甦る、ノスタルジック札幌!『さっぽろ昭和の街角グラフィティー』
昭和26(1951)年に製作された黒澤明監督の映画「白痴」は、その大半を札幌で撮影しています。これは、ヨーロッパを思わせる札幌のエキゾチックな街並みを気に入った黒澤監督が、原作の舞台であるロシアのサンクトペテルブルク(旧レニングラード)を、札幌に置き換えて撮影したからだといいます。ルネサンス様式の三代目札幌駅を背景に、降りしきる雪の中を馬そりが行き交うその街並みは、実にロマンチックでした。
そんな異国情緒漂う昭和20~30年代の札幌の街をカラースケッチで再現したのが、小社新刊『スケッチで見るさっぽろ昭和の街角グラフィティー』です。昭和3年生まれの著者・浦田久さんは、札幌の街なかで生まれ育った生粋の札幌っ子。70歳を過ぎてから絵を描き始め、やがて青春時代を過ごした昭和20~30年代の古い街並みの白黒写真をモチーフに、スケッチを描くようになりました。本書は、その数百点におよぶスケッチの中から、約100点を厳選して収載したものです。
書籍化にあたっては、スケッチをエリア別に配列し、往時をしのぶ著者の回想とあわせて掲載。さらに、スケッチに描かれた場所の現在の写真と、描かれた建物やその後の変遷を説明した解説文、さらにその場所を探訪するためのコマ地図やエリアマップも収載しています。
「街並み画家」を標榜する著者は、プロの画家ではありません。しかし、往時の賑わいや空気感を肌で知るその手にかかると、古びた一枚の白黒写真が、生き生きとした総天然色の世界へと生まれ変わります。そのスケッチからは、失われたかつての札幌の街並みが持つ魅力と、その時代に対する著者の深い愛着が伝わってきます。
この時代を知る人にとっては、スケッチに描かれた懐かしい風景からさまざまな記憶が呼び覚まされるといいます。一方、若い世代にとっては見知らぬ街並であり、その風情ある佇まいに驚きと羨望の声が上がります。
そこで、本書を父母や祖父母など大切な人へのプレゼントに使ってもらおうと、付録にポストカードを4枚つけました。僕自身も、札幌で青春時代を過ごした義母に、この本をプレゼントしようと考えています。
ところで黒澤監督は、後年、あるインタビューで「僕が『白痴』を撮ったころの札幌は、駅前に降りたときから個性的で魅力ある街でした。それが今は、どこにでもある都市と同じになってしまって…」(北海道新聞社刊『北海道シネマの風景』より)と語っています。それは著者の回想にも、しばしば現れる言葉です。本書を通して、札幌が失ったものの大きさを、少しでも知ってもらえればと思います。
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