タイとの関わりかた、いまむかし
日本タイクラブ。大阪に母体のある、全員が完全なるボランティアで構成された設立26年目の日タイ民間親善団体です。貧困や親の薬物使用など家庭に事情のある子どもたちが通うタイの学校との交流や、在日タイ人留学生を天神祭に招くなどのさまざまな草の根活動を続けてきました。留学や駐在等で在タイ経験が会員の中でも長い部類に入る私ですが、ほかのみなさんのタイに対する愛情や熱意にはとてもかなわないと感じながら、日本とタイの親善のために長らく尽力してきたこのクラブの末席として帰国後もタイと関わっています。
そこで活動していて、タイと関わりを持とうとする日本人について感じた変化があります(日本人だけではないかもしれませんが、ここでは日本人について書きます)。たとえば、以前ならタイ好きの人びとは書籍や、タイクラブのようなタイ関連の交流団体、観光協会に問い合わせたりすることでタイに関する情報を得てきました。そこから広がる縁も多かったように思えます(私自身も、タイ語についての問い合わせをすることでタイクラブと関わりを持ちました)。タイの情報を得るということはタイという国に対しての情報入手だけでなく、タイになにかの形で関わりたいと考える人びと同士のつきあいにもつながっていたのです。それが最近では、それらの情報源のほとんどがインターネットに取って代わられるようになりました。
自宅にいてPCやスマートフォンでかんたんに情報が手に入るというのは、たしかに便利だと思います。インターネットが普及する前は、観光協会や商工会などに電話をしなくては情報というものはなかなか手に入りませんでした。たとえば タイ事典 のような専門書籍はもちろんのこと、タイの基礎知識
のような基本的な情報書籍も、入手しやすい大都市はともかく、地方では書店に並ぶ種類も少なく、それ以前の問題として新刊書籍の情報自体がリアルタイムで伝わってくることもまれでした。ですから、インターネットが普及して情報入手がしやすくなったこと自体を批判したり批難したりするつもりは全然ありません。
ただ、さみしいのです。同じようにタイを好きな人間と積極的に関わることなく、情報だけをインターネットによってたくさん仕入れた者がタイを訪れ、現地で日本人やタイ人のだれと触れあうこともないままいわゆる「現地のひと向け」「通向け」の食べ物や景色をブログに載せ、タイをわかったような気持ちになっている。ぜんぶがぜんぶではもちろんありませんが、それらをPCのディスプレイ越しに眺めているのはほんとうに、さみしい。タイについて、ディープな話題でなくてもいいからだれかと語り合って、血肉のかよう情報を共有したり共感したり。そういうこともタイと関わるということの醍醐味のうちであると信じたいのです。インターネット以前を生きてきた人間の繰り言かもしれませんが。
なお冒頭に書いた日本タイクラブですが、長年事務局長を務めてきたかたが2月に心不全で急死しフルタイムでの活動の継続が困難になったということと、おもに若い世代の会員減少のため、いったんその歴史に幕を引くことになりました。新しい組織としてのスタートは未定ですが、いままでのようにたくさんのタイ好きが集う活動の場となることを願ってやみません。