学術専門書に対する私の思い入れ
はじめまして。心理学を中心に教育・福祉・保育の専門図書及びテキストの発行,販売しております,北大路書房・営業部の若森 乾也(ワカモリ ケンヤ)と申します。今回の版元日誌では,僭越ではございますが,学術専門書に対する「私の思い入れ」を綴らせていただきます。
まだまだ4年間という短い期間ではありますが,これまで私は,次の二つの点を課題として意識してきました。第一に,多種多様な新刊の洪水という状況の下で,「然るべき読者の手」に学術専門書をどのように届けるのかという点です。第二は,学術専門書の需要を支えてきた研究者・大学生が減少するなかで,「いかにして潜在的な読者を掘り起こすのか」という点です。いずれの課題においても,出版社による「書誌情報の発信」と「販売企画」がますます重要な役割を担っていくと考えています。
学術専門書は,コミックや文芸書に比べれば,非常に動きの鈍い商品である反面,ロングセラーになる可能性も秘めています。しかしながら,従来の学術専門書の書誌情報は,文芸書などと同様のやり方で,新刊であること≒「本の鮮度」に重点を置き過ぎてきたように思われます。専門の学会においてでさえ,新刊が取り上げられるには半年以上の時間を要することからも窺えるように,学術・専門書の価値(定番や古典になったりすること)は,時間を通じて明らかになっていくものです。そのような時間の経過のなかで蓄積される重要な情報を,新刊偏重の書誌情報では落としているので,継続的に「更新」されなければならないと思っています。
また,学術研究は日進月歩の世界であり,それに応じて既存の学術領域の枠組み自体が大きく組み換えられるという事態も起こっています。たとえば,「心理学」という学問に限ってみても,脳科学や神経科学など急速に発展している近接領域との関連性をますます深める方向に進みつつあります。しかもそれは,一昔前のように敢えて「学際的」と表現されることもなく,ごく当然のこととして進行しています。以上のことを踏まえるならば,心理学の学術専門書は「心理学者」だけに向けられたものではなく,常にその「隣接領域」の研究者にも開かれているものである,という点をより明確に意識する必要があります。つまり,「隣接領域におけるその心理専門書の意義」についても,出版社の人間として発信していくことが求められているのだということを痛感しています。
以上の課題はいずれも「言うは易く,行うは難し」です。現在のところ,小社の刊行中のシリーズ『現代の認知心理学 全7巻』(http://www.kitaohji.com/topics/series_panfu.pdf)をひとつの材料として,これまで小社があまり知らなかった(逆に言えば,小社のことをほとんど知らなかった),心理学領域以外の研究者に対するアプローチを試みているところです。私たちの力不足もありその歩みは遅々としておりますが,近い将来,書店の皆様にとっても有用な書誌情報が提供できるよう,粘り強く試みを続けていきたいと思っております。今しばらく,温かく見守っていただけますと幸いでございます。
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