イザラ書房のこと
限りある人生の中で、自分にとって大切な仕事はそういくつも出来るわけはなく、自分から捕まえに行く場合もあれば、向こうからやってくる場合もあるというもので、イザラ書房は、まさにそれでした。
イザラ書房のこと
長く社主を務めていた妹が、会社の規模を縮小して本社を実家に移し、ひとりでイザラ書房を背負っていく決心をした数年前、そういった一連の経緯の手助けをした私は見かねて仕事の゛手伝い゛を申し出て、それがイザラ書房とのかかわりの一歩でした。
その妹が2013年6月から修道院に入り、世俗から離れた生活を始め、私が代わって社主になったわけですが、修道院からの許可が出るのは2~3年後かと思っておりましたので、姉妹でのんびり構えていたところ、何とas soon asで引き継ぎも十分にはできませんでした。
ひとりで全てを行ってみると、゛手伝い゛は゛手伝い゛でしかなく、責任は全て妹が背負っていたので、実際はちっとも分かっていなかったことに気づきました。そして最終責任が全て自分にあるということは、随分重たいことなんだなぁと実感し、それを長いあいだ妹はひとりで背負ってきたんだなぁと感じ入りました。何事も、その立場になってみないとわからないということでしょうか。
社名のIZARAはスペイン、バスク地方の言葉で「星雲」あるいは「銀河」を意味します。イザラ書房の設立は 1969年に溯り、当初は、ブロッホ、アドルノなどのドイツ、フランクフルト学派の哲学書籍等の出版を行なっていました。1980年代から、オーストリア出身の思想家、ルドルフ・シュタイナーが唱道した普遍人智学の翻訳出版を始め、現在では、出版のほとんどが人智学=アントロポゾフィーに関係するものです。
「おまえが、もう少しシュタイナーを好きになれば、イザラ書房も変わるかもしれないね」と、゛手伝い゛をしているころ主人に言われていました。実際に゛手伝い゛はしているものの、その神秘主義的な思想にどっぷりと浸ることはなく、常々「今生きているこの世界、この現実、それをどう生きるか、目に見えるいまが大事なんじゃないか」と考えていたからです。
ですが、イザラ書房の社主となってからは、否応なく自社の扱っている「シュタイナー」に関わらざるを得ません。仕事を楽しくしていくためには、主人の言う通り好きになるのが一番で、そのためには相手をもっとよく知らなければなりません。シュタイナー思想は、哲学は勿論、教育をはじめ、医療、農業、芸術の分野にまで広がっているので、まずは自分の興味のある分野から知る努力を始めてみようと思いました。そして自分には実践から入ることのほうが向いていると思ったので、関連の勉強会やワークショップに出向いてみると、これが無茶苦茶面白いのです。
例えば、絵画のワークショップに参加した時のことです。
線を描く場合、縦線一本引くのに、最初、高い天の上の方から流れてきた光が自分の前を通って地の果て地中の奥深くまで流れていくのをイメージして指で上から下に空中に線を引きます、何度も何度も。そうして出来たイメージを元に紙の上に実際に縦線を描きます。その線は、自分がイメージした長い長い無限の光の一部を切り取ったものです。同様に横線は、遠い遠い左の彼方から自分の前を通って右の彼方へと流れる光。ただ単に紙の上に限定されるものではなく、現れているのは無限の一部。
濡らし絵もやってみました。黄色い絵の具を使った場合、どんな感じがする?青の絵の具は?それが交じり合う感じ?
色を塗りながら自分の内面に「どんな感じがする?」と問いかけてみます。
「色は光と闇の織り成しによって生まれ、光側の代表は黄であり、闇側の代表は青である」『色彩の本質・色彩の秘密』というゲーテの色彩論から発展したシュタイナーの色彩論を元にしての芸術セミナーでしたが、ただ単に絵を描くということではなく、それが自分の精神面とどのように関わっていくかというところが、とても興味深く感じられました。
同様に響きのワークショップも面白いものでしたし、オイリュトミーという身体芸術も面白いものでした。絵画が絵の具、音楽が音を使うように、オイリュトミーは空気を使って表現します。目に見える自分の前の空間と同じ分量で、後ろにも空間が広がっています。その後ろの空間を意識すること、背中を意識することで、自分の中に軸が出来ました。
シュタイナー医学、バイオダイナミック農業などのお話も、書ききれないほど面白く、今後は、私が゛手伝い゛をしながら感じていた目線、どっぷりとシュタイナーの世界に入り込でしまったら気がつかないようなことを忘れずに、自分が納得して面白いと思ったものを出版して行こうと思い、計画を立てています。
何よりも、実際にお目にかかってお話を伺うということを基本にしようと思っておりますので、目まぐるしく忙しくしておりますが、お陰さまで『楽しい』日々を過ごさせて頂いております。ひとりで進み始めましたが、まわりを見渡せば助けて下さる方々が居てくれて、ひとりじゃないと実感する日々です。みなさまに感謝しております。ありがとうございます。そして、これからどうぞよろしくお願いいたします。
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