく影響し、その決定も2021年3月にいたって撤回、延期を余儀なくされます。そしてついに、「新特報映像解禁」として予告編とともに公開日が発表されたのは、2021年12月13日のことでした。最初の庵野さんのコメントから丸2年が経っていました。

 成田亨さんがデザインした “ウルトラマン”、「真実と正義と美の化身」がどんな姿であらわれるのか、いつかいつかと待ちわびてきました。
 私が「成田亨」(なりたとおる)という人物に出会ったのは、2013年のこと。2014年から富山県立近代美術館を皮切りに福岡市美術館、青森県立美術館を巡回した、3館による企画の大規模回顧展「成田亨 美術/特撮/怪獣」の公式カタログ制作に版元として参加したことが縁です。
 ご本人は2002年に亡くなっておられ、直接お会いすることは叶いませんでしたが、遺された幾多の作品や資料、ご家族から聞く人となり、熱意あふれるデザイナーや学芸員の方々とのやりとりのなかで、その姿や振る舞い、発想・思考の過程、作品が生み出されていく様を少しずつ思い描いていきました。
 展覧会の構成にそくした内容ではありますが、編集として、1冊の本にできるだけ大きく、さまざまな層をもった「成田亨」の姿や、歩んだ時間を刻もうと、工夫できることを精一杯注ぎこんたように記憶しています。

 当時、展覧会の図録を兼ねた書籍として刊行した『成田亨作品集』は、会場や書店で多くのファンに受け入れてもらい、初刷はすぐになくなりました。会場では親子連れも多く、次世代に受け継がれていく様子もうかがえ、楽しい雰囲気だったのが印象的です。ただ作品集は、2刷も展覧会終了後ほどなくして売り切れとなり、収録作品515点、B5判400ページという大部な本であることからなかなか重版が叶わず、長らく品切れにしてしまうことに。
 そこに、映画『シン・ウルトラマン』制作の情報が入ってきました。これをきっかけに、重版ができるかもしれない。成田亨さんの作品をもっと広く、多くの人に知ってもらえるかもしれない。そう考え、障壁だった定価を上げ、2021年8月に増刷を行いました。カバー・帯も新装し、先代ジャケットを飾ったピグモンから、1983年に描かれた「真実と正義と美の化身」にバトンタッチしたのです。


成田亨作品集

 成田亨さんは、『ゴジラ』(東宝、1954年)の制作現場に美術スタッフとして手伝いに駆り出されたことから特撮美術・映画美術の道へ入り、ほどなくテレビにも声がかかって、「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の怪獣や宇宙人、セットやコスチュームにいたるまでをデザインすることになります。
 あまり知られていないのは、そもそも成田亨さんは彫刻家・美術家であり、着実に作品を生み出していた作家であったことです。その裏付けがあっての造形美でした。ウルトラシリーズの原画にはすべて署名が入れられ、大事に残されたことをみても、一貫した姿勢がわかります。
 映画公開をきっかけに、ウルトラマンや怪獣をデザインした成田亨がさらに一般の方にも知れ渡ってほしいと同時に、「芸術家・成田亨」のことをもっと知ってほしい、そう強く願います。

 5月13日、公開初日の夜、『シン・ウルトラマン』を観ました。「成田亨」の造形美が凛としたかたちを持って動いていることに感激し、シン “ウルトラマン” にかける制作陣・出演陣の底知れぬ熱量にうたれながら観終えたあと、エンドロールにオリジナルデザイン「成田亨」の名前が刻まれているのをみて、さらに感慨深いものがありました。
 感傷じみた言い方をしてしまうのは、「ウルトラマン」という作品が色濃く帯びた時代性や、「シン・ウルトラマン」を通して現代・未来へ見出される意義の深みに、「成田亨」という一人の芸術家の生涯や時代性も重ね合わせてしまうからかもしれません。
 
 映画の面白さは、ぜひ映画館であじわってください!
 『成田亨作品集』は、映画の楽しみ方を広げ、深めてくれます。これもぜひお手元に!

羽鳥書店の本の一覧

このエントリーをはてなブックマークに>追加