あくまで、自由研究の一環として
わたしは2019年8月31日、自由研究を発表するためのインディーズ雑誌『つくづく』を創刊し、同時に休刊を宣言した。雑誌とは定期刊行物であるが、個人で定期刊行は難しい。
それであれば、創刊と同時に休刊を宣言してしまえばいいのではないか。しかし、数ヶ月後にはしれっと復刊を遂げ、現在までに通算“25号分の雑誌”を刊行している。
これまでに出した号は、実験的というよりも、前述のような詭弁、強弁でもって「これは雑誌であると言い張ってきた」といったほうがわかりやすいかもしれない。たとえば『つくづく』vol.4(特集:『雑誌記者』)は、2000字ほどの文章を印刷したB6のコピー用紙が本誌であり、土曜社版『雑誌記者』を付録とした。『つくづく』vol.6(つくづくのタオルブック)では、タオル自体に文章を印刷。数冊の小冊子とポストカード、栞を付録としている。どちらも、雑誌の付録について考えた自由研究の一環である。
『〇〇BOOK』と称してマスクやタオル、バッグなどの雑貨をセットにした書籍は、申し訳程度に8ページほどの冊子が入っていることが多い。では、その小冊子が本なのか。大型付録とセットの雑誌は、一体どちらがメインなのか。コードを取得し、書店や書店に並べば書籍とみなされるのならば、インディーズで同じことをやっても書店側は受け入れるのだろうか。
別に大きな声で「これって変じゃない?」と言いたいわけではない。実際に自分でもやってみて「ああ、なるほど」とか「やっぱり変ですよね〜」と、小声で問いかけたいだけ。問いかけてすらいないかもしれない。独り言のようにブツブツ言ってる声が、たまたま近くを通ったひとの耳に入る。そのひとは、聞くともなく聞いてしまったつぶやきに「ああ、そういえば……」と思いを巡らす、かもしれない。
代官山蔦屋書店で新刊フェアを開催したときなど、同フェア自体を『つくづく』vol.17(特集:東京都渋谷区猿楽町17-5 代官山蔦屋書店2号館 1階 マガジンストリート)とした。以下、店頭で配ったステートメントの一部を抜粋してみる。
「雑誌の持つ『編集部が発信した情報によって、読者の行動を促す』という部分にフォーカスする。次にブックレビューという編集方針について考えてみたい。編集部ないし選者が『おすすめの本』を紹介した記事の先にある行動は、読者が書店に赴き、紹介された本を買う。または、紹介された本を求めて行った先で異なる本に出会う、だろう。この立て付けに入るものは、映画でもレストランでも、なにかしらの新作アイテムでもいい。雑誌の記事を活用して、顧客の態度変容をいかに促すか。
『つくづく』vol.17では、〈記事で紹介し、その先で向かう〉はずの「場」それ自体を〝特集〟している。
あなたが『つくづく』vol.17と題された書店フェアを目的に訪れていようと、たまたまその場に足を運び、結果として書店フェアを目撃しようと、それは『つくづく』vol.17を読んだということであり、なにかしらの雑誌を買って帰ったとすれば、『つくづく』vol.17が顧客の態度変容を促したと言える。つまりこれは、『マーケティング』について考えた自由研究の発表、でもある」
つまりそういうことだ。と言われてもよくわからないと思うが、すこしだけ社会を巻き込みながら、あくまで個人的な範囲で「雑誌ってなんだろう」と考え続けている。
(ステートメント全文を掲載したpdfはこちら から無料でダウンロード可能。なお、リンク先の通販サイトが『つくづく』vol.3で、掲載するバックナンバーが雑誌における記事という立て付けとなっている)
ちなみに、代官山蔦屋書店でフェアを開催するに至ったのは、唯一、版元ドットコムに登録している『つくづく別冊① 』(特集=友だちと互助会)という号の存在が大きい。
Chim↑Pomのエリイさんとその友だちが新宿を彷徨う巻頭グラビアにはじまり、雑誌『Spectator』編集長の青野利光さんと「PEOPLE BOOKSTORE」店主・植田浩平さん。AV女優、文筆家の戸田真琴さんと少女写真家の飯田エリカさん。文筆家の能町みね子さんとサムソン高橋さん。ワハハ本舗主宰・喰始さんと実録・体験ノンフィクション漫談芸人のコラアゲンはいごうまんさん、などなど。モデルとカメラマン、師匠と弟子、家族/夫婦など様々な関係性の方々に、「友だちってなんですか?」「みなさんの関係性は互助会ですか?」と聞いて回り、対談集としてまとめた。
上記の企画を代官山蔦屋書店の担当者に伝えたところ、「豪華なメンバーですね。バックナンバーふくめて、フェアをやりたいですね」という話になった。「だったら、フェアを雑誌に見立てましょう」ということで、前述のフェア(雑誌)を開催(刊行)するに至った。
会員になった理由はいくつかあるが、取次の方に「版元ドットコムって何ですか?」と聞いたところ、ある部分では互助会のようだと教えてもらったことが一番かもしれない。事実、日々やり取りされるメーリングリストはまさに互助会のようで、出版活動を続ける上でこんなに便利なものはない。同時に、それを一切活用することなく、また誰の問いかけにも答えられない自分がメンバーに加わっていることに申し訳なさも感じている。
わたしにとって、版元ドットコムの会員であることは、アマチュアがプロ用のツールを利用するような、社会科見学のようなもの。ひとり出版社でもひとり出版レーベルでもなく、書店を営んでいるわけでもない。一介のフリーランス編集者が会員になった理由をどう説明したものか。また、こんなことを書いて怒られやしないかと思案していたら、締切を大幅に過ぎてしまった。事務局ご担当者、大変申し訳ございませんでした。
今後も「雑誌とは何か」「メディアとは何か」をテーマに自由研究は続くが、版元ドットコムに登録すべき新刊が出る予定はない。それでもいつか、メーリングリストで諸先輩方に質問させていただくときがきたら、その際は御指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。
ちなみに、屋号は「Tidler(タイドラー」)と読みます。怠け者を意味する「Idler」と「怠惰」をあわせた造語なので、誰も読めません。もともとは同名の雑誌創刊を目指して頓挫。個人事業主としての屋号として使用していますが、真面目に商業出版を行う際には、もっとわかりやすい名前に付け替えます。