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誰でも出版?! クラウドファンディングで2冊出版して思ったこと

こんにちは。湘南・茅ヶ崎の「海辺の出版社」と申します。
代表の私は「まきりか」という名義で作曲家・脚本家をやっていまして
ふだんはミュージカルやドラマを書いています。
新しい表現方法を求めて、2021年に出版社を立ち上げました。

さて、その新しい表現方法とはなにか? ということですが
私の「作曲家」というバックボーンに、その発想の原点があります。

今の時代はお金を払ってCDを買うことはなくなりました。
あっても「グッズとして」の購入ですね。

たいてい無料でYouTubeで視聴できますし
サブスクに入れば、さまざまな曲を探してダウンロードして聴くことができます。

私は、長年、J-POP、CMソング、ゲーム音楽などの分野で
作詞・作曲・音楽プロデュースに携わってきたのですが
もう完全に音楽の供給の形が変わったのを感じていました。

曲を売って収益を得る時代は終わったなと。

加えて、今は手元のパソコン1台で、自分で作・編曲を
(クオリティはともかくとして)完結することができるし
それをメディアで発表することも簡単になり
その中からバズってアーティストとして羽ばたく人も増えました。
なんなら、AIに任せることもできます。

誰にでも、表現するチャンスは無限に広がったのだと思います。

一方で、「誰でもできる」ものだけに
巷にあふれているものは「クオリティが低いな」と感じていました。

どうせ作るなら、周囲に
「いい曲!」「神曲!」
と言われるものを作った方がいいでしょう??という思いから

音楽レーベルを立ち上げ
こんな電子書籍を出し

誰でもプロの作詞家・作曲家になれる方法
著 まきりか

理論を知らなくても「いい曲」が作れるノウハウを公開したりしていました。

そうこうして出版に深く関わるようになるうち
書籍も、書店に並べて買ってもらう時代が終わる気がしていました。

音楽と同じ道を辿って
「誰でも書ける、出せる」
ことが当たり前になってくるように思えたのです。

実際に、AIによっていくらでもそれは可能になりましたし
Amazon KDPによって、ハードルも低くなっています。

でも、一方では
自己満足のため、実際にはほとんど流通しない自費出版や
企画出版という名の実質的自己出版に
大金を預けてしまう人が多いことも、気になっていました。

誰でも本が出せる時代だからこそ
読んだ人が「読んで良かった」と思える1冊を
著者と一緒に丁寧に作っていきたい。

作曲家・脚本家の私としては
感動で誰かの心を震わせて
その人の人生が「あの作品で変わった」と、あとから言われるような
そんなものでなければ
クリエイトする意味がない、と思っているのです。

それで、有名無名を問わない著者を、私が全面的にプロデュースする
「海辺の出版社」を立ち上げたというわけです。

前置きが長すぎて、さっぱりクラファンの話が出てきませんでしたね、
すみません!!!

さて、それで

一芸に秀でていたとしても、全国的には知名度がない、
それゆえ、たとえ書店に並んでもまず素通りされてしまうような
(弊社はトランスビューさんに取引代行をお願いしていますので配本はないのですが)
新米著者の場合。

私は、クラウドファンディングによる出版を勧めています。

つまり、クラファンのリターンとして書籍を送るのです。
他にもリターンをたくさん用意し、高額コースや10冊まとめ買いコースも設定して
支援者を募ります。
その方法や、メリット(デメリットも)を教えていて
クラファン運営側のサポート体制とも連携しています。

2023年10月、弊社はこのスタイルで2冊の本を出版しました。

お人持ちの法則
著 八島哲郎

北海道のワインに恋をして ―魅せられて、歩いて、話して6000日―
著 荒井早百合
10月31日発売

無名の著者にとって、本はなんのために出すのかというと
それは自分が極めてきたことを伝えることによって
共感の輪を広げる、という目的だと思います。

バックエンドに売りたいものがあるビジネス目的であっても同じことです。

そして、仮に300〜500人でも自分に共感して
自分のファンになってくれる人がいたなら
その人は幸せです。
1000人いたらその中でお商売も回るでしょう。

でも、
無名の著者にとっての実売1000部は、かなりハードルが高いです。

第一、 売る前に「知ってもらう機会をいかに作るか」という問題があります。
版元が、新米著者に大きな宣伝費をかけることはまずできませんよね。
そして、プロモーションの力は、宣伝費に比例します。

結果として、著者が狙っていた効果を出すことができなかった
ということは十分起こり得ます。

「だから、応援してくれる人を
先に300〜500人集められる人になってください。

既に本を手にしてくれているその数百人と一緒に
その本を世に出していってください」

私は、自分の出版講座「海辺の出版大学」で
生徒さんに、クラファン出版の意義をそのように伝えてきました。

そういう考え方で、クラファンに挑戦し、
多くの応援を得たのが、上記のお二人の著者です。

八島哲郎さんは、2百数十名の方々から、3,000,000円に近い金額を
荒井早百合さんは、502名から、4,462,000円を調達し、出版が実現しました。

さて、この活動
「版元」としてはどうだったのか、という話ですが

まず、既に数百名の読者が届くのを待っている、というスケジュールの中で
書籍を仕上げていくことは、想像以上に大変でした。

執筆が進まない、編集上に確認事項が多くて進まない、など
通常起こりうる遅延原因のたびに
クラファン支援者へのお詫び文を出し、ごくたまにあるクレームに対応していく
という業務が増えます。
精神的なプレッシャーも増えます。

クラファン支援者からみると「既にお金を払っている」ことになるので
間接的に、既に版元の「お客様」でもあるのです。
そう思うと、著者が実施したクラファンであっても無関係ではいられません。

事前によく著者と相談し、出版社が対応することしないことを取り決めた上で
充分に余裕をもったスケジュールを組むことが大切だと思いました。

ですが、そのような大変さはあったとしても。

やはり、その本と著者にとって
発売時から数百名の読者に待たれ、歓迎され、
一緒に出版を喜びあえるというのは
他にはない感動だと思います。
版元、編集者としてもそこの場に居合わせることができるのは
大きなやりがいと達成感を感じられる瞬間でした。

また、版元のリスク的にも、既に売上が立っている状況になりますので
それは大きな安心材料です。

著者にとって
クラファンで資金を募るのは
精神的に大きなエネルギーがいることですし
うまく進まなかったりする時のストレスとダメージは相当なものです。

(横にいる版元も、平気ではいられません)

それでも
「出してから売るか、出す前に売るか」
の違いだけで
自分のファンを作る努力をどこでするかといえば

私は、出す前にクラファンをがんばられた方が、
著者にとっての幸せの総量が多いように思えました。

ただし、版元の念持と協力が不可欠ですが!!(笑)

芸能界でも、巨塔が崩れていくニュースが話題になっていましたが
これからは、一握りのスターを大衆が見つめる
という図式が変化していくように思います。
出版界でも
限られた数の大ヒット本が書籍売上を牽引している今の姿は
そんなに急には変わると思いませんが
その一方で別な潮流が生まれているとも感じます。

それは、誰でも表現できる時代になったからこそ
それぞれの人が、それぞれのコミュニティで、仲間を作り
その中でみんなが思い思いに表現しあう
そんなエンターテインメントを楽しむ時代なのではないかと。

そんな混沌の中で
出版社の役割も、いろいろと形を変えていくのではないかと。

本には、まだまだできることがある。

新しい時代のエンターテインメントとしての出版を
これからも面白がりながら
追求してみたいと思っています。

海辺の出版社の本の一覧

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