出版業界という『プロ』が取り残される電子書籍市場
電子書籍元年と叫ばれた昨年、実は三度目の元年ですから、三度目の正直になりそうな勢いです(笑)。
さて、出版各社も電子書籍に本腰を入れはじめたようです。当社エベイユもごたぶんに漏れずですが、いやはや、これがなかなか難しいと日に日に痛感しております。
ひとつの要因は、電子書籍に対して「読者が何を求めているのか?」、イマイチ不明瞭であること。配信形式が定まっていないのもありますが、一部購入者の間では「これまでの紙をPDF化しただけのもの」と不満の声も聞かれます。
そのためエベイユも某社のオーサリングソフトを導入し、実際に電子書籍の試作品を制作してみました。しかし、HTMLベースで作られたそれは、Webコンテンツとなんら変わりません。では、どこでWebとの差別化を図るかという問題が湧き上がってきますが、この部分がまさしく、私たち出版業界と読者の方々の間にあるジレンマではないでしょうか。
Web上で見られる、もしくはそれと似た情報の量や質、見栄えであれば、読者の方々はお金を支払わないでしょう。電子書籍としての販売を考えるならば、その「付加価値」を訴えかけなければならないと感じています。そのためにはやはり、読者の方々が何を求めているのか、厳密にいえば、消費者が何を欲しがっているかを考えなければなりません。
ただ、これまでの出版業界はイマイチそれに疎かったというか、ある意味「臭いもの」としてフタをかぶせていたのかもしれませんね……。おそらく流通構造による部分が大きいと思いますが、取次ぎさえ納得させればよいという姿勢はそろそろ抜け出すべきかとも感じます。
極論をいえば、電子書籍の「制作」「流通」「販売」はすべて、Web上のスペースさえ確保できれば誰にでもできます。私たちのようなプロではなくとも、個人の方が電子書籍を販売している事例も、現実に存在しているわけですから。ただ、これまで「本」という媒体を作り上げてきた我々として、出版社が何を残して行けるのか。電子書籍市場への参入を考えたとき、我々が真剣に向き合うべき課題であると痛感する今日この頃です。