フィンランドの本を読むなら、今でしょ!?
皆さん、こんにちは。猫の言葉社の稲垣です。小社はフィンランドに特化した本(猫の本ではありません)を刊行しています。早くも(?)6周年を迎えました。「今でしょ!」って、いったいどうしてとお思いでしょうね。皆さんはもう、村上春樹さんの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』はお読みになりましたでしょうか?あの本の後半は、フィンランドが舞台になっているのです。あの本に出てくる音楽、リストの「巡礼の年」はとても話題になっているようですが、フィンランドはどうしたのでしょう?そこで、今日は、「多崎つくる」の旅と小社の本を無理やり関連づけて、あれこれ紹介したいと思います。
「多崎つくる」は、高校時代の友人に会うためにフィンランドへ行くのに、何一つ下調べをしませんでした。ホテルの予約は人任せ。ガイドブックにも目を通さなかったので、チップをあげるべきか、いくらが適当か、そんなところで迷っています。「つくる」さん、惜しかった!いい本があったのです。フィンランドへ行くなら『フィンランド語は猫の言葉』を読んでおくべきだったのです。
この本は30年ほど前の留学体験記ですが、フィンランドへ行く人が必ず読むバイブルです。最初、文化出版局から出版され、講談社文庫に入ったのですが、その後入手困難になったため、古本として1万円近くまで値が上がってしまいました。フィンランド語を専攻する学生が買えなくて困るという話を聞き、この本を看板に掲げて、フィンランドの本を刊行する猫の言葉社を立ち上げたのです。特に2010年の国民読書年には、あちこちで推薦していただきました。北海道では「本を愛する大人たちのおせっかい 高校生はこれを読め」という500冊のリストに、丸善のインターネット投票では「夏の100冊」に、東京では「図書館員のすすめる100冊の本」に入れていただきました。お蔭さまで小社の新装版も第3刷になります。
「多崎つくる」は空路ヘルシンキに着くと、レンタカーを借りてハメーンリンナに行きます。会おうと思っていたヘルシンキ在住の「エリ」が、ハメーンリンナ郊外のサマーハウスで家族と休暇を過ごしていることが分かったのです。ハメーンリンナとは、ハメ(地方の名称)の城という意味です。この都市には、お城と作曲家シベリウスの生家があります。シベリウスの好きな方には、この生家のほかに、シベリウスが晩年に住んでいたヤルヴェンパーのアイノラの訪問をお勧めします。ハメーンリンナには、去年私も行ってきました。リーッタ・ヤロネンという作家が住んでいるのです。彼女の書いた本『木の音をきく』を訳し、日本語版ができたので、それを持って会いに行ったのです。
『木の音をきく』は、フィンランディア・ジュニア賞を受賞した見事な文学作品です。クリスティーナ・ロウヒの挿絵も息をのむほどの素晴らしさです。父親を亡くした少女が、お母さんと一緒に遠くの町を見にいきます。もし、そこで二人の住むところとお母さんの仕事が見つかったら、引っ越すことになるのです。駅でおかあさんが切符を買っているあいだ、少女の心に様々な思い出が去来します。この作品は映画にもなりました。この親子が電車に乗るところは、ハメーンリンナの駅で撮影されました。
ハメーンリンナの郊外で「多崎つくる」は16年ぶりに高校時代の友人「エリ」に会います。彼女はフィンランド人と結婚して、夫婦で陶芸家になっていました。二人は日本の美大で出会ったのです。夫の方は、フィンランドへ戻ってからしばらくアラビアでデザイナーをしていたそうです。最近、日本では北欧雑貨が人気で、テキスタイルのマリメッコも陶磁器のアラビアも有名になりました。小社は、アラビアのデザイナーを50年務めているヘルヤ・リウッコ=スンドストロムの絵本を2冊刊行しました。彼女はセラミック・アーティストですので、陶板を挿絵に使った絵本です。世界でも珍しい絵本だと思います。『なかなおり』と『地平線のかなたまで』は、子どもたちはもちろんのこと、アートの好きな大人の女性にもとても好評です。読者の方々は、ヘルヤのデザインしたうさぎのマグカップも集めて、楽しんでいらっしゃるそうです。
フィンランドといえば、ここ数年、子どもたちの学力が高いということで、フィンランドの教育に関する本が日本で20冊以上出版されたと伺いました。私がフィンランドの子どもたちの生活を見ていて注目したいのは、夏休みの過ごし方です。「エリ」の家族のように、多くのフィンランド人が湖畔のサマーハウスで長い夏休みを過ごします。子どもたちの夏休みは2か月。宿題は一つもありません。湖畔でたき火をして楽しく過ごす夏至祭は、クリスマスに次ぐ大きなお祭です。