いきあたりばったり出版記
はじめまして。風鯨社という出版社をひとりでやっている、鈴木美咲と申します。
2020年に始めたばかりの出版社、コンセプトは、「いま生きているこの世界を楽しもう」。
出版社とは言っても、厳密には法人にはしていないので個人レーベルです。
私は出版業界まったくの未経験。組版って何?編集者って何やってる人? 右も左も分からないようなところからスタートして、昨年12月に1冊目の『自分らしさを見つけるための手相の本(著:佐々木藍)』を1年半かかって出版、今年の7月に2冊目の本『ボイジャーに伝えて(著:駒沢敏器)』を出版しました。
今は、3冊目の本を作り始めたところであり、さらに地元•小田原でちいさな本屋『南十字』をもうすぐオープン予定です。
あまりに行き当たりばったりで進んできたので、何の参考にもならないかもしれませんが、『いきあたりばったり出版記』として、今までのことを行き当たりばったりに書いてみようと思います。
まず、出版社を作ろうと思ったキッカケはなんだったか…。
私は普段グラフィックデザイナー・ウェブデザイナーとしても仕事をしているのですが、長年依頼を受けて作るスタイルで仕事をしてきたので、なにか自分の好きなものを作って売る仕事がしたい!とぼんやりと思っていました。
機織りも好きなので、織った布を売ろうかな?それともテキスタイルのデザインをしてみようかな?なんてことも考えながら、本なら今まで作ったページ物のパンフレットのように作れるかも。と思い調べていたら、出版社は誰でも簡単に作れることが判明!
(正確には、日本図書管理センターに登録さえすれば、誰でもISBNを取得することはできる)
でも本を作るにはお金がすごくかかりそう…と躊躇していたところにコロナが到来し、娘と母と3人でアメリカ旅行に行こうと計画していたのが白紙に。
(このときは出版社を作ろうとはまだ思っていなくて、アメリカが気に入ったら引っ越しちゃおうかな、くらいの妄想をしていた)
旅費代が浮いたので、よし!それならそのお金を印刷費にまわして本が作れる!出版社を作ろう!と思い立ち友人に話してみたところ、その子も「本出したい!」と言うので、「じゃあ作ろう!」ということで素人2人で二人三脚での本作りが始まりました。(その子が1冊目の本『自分らしさを見つけるための手相の本』の著者の佐々木藍さん。ちなみに旅費よりも本作りにかかるお金の方が断然高いということも、この時はまったく分かっておらず。)
最初は簡単な手相の教科書を作るつもりで始めたのが、本作りとほぼ同時期に彼女が始めたYouTubeがいきなりヒット。あっという間に全国に彼女のファンができてしまい、出版を楽しみにしているとの声があちこちからたくさん届くようになります。
さらに同時期に、出版社の宣伝のために作ったブログがきっかけで、2冊目の本『ボイジャーに伝えて(著:駒沢敏器)』を出版させてもらえることになり(この辺りの経緯は『ボイジャーに伝えて』の巻末に少し載っています)、そちらは昔から大好きだった駒沢敏器さんが著者。自分で出版の打診をしておきながら、大きすぎる案件に震え、ひとりで泣きました。
本の売り方も、最初はオンラインショップなどで細々と本を売るくらいのつもりだったのが、これはどちらの本もちゃんと全国に流通させる形にしなければと気を引き締め直し、版元ドットコムさんにも入会し、取次会社さんとも契約することに。
今思えば、まだ1冊も本を出したことがない素人の私になぜか一気に2冊分の期待がかかったわけで、どうしてそんなことになってるんだと不思議に思いながら、好きで始めたことにたくさんの人が応援•協力してくれて進む日々に、必死になりながらもわくわくどきどき学びと出会いと感謝の気持ちでいっぱいに、2年ほど突っ走ってきて今に至ります。
先のことがわからないまま、一歩進んで何かが起きたら誰かに聞き、本を読み、またやってみて、の繰り返しで進んできた日々は、まるで現実世界でRPGゲームをしているかのよう。ここまで来ると、自分は単なるゲームの1キャラクターで、コントローラーを握る私はそれを楽しんで俯瞰しているプレイヤー。というような、変な肝の据わり方を覚えてきました。
自分でも、よく形になったなと他人事のように感心しています。笑
1冊目の『自分らしさを見つけるための手相の本(著:佐々木藍)』は、「自分らしく生きるためにはまず自分のことを知るところから始めよう!」というコンセプトで、自分で手相鑑定ができる本、かつ手元に置いておいて、自分の人生を生きようとがんばる人たちのお守りになるような本にしようということで、著者と2人、二人三脚で1年半かかって作り上げました。編集からデザイン、DTP、イラスト、LP作り、全部自分でやってみました。
原稿を書いてもらうのも初めてなので、原稿が揃うのに半年、そこからデザインをしイラストを描き、原稿を編集しブラッシュアップしていくのに1年かかりました。よく著者の藍さんがついてきてくれたと思います。
2冊目『ボイジャーに伝えて(著:駒沢敏器)』は、大好きだった作家・駒沢敏器さんの幻の作品。自分は編集と営業に徹して、装丁家さんやエディトリアルデザイナーさんなどそれぞれの道のプロの方と協力して作りました。プロの方々から、ありがたいことにたくさんのことを勉強させてもらいました。
