10カ国語を駆使して作った 『英単語マニア』
2回目の日誌担当です。1回目は版元ドットコム入会してすぐだったので、小社の自己紹介的な日誌でした。「今回はどうしよう?」とネタを考えているうちに締切が迫り……す、すみません!結局、近刊の宣伝をさせてもらいます。昨年11月、『語源事典 英単語マニア』という本を小社から出版しました。タイトルそのまんま、英語の語源をマニアックに掘り下げてみた1冊です。
英単語の約8割がおもにラテン語からの外来語で、ゲルマン語系の在来語は約2割しかありません。ところが、使用量はその逆で、約8割が後者で、前者は約2割です。そして、文法を支えている在来語には機能語(function words)が圧倒的に多く、意味を添える内容語(content words)の大半は外来語から借りています。
英語の語源は漢字の偏旁冠脚よりも意味する範囲が限定されています。しかし、漢字より意味の領域が広いため、多様な内容を含みます。たとえば、単語の order は「順序」の意味を示す語源から出てきた語で、順序を維持するには常に「整理整頓」が必要で、さらに「規律」から「命令」の意味が生じ、レストランに遅れた着いた者が先着者に“Did you order yet?”と言うときの「注文」の意味にもつながります。この語源の語義を十分に認識していさえすれば、orderly、ordinal、ordinary、ordinarily、ordinance、ordnance、ordeal など、自然に身につく派生語が10倍、20倍に、語源の種類によっては100倍に増えることもあります。500種の語源を知れば少なくとも2万語はものになるでしょう。英単語は使うことで初めて身につくものですが、語源の成り立ちや概念を知ることが英単語獲得の第一歩の踏み出しになることは確実です。
著者のメルライン・フライダ氏はアメリカ生まれのオランダ人です。赤ちゃんのときにオランダに帰って、高校時代までを過ごしました。両親の仕事の関係もあいまって、同家を訪れるお客には英語話者が多く、意識しないままにメルは英語の話し言葉を身につけ、また、小学校高学年から英語の書籍を読んでいたので、自然と英・蘭のバイリンガルになりました。
中学校に入って選択した外国語はフランス語で、これは「早期学習&近隣国の言葉」だけに、よどみなく使います。ラテン語とギリシア語は日本人の大学受験生が漢文・古文を学習する以上に学んでいます。ドイツ語はオランダ語の親戚のような言葉だし、イタリア語とスペイン語もラテン語学習のおまけでカタコト以上に使いこなします。現在の日常語は日本語で、たしなみに中国語を学習中です。
メルは非常に好奇心の強い性格で、言葉が大好きな人だから、それだけにとどまらず、断片的ながら、沖縄方言、ヘブライ語、インドネシア語などにも興味を持って、その種の資料を図書館から借り出すなどして、常に何らかの言語関係の本を携帯しており、ジャック・ハルペン編の「漢英辞典」は常備品です。
同じく彼の常備品であるランダムハウスの英英辞典を調べながら、「ときどきこの本の編集者はドイツ語がよくわかっていないような気がする」などとつぶやいています。メルの頭の中には溢れんばかりの言語知識が詰まっていて、泉の水が湧くがごとく、質問すれば尽きることなく言葉が出てきて、おしゃべりメルになります。
この『英単語マニア』制作にさいして、ゲルマン語系の英・蘭・独、ラテン語系の仏・伊・西、古ヨーロッパ語の羅・希、そして日とちょっとだけ中を参考にして、英単語の語源を探索し、彼の脳内辞書を軸に解説してくれました。本文は対話形式で、歴史・宗教・文化など、言葉だけではなくバックグラウンドにまで話が及んでいるので、読み物としても十分に楽しめる1冊になったと思います。現在、続編を制作中で、議論は絶えませんが、知的好奇心が満たされるワクワクする瞬間がいっぱいの毎日です。