だから僕は嫌われるし、作家にもなれない。
一度だけ、BSブックレビューの岡山収録放送分で、テレビに出たことがある。僕は岡山トーハン会青年部に所属している。そのためお鉢が廻ってきた。2分程度だが、おすすめ本として、郷土に根ざした本の紹介をさせてもらった。
当然、そこでは販売も担当した。通常こういうイベントでは書店はほとんど手伝わない。会場設置とは本を長机に置くこと、会場販売とはただ販売すること。
僕は絶対に嫌だった。山名弘晃がする、マイブックシェルフヤマナが動くからには絶対にそんなことはさせたくない。だから考え実行できるだけの要素を詰め込んだ。
POPは当たり前として、接客マニュアルから設置マニュアル、A4張り合わせでA2ポスターまで用意した。金がないので各自自前で、手作りした。商品数量も取次任せにせずに、あくまで現場を優先してもらった。
設置には、30分程度の販売時間のために、たった40万円の本を並べるのに、5時間余りの時間が掛かった。青年部の有志もトーハンの偉いさんも、「違う、もっと布に沿って上から下へ(本が)流れるように!」と注意する年下の若造に文句一つ言わず、たくさん協力してもらった。
全員いい顔をしていた。とてもいい顔をしていた。
全てが終了したとき、全員、喉は枯れ、打ち上げも拒否するくらいに疲れ切っていた。
突然の特集ゲスト交代、雨天、ド田舎で来場者数510名であったが、販売目標15万円を上回る、163冊23万円の売り上げを記録できた。東広島の史上最高売り上げには2万円足らなかったけれど、結果論ではもっといけたハズなんだけど、僕はすばらしい記録だと思っている。
「まだこれだけ本が欲しい人がいるんじゃが」会場のどこかで誰かの言葉。
「もう売り切れたの?!」サイン本ブースで誰かの声。
「すっげっ」会場を見たNHKのプロデューサ。
「よー、がんばったのー」僕の販売ブースで知らないじいちゃん。
「毎日こんなのがあったら、喜んで手伝うのにな」青年部員の笑い声。
読者に本の紹介をする著者、版元との取引をする取次、お客さんとの取引をする書店、著者の本を読むお客さん。
今まで9年間の書店運営で、僕が見た唯一の三位一体だ。
書店は熱い。まだ熱い。少なくとも僕が懇意にしている書店は熱い。
確かにどうしようもないようなド腐れ書店員は大勢いる。企画本だけの取次人間もたくさんいる。へらへら笑うだけの版元営業もいっぱいいる。盗作するような著者もいる。文化だのなんだの言っておきながら、自らが一番文化から遠い人もたくさん知っている。会友として参加させてもらい、版元と書店、版元と版元、版元と取次の関係の一端を初めてかいま見る。話一つで、うっすらした夢は壊れる。温度差を感じ、歪さに吐きそうになる。
けれど、それは読者に関係のない話だ。本とは読者ありきの存在ではなかろうか。本を買って「ありがとう」と店員にお礼を言ってくださる読者には全く関係がない。ゲル状の闇は版元と取次と書店が飲めば良いことだ。諸問題はウチじゃない誰かのせいだと押しつけてるだけなら、読者が喜ぶ本は存在しない。
僕は店頭に立っている。人によっていくつもの仮面を付ける。お客さんからの無理難題に対して、なんとかしてあげる時もあれば、断固断る場合もある。版元営業に売る気が感じられないなら断る。企画は気に入った企画なら売る。適正数値に拘って注文をする。不要だと感じるパターンがあれば取次に掛け合って交渉する。配本や注文が足らなければ資料を持って版元訪問をする。知らない版元なら様子を確かめに行く。返品はせめて本が傷まないように丁寧にする。良い悪いはよく分からない。地方の弱小書店がそこまで動く必然性はあるのかとも思う。でも放っておいて良くなる事などそうそうない。わざわざ店に来てくれる読者には、笑って帰って欲しいとずっと思ってやっている。
BSブックレビューの物販会場で、僕の本の紹介を聞いてくれていた一人のばあちゃんが、吉備人出版の【岡山たべある記】を差して、
「この本、わたしも読んだの。面白かったわよ」と笑顔で語ってくれた。
大混雑の物販会場で、わざわざ僕のブースに来てくれて、満足したかのような素敵な表情で言ってくれた。テレビに出たとかドーラン塗られたとか弁当が豪華だったけど食えなかったとかより、一番の思い出だ。