2冊それぞれ違う作り方をしてみて、本にはいろんな作り方があるんだと勉強になりました。
本作りは、自分で全部やるとものすごく時間はかかるけれど思い切り好きなように出来て楽しいし、経費は抑えられる。
外注していろんな人と一緒に作ると、お金はものすごくかかるけど、才能が集まって一緒にひとつのものを作り上げる喜びがあり、自分だけでは辿り着けない想像以上のものが出来上がる。
どちらもすごく楽しい。
さらに、どちらも印刷会社の担当者さんや校正者さん、取次会社の担当者さん、出版業界の先輩たちに支えられながら進んできて、1冊の本ができるまでには本当にたくさんの人の想いと才能と努力と技術が集まっているんだと、本を見る目が変わりました。
3冊目はまた全然違ったアートブックになりそうなので、作り方も変わります。
きっと、何度作っても新しい発見がありそうです。
ちなみに今の課題は、いままで作った2冊とも、作るのに精一杯で完成と同時に力尽き、なかなか宣伝・営業までまだ手が回っていないこと。ひとりでやっているし子育て中でもあるので、なかなか営業に行くのは難しい。
作っても、知ってもらわらないとどうしようもないので、ここが今の私の課題です。が、コツコツできることを楽しんでやっていこうと思っています。
本当にたくさんの縁と応援があってここまできたのですが、ここへきて、地元・小田原に本屋を開業することになりました。
本屋開業にあたっても、弟の店で「ブックカフェもやりたいなぁ〜」なんて呟いていたら、「あそこ使えるんじゃない?」と斜め向かいの物件を紹介され、
そういえば本屋をやりたいと言っていたなと古くからの友人を思い出し、話してみたらトントン拍子に話が進んで、友人と3人で開業することになりました。
(隣に路面電車が展示してある、おもしろい物件です。)
出版社が本屋もやるのは強いとか、今の時代にはこれからオフラインの『場』が重要になってくるからベストな選択だとか、最近いろんな人にやっていることを褒められたりするのですが、何しろほとんどが思いつきとご縁で進んでいるので、戦略を立てているわけでもなく、もう神様ありがとう、としかいえません。
この流れが、どのように実を結んでいくのか、自分でも楽しみです。
ちなみに、ここまで読んで大多数の人が気になるであろう金銭面は、波瀾万丈でとてもここで書くわけにはいきませんが、なんとか生計が立っているので不思議です。
宇宙の法則でも量子力学でも想いが現実化するとはよく言われることですが、本当に、なんとかなっちゃうものなんだなぁ、と思っています。
(「なんとかなる」の基準が低いので、一般常識的にはなんとかなっていないと分類される気がするので、ここには詳細を控えます…)
行き当たりばったりに書き始めたらすごく長い上にやはりなんの参考にもならない内容になってしまったのですが、何をやるにしても、私が大事にしていることは、
・やりたいことはやってみること。
・自分の直感を信じること。
・自分にウソをつかないこと。
・わからないことは素直に聞いてみること。
・過程を思い切り楽しむこと。
です。
やってみなければ始まらないし、まっすぐ進んでいけばいつかは形になるし、自分にウソをつかないで進んでいたら、形にならなくても納得できるし、結果よりもなによりも、その過程がすごく楽しい。
さらにそうやって作ったものを誰かが喜んでくれたら、もうボーナスを貰っているような嬉しさです。
文字で書くとなんだか暑苦しいですね…。でも、先日ジョン・ラスキンの著作を読んでいたら、「人は喜びを伴う仕事では効率が上がる」というようなことが書いてあって、150年以上も前の著名な本にもそんなことが書いてあるなんて、やっぱり自分に正直にやりたいことをやるのが人として王道なんじゃないかと、勝手に確信を深めています。
ニュースなどを見ると本当にウンザリすることだらけで、私も混沌としたこの世界に嫌気が差すときもありますし、もどかしいこともたくさんありますが、それも含めて全部愛おしいし、もっと味わいたい。と思っています。
きっと人間が好きなんだと思います。
風鯨社のコンセプト「いま生きているこの世界を楽しもう」は、決して楽しいことだけをしようという意味ではなく、まるごと味わおうという意味です。
この世界に生きていてよかったと思える人が増えますように。
この世界の面白さに気がつく人が増えますように。
そんなことを感じられるキッカケになるような本を作りたくて、心ばかりが逸りますが、ひとりで始めたところから、一緒に作ってくれる仲間たちがだんだん増えてきて、本を読んでくれる人たちもいて、私はとても幸せ者です。
出したい本がたくさんあります。伝えたいことがたくさんあります。
これからも、自分の心が反応する良い本をもっともっと作りたいし、本屋さんもたくさんの人に愛される場所として育てたい。
出版の参考になるようなことが一つも書けませんでしたが、こんな私の経験がなにか参考になりそうだと思ったら、どうぞ気軽に聞いてください。