年末B級グルメ帰郷
毎年、12月後半になると血液検査を受ける。
会社や業界や身内の忘年会・親睦会・懇親会などなど様々な名称の元、アルコールの摂取に計らずも関わるのだが、昨年末はそんな機会と飲む量が多かった気がする。
挙句の果ての検査の値はというと、過去最低を記録した。
尿酸値9.5mg/dl。
飲酒のほかには、尿酸値を下げる薬の服用をサボっていたことも原因の一つだ。8年前に、左足親指付根が激しい痛みに襲われてから、過去3回の通風の発作を経験したが、発作時でさえ血液中の尿酸濃度9.2mg/dlが最高値であった。7.0mg/dl以下が正常値とのことで、4度目の発作が起きなかったことが幸いだった。
年末に故郷の長野県に女房と子供二人を連れて帰った。
調布で事故渋滞に巻き込まれた後、小腹が減ってしまったので石川サービスエリアで絶品特大豚まんを子供と分け合って食べる。いつもつい買って食べてしまうが、ここの豚まんはとてもジューシーである。約4時間のドライブの末、実家の駒ヶ根市に到着。
東京とは10度ほどの気温差があり、近年でも特に寒さが厳しい冬だとのこと。中央アルプスから吹き降りる風が身を切るようだ。駒ヶ根市の名物“ソースカツ丼”は、煮カツを卵でとじたカツ丼でなく、揚げたカツをソースで味付けしたカツ丼。カミさんの大好物でもあるので、信州そばとともに昼飯に食す。
実家に帰ると必ず食べるものが馬刺しである。小さい頃から短距離走が速くなると親から言われ、馬刺しとイナゴの佃煮をよく食わされた。今ではすりおろしたにんにくをたっぷり添えて、濃い口しょうゆに浸して食らう。都会の居酒屋でよく出る馬刺しはサシ(油)の入ったオイリーなものが多いが、この地方では赤身を食べる。臭みがなくあっさりしているが噛めば凝縮されたコクが出て実にウマい。濃い酒が誠によく合う最高のB級グルメである。
その夜未明から雪が降り出し、翌日は吹雪いた。県内でも積雪が少ない地方だが、見る見るうちに白い世界に周辺が変わっていった。相当な寒さだが、5歳と3歳の子供たちはお構い無しに外に駆け出してゆく。小さな雪だるまを数個作らされた。
冷え切った体を温めるのは、父親特製の大根汁である。雑多に切った大根とブリのあらを煮込んで味噌で味付ける。大好物だが父親は隠し味に砂糖を使う癖があり、今回は砂糖が隠れておらずに明らか甘いのだが、温まるのでつい食べてしまう。
実家の近くのスーパーには、都会では見かけないものを売っていて、時々カミさんにびっくりされる。“煮イカ”もそのひとつで、大ぶりのイカを煮たものがただパックされている。これを輪切りにして生姜醤油で和えて食べる。長野県には海が無いので昔から色々な工夫をしてイカを食べてきた。煮イカを塩漬けしたものが“塩いか”で長期間の保存が効く。こちらは塩抜きした後、きゅうりなどと一緒に酢の物にして食べる。
色々な人に聞いて回ったが、年越し魚の風習を知らない人が意外に多い。大晦日の夜に食卓に上る年越し魚には、「東のサケに西はブリ」という言葉がある。長野県辺りがその分かれ目であるらしいが、我が家の年取り魚はブリであった。焼いた寒ブリを熱燗で頂きながら、ふと体重と過去最高を記録した尿酸値のことを考えてみた。「来年はそれらの数値を少し真剣に考えてみよう」。
紅白歌合戦で福山雅治が歌っている。「器用なやつだ」とカミさんがつぶやいた。歌えて、演技ができて、女にモテると、確かにマルチタレントである。今年の大河ドラマ「龍馬伝」の主演も務めるが、坂本龍馬と同郷で同じ時代に生きた幕末の英雄の一人に、ジョン万次郎がいる。万次郎が150年前に書いた英会話教本「日米対話捷径」を翻刻し、数少ない実物を写真で復刻した新刊『ジョン万次郎の英会話』を2月に刊行する。
Jリサーチ出版は2月1日から10周年目を迎える。10周年目の新刊企画第1弾として発刊するのが『ジョン万次郎の英会話』である。1860年、日米修好通商条約の批准書を交換するための遣米使節団の一人として、勝海舟らと咸臨丸に乗ってアメリカに渡った。その航海、その時代とは比べられないが、今年も出版業界は荒波にもまれそうである。無事難局を乗り越え、明るい未来の見える2010年になるよう頑張りたい。