お菓子屋さん出版業参入一年目
私は老舗のフランス菓子店で働いています。
お菓子屋さんですが出版部門を抱えており、版元ドットコムの会員版元でもあります。
以前はお客さんと少しの大手書店さんとの直接販売で運営してきたのですが、書籍がテレビで紹介されたのをきっかけに昨年より取次ぎ会社経由の取引をスタートしました。
ちなみに社名のイル・プルー・シュル・ラ・セーヌとは、「セーヌ川のほとりに降る雨」という意味です。日ごろは「イル・プルーの山田です」で済ませることがほとんどですが。
もともと、取次ぎ会社を窓口とした出版流通の仕組みから外れた、直販経由で販売していたので部内に出版業界のルールに詳しい者がいなくて、毎日がみんなで勉強の日々です。
私なんぞはもともと他業種からの転職なので「取次ぎ」のことは最初、「問屋のニッパンさん」などと呼んでおりました。「番線印」「ISBN」「仲間渡し」「付き物」「短冊」「版元」などなど専門用語のオンパレード。
初めて取次ぎ会社の窓口に口座開設の交渉にうかがった時にはもう大変です。
取次ぎ担当「まずは注文口座の開設からはじめましょうか?委託については新刊が出てからでもよろしいと思います。」
私「あの、注文だけじゃないのですね?」
(今まで書店とのお付き合いは直販で原則注文買切のみですから)
担当「ええ、おたくはプロ向けの専門書なのでそんなにもたくさんの書店さんにまく必要は無いかもしれませんが、新刊が出て売れそうであれば事前にうちと取り引きのある主要な書店さんには配本の手配も必要になってくると思いますよ」
私「?」
担当(私の顔を不審そうに見ながら)
「山田さんは以前にどこかの版元さんで働かれたご経験は?」
私「ありません、この業界、始めてお世話になっております」
担当「ああ、なるほど」
⇒担当の方による取次ぎ会社から書店へ本を納品する条件についての詳細な説明
このようなやり取りは取次ぎ会社の経理の方、広告の方とも行い、大変ご迷惑をお掛けしました。さらに取次ぎ会社だけではなく、書籍倉庫会社や書店さん、そして版元ドットコムなど、あちこちで同じような事を繰り返し、たくさんの教えをいただき今まで何とかやってきております。本当にその節は皆様ありがとうございます。
出版業界新参者であるお菓子屋さんから見ると取次ぎ会社という存在は知れば知るほど本当に不思議なシステムですよね。
うちの会社は製菓材料の輸入販売も行っています。そのため、全国の菓子材料の問屋さんとのお付き合いがあります。また、本社のフランス菓子店においては材料、器具、包材などの問屋さんとのお付き合いもありますが、問屋が1社で仕入、流通、販売計画、商品管理、金融の機能を同時に持っている業種には出会ったことはありません。きっと全国で2兆円規模になる市場を数社の問屋でシェアしているからこそ、複合的な機能を持つことが可能であり、小売店が2万店弱もあり1店舗で膨大な数のアイテム扱う為に問屋1社でこのような機能が必要になったのだと感じています。
お菓子屋さんは毎日販売するアイテムは、少ないお店で1品(シュークリームやチーズケーキの専門店)、技術力のあるお店で200品くらいですので、町の小さな書店と比べてかなり少ないです。来店していただいたお客様が欲しいものが見つけられないとか置いていないとなどという事はめったにありません。
私の現在の課題は書店在庫の膨大なアイテムの中に埋もれても、本当に欲しい方に見つけてもらえる本を作り、お客様に確実に届くようにする事です。
試行錯誤を繰り返しては壁にぶつかり、あちらこちらの出版業界諸先輩方に貴重なご意見をいただきに廻っては、またご迷惑をかけてしまう日々はまだまだ続いております。
お世話になっているせめてもの償いにぜひ、美味しいお菓子を食べにいらしてください。心からお待ちしています。