また明日、インドに行こう──「インド・アフター・インド」のご紹介
この夏休み、インドに旅行された方はいらっしゃいますか?
色鮮やかな女性のサリー、濃厚なスパイスの香り、通りにあふれる大音量のインディアンポップス……五感が刺激される刺激的な場所。一方、貧困、カーストが根強く存在し、ヒンドゥーをはじめとした宗教や独自の文化を守り続ける社会。混沌とした神秘の大地に旅行者は魅せられます。
7月に刊行しました「インド・アフター・インド──境界線の往来」のご紹介です。15年前のインド旅行を機にインドへ通い続け、今ではインドと東京で一年の半分づつを過ごすようになったライター・鈴木博子さんのフォトエッセイです。インドへの旅を繰り返すうちに、旅と日常の境界線がうすれていき、「旅と日常の境目を超えて、自分が本来いるべき、心地よい場所へおのずと導かれていくのを感じるのだ」と綴ります。ナチュラルに軽々とインドと東京を行き来して、旅人というよりは生活者の視点で、「真夜中」「あきらめる」「赤」「境界線」「食べる」「鍵」「明日」の7つのキーワードから、今のインドを写真と文章で切り取っています。かつて流行った「自分探しの旅」とは少し違う鈴木さんのスタンスは、多くの方に共感していただけるのではないでしょうか。
静かで、しかし力強い文章も魅力的ですが、頁を繰るごとに目に飛び込んでくる写真にも圧倒されます。表カバーの写真は、サリーを纏いハート型の赤い風船をたくさん手に持った女性が路地を歩いている後ろ姿を映した写真です。著者は路地を歩いているときに偶然この女性を見かけ、長い時間後からついて歩いて行って、シャッターを切ったそうです。それもiPhoneで! この写真を見た瞬間、こんな風景がiPhoneでサクっと撮れるなんて、写真はカメラの性能じゃない!と思いました。一瞬一瞬、光と影がうつりゆく中で、何を見てどの瞬間を切り取るかは表現者の感覚次第です。著者の感覚によって切り取られたインドの光景が、見る側の感性を様々に刺激してくれます。
そんな写真を生かすために、造本にはこだわりました。インドっぽさを表現するために、ラフな書籍用紙を使いました。インクが沈むという印刷会社のアドバイスを受けて、色調をかなり明るめに補正したりと試行錯誤。弊社の書籍としては、今までにやったことのない手法にいくつも挑戦しました。結果「上品なインドっぽさ」が表現できたのではないかと自負しています。
手に持った質感を大切に、ずっと手元に置いて、思い出したときには何度も本棚から取り出して眺めたくなる──そんな1冊になることを願って、この本を送り出します。