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「たくさん売る」以外の在りかた

本屋さんが閉店するとき、「○月×日で閉店」というニュースがSNS等で飛び交い、その閉店を惜しむ声も聞こえてきます。

一方、一冊の本は、本屋さんが閉店するときのように「○月×日で絶版(品切れ)」「版元在庫限りで絶版」というニュースは流れません。昨日まで元気だった本は、ひっそりと重版未定という世界へ旅立っていきます。

版元だけがなんとなくそれを知っていて、それをわざわざお知らせすることもありません。仕方のないこととはわかっていても、ちょっと寂しい気がします。この現象は、自分が出版してきた本も他人事ではありません。

なぜ、重版未定になるのか。 ※ひとまず紙の本の話です
本には様々な役割やタイミングがあるので、一概には言えませんが、権利の問題を除けば、版元の事情によるところが大きいのではないかと思います。
少なくとも、うちの場合はそうです。もし、版元(自分)の事情で一冊の本が重版未定になるのであれば、本自体には関係のない話であるはず。

ところで、自分で作った本に対して「長く残ってほしい」と思っている版元の人はどのくらいいるのでしょうか。勝手な憶測ですが、結構多いのではないかと思っています。
少なくとも、私はそうです。

もちろん、長く残っていけばいい本ばかりではないので、それらの本たちは短期間にたくさん売れればよいでしょう。なにも問題ありません。ただ、そうではない性質の本もあって、それらの本も同じような速度でたくさん売れるというのは、ちょっと無理があるような気がします。全ての本がその流れの中に居なくてもいいのかもしれません。

すみません、申し遅れました。
果林社の荒木と申します。
「果林社の荒木」なんて言ったものの、少しむずむずします。

私は、2003年から東京・高円寺で「えほんやるすばんばんするかいしゃ」という絵本専門の本屋をやっています。
最初の10年くらいは完全に古本屋(絵本専門)だったのですが、行き当たりばったりでやっていくうちに出版をスタートし、古本だけではなく新刊(新本)も扱うようになりました。出版をスタートしたのは、2013年。ちょうど10年前。ただ、出版といってもISBNを付けず直取引のみでやってきた、インディーズな出版です。発行部数も100部~3000部くらいの規模。10年間で16点の本を刊行しました。

この活動のおかげで、様々な発見がありました。同時に、続けていくと、いくつかの壁にぶつかることになります。お金のことや、届く範囲のこと、温度のことなどなど。たくさんあります。経験のようなものが増えれば増えるほど、これまでできてたことができなくなり、いつの間にか活動自体が綺麗ごとへと変化し、気付いたときには矛盾だらけで身動きが取れなくなