AIと出版
はじめましてGLANZ PLANNINGの樋口です。わが社はベンチャー出版社としては駆け出しで、しかもリハビリ関係の国家試験対策本がメインです。社員も医療系出身者ばかり、出版業としては素人で、自分たちの体験談は皆様にとってはおそらく自明なことばかりだろうと思い、このような日誌に書くことはないのかな・・・と思っておりました。しかし、この3月におこったことは記録として残した方がよいかもしれないと思い、筆をとることにしました。それはAIと出版についての変化の兆しについてです。
2024年の3月、その日X(旧Twitter)上で「Claude(クロード)3 opusがchatGPT-4を超えた!」と話題になっていました。AIの使用は今までも行っていましたが、ClaudeというAIサービスはそれまで耳にしたことがありませんでした。それでも、課金して使用したのはたまたま気が向いたからで、そこまで期待していませんでした。chatGPT-4はそれまでも使用していましたが、多少仕事のアシストになるかなという程度で、そこまで使用していませんでした。例えば、多くの問題を解くような処理では、API(ソフトウェア連携)を通じて処理する方法がありましたが、出力の質はお粗末ということが多く、修正に時間がかかり、参照資料程度という感覚値でした。
例年3月は医療系の国家試験は終了しており、デジタルデータの変換も終了していました。Claude3 opusは大量のテキストデータが入力できるのが強みです。いままでも何度か手持ちのデータをRAG(検索拡張生成)にトライしましたが構造化などなかなかハードルが高いものでした。これが簡単にできるのは大きな魅力です。試しに終わったばかりの試験問題のデータを入力し、簡単なプロンプト(指示文)を作成し出力させてみました。びっくりしました。解答できているというよりも、文章の質に対してびっくりしました。当時のchatGPT-4では、文章がうまいという感覚はありませんでした。ちょっと出来の悪い学生の書いたものという印象です。その時、文章がうまいというのは、「出版」を変えるかもしれないと直感的に思いました。
その後、これを書いている1か月の間にも、劇的な変化が何度もあり、ついにchatGPT-4クラスの非常に高性能なLLM(大規模言語モデル)が、ローカルなPCでも稼働可能な段階にきています。もちろん、まだまだ一般的なPCでは実用的速度では処理を行うことは難しい状態です。今年は始まったばかり、今年度の後半にはもっと軽くて高性能なものが利用できるはずです。このようなLLMの進化は、そのものがバックエンドのプロダクトになるというよりも、フロントエンドのプロダクトになりつつあるという急速な変化です。この1か月ではオープンソースのLLMがMeta社などのビックテックから出始めたのも一つの流れであると思われます。
そして、自然言語で命令を与えたLLMの出力に対して、さらにどのように処理を加えていくのかが近時的な課題となってきつつあります。「出版」にとっては、より短期間に製品化できる手段の一つになりえますが、AIの写真集の様に大量のプロダクトがあふれてしまうということは簡単に予想できます。最終的な製品のクオリティを上げるために企画からプロンプトの構築、人の手による編集や校正など、様々な試行錯誤が必要なフェーズかなと感じます。
ちょうど、企画していた本の出版時期と重なったので、AIを編集などの支援に使用した医療関係本のシリーズを「メディケアブックス」としてレーベル化することにしました。第一弾「摂食嚥下障害への徒手的アプローチ」
が5月の末に出ます。これは医療(リハビリ)の専門書なので皆様の参考になるわけではありませんが、この間プロンプトなど試行錯誤した結果を反映したもので、その意味でも面白い本になっているのではないかと感じています。また、同様にAI支援を前面に押し出した医療・介護の会員制投稿+出版支援サービスも「メディケアブックス.JP」として始めました。このサービスはまだ執筆段階ではプレローンチですが、日誌が出るころには形になっているはずです。
ここまで書いてきましたが、実のところAIをプロダクションの支援に生かすには、かなりのノウハウが必要です。そして、AIを使用する側の意識も変えないといけません。もちろん著作権等の問題もあり、整理をしながら進めないといけない状態です。今後間違いなくAIは出版を変えていくでしょうが、AIの能力を存分生かし、リスクをヘッジしながら作業効率を高めるためのヒト側の工夫が新しいスキルになるという予感があります。新しいものが正しいわけではありませんが、出版に大きな変化が迫っているのは間違いなさそうです。
(2024.4.30記)