日本の書籍を海外に発信しよう!
はじめまして。版元ドットコム新入り、オープンナレッジの早川です。
弊社は総合知識のプロバイダーとして知識の「構造化」→「流通」→「活性化」を通して社会の発展に寄与することを基本理念としております。
今回は、出版業よちよちあるきの弊社が、翻訳書籍の業界を見て考えたこと、また弊社が現在計画中の「日本の書籍を世界に発信しよう!」計画(現段階ではまだ夢物語ですが)について書かせていただきます。
版元ドットコムの会員の方の中でも、海外の書籍を日本の出版社に紹介し、その日本語翻訳権を日本の出版社に売り込むエージェンシー会社を利用されている方もいらっしゃると存じますが、弊社も去年から十数点の日本語翻訳権を買い、現在も海外の面白い本を見つけるべく、数社のエージェンシーから多数の本を取り寄せています。
それらのエージェンシーとの取引の中で聞いた話ですが、欧米の出版界で話題にのぼったテーマは、数年後に日本の出版界でも話題になる傾向がある。つまり欧米の本が日本のトレンドをつくる働きをしている。一方、日本から海外に出版されている本は約99%が漫画で、その残りは芥川賞作品などの話題作や、写真などが入ったカラー物が少しだけだそうです。
翻訳書籍の業界では年に数回、世界中から翻訳権を売買する人たちが集まるブックフェアが世界各地で開催されますが、先日ある海外の編集者が、ブックフェア参加者の日本との違いについて興味深い話をしていました。いわく、日本の出版社がブックフェアに行く目的は、海外の新しい情報の仕入れが主であって、日本の書籍情報を発信しには来ていない。つまり、日本の書籍の売込みに来ている出版社はほとんどいない。海外の出版社は売り込みの為の交渉を盛んに行うが、日本の出版社はサラリーマン然とした人が多いといった印象がある。漫画の版権についての取引だけは毎年少なからず行われているが、漫画以外にも日本には面白そうなコンテンツの本が沢山あるのにもかかわらずほとんど商談は行われていない。
初めてこの話を聞いたときは、漫画のように視覚的に少しでも理解可能なものであれば海外からも興味を示す可能性はあるけれど、日本語が読めない相手に日本語の書籍を売り込むのはとても難しい。よって世界の市場では、英語の書籍が圧倒的に商品力を持っているのは当然、と思いました。
しかし、よく考えてみると、漫画はビジュアルのすばらしさだけで世界中で読まれるようになったのでしょうか。おそらく、そのコンテンツも面白いがゆえ、世界で認められることになったのでしょう。コンテンツも優れていることが漫画の人気の大きな理由だとすると、漫画に限らず日本の書籍は世界における商品力を持っていると考えられます。例えば、先端科学系の専門書(ロボット、IT、環境系)、教育用の教材、健康や美容に関するものなどは、世界のモデルとなってしかるべき高いクオリティーを持っているのではないでしょう。そのほかにもビジネス書やエンターテイメント本や文学作品でも、世界のマーケットでも売れる可能性を持ったものが少なからずあると思います。日本の書籍は国内の読者を想定して作ってあるので、国内だけにしか売れない本も多いのでしょうが、多くの国々がさまざまな分野で日本のものを取り入れている現実にあって、出版部門は例外であるという方が不思議な感じがします。
長々と書きましたが、実は、現在弊社では「日本の書籍をもっと世界に発信すべきなのではないか」という考えのもと、中欧ヨーロッパに位置するハンガリーに日本の書籍を紹介する書籍館のようなものをつくろうという企画が持ち上がっています。なぜハンガリーなのかと疑問に思われるかもしれません。ハンガリーは人口が日本の10分の1の小さな国ですが、2004年にEUに加盟し、かつ東西ヨーロッパの中継地点に位置し、文化交流・ビジネスの両面から考えてもすばらしい立地条件にあります。また、世界で一番ノーベル賞受賞者の割合が高く、基礎教育が行き渡り、かつ高等教育のレベルが高い国ですので、良い書籍物の需要がある可能性は充分にあります。
日本書籍館の具体的なビジネスプランはまだ決まっておりませんが、現在既に、ハンガリーの首都ブタペストに場所を確保いたしました。そのスペースに日本の各出版社から集めた書籍を展示し、ハンガリーをはじめヨーロッパ各国の出版関係者が、常時日本の書籍を見に来て現物の書籍を見ながら検討し(もちろん、本の内容を理解していただけるような形を考えなくてはいけませんが)、先方が欲しい書籍の著作権を売るというシステムをつくるというのが大まかなアイディアです。特に初めのうちはビジネスとして利益にはなりにくいかもしれませんが、文化の交流という面だけを考えても書籍館をつくる意義は大きいのではないかと思います。
版元ドットコムに入会させていただいたからには、版元ドットコムの多くの出版物が海外でも読まれ、しいては日本の出版界の活性化につながっていく一助になるような仕事ができればと思いながら、まだ夢のような話しか出来ていない状態ですが、夢を夢で終わらせず具合的なものにするために努力いたします。もしご興味をもっていただけましたら少しでもお知恵をお借りできれば幸いに存じます。
今後もご教示の程よろしくお願いします。