『完本 丸山健二全集』創刊に寄せて
丸山健二全集、計百巻(予定)の刊行にあたり、お知らせさせていただきます。
弊社はこのたび、十年余の歳月をかけ、丸山健二氏の全集を発刊することになりました。全集はふつう、著者の既刊本を並べるだけのものでありますが、丸山氏は全作品を新たに書き下ろしているため、これだけの歳月が必要になるわけです。
このような形の全集は世界的にも例がなく、出版社といたしましても今回、氏の全集刊行に携わらせていただくのは望外の喜びであり、また名誉なことであります。
丸山氏は二十三歳の時に『夏の流れ』により芥川賞を受賞して以来、その作品の質の高さ、孤高に徹した生き方のため、熱狂的なファンがいる一方で、いわゆるベストセラー作家ではありませんでした。しかし氏の作品群が現代日本の文学界において最高峰を成していることは衆目の一致するところでありましょう。
不肖私は、十年ばかりにわたり、札幌の某大学で「文芸翻訳法」という授業を受け持って参りました。その間、夏休みの宿題は決まって、丸山健二作品の感想文を書くというものでした。残念ながら、その間、氏の作品を読んだことがあるという学生には一人もお目にかかりませんでしたが、感想文にはほぼ例外なく、「感動しました。これほど美しい日本語を書く素晴らしい作家が日本にいるということを知らなかった」と記されておりました。
私見ではありますが、ノーベル文学賞の名に真に値する日本人作家は丸山氏を措いて他になく、今後は、氏の作品の英訳ならびに西欧諸国での出版にも全力を傾注したいと考えております。
この度、丸山健二全集を皆様にご紹介できることは、私のみならず、柏艪舎にとっても身に余る光栄であります。長丁場の出版になりますが、末永くお付き合い下さいますようここに伏してお願いするしだいです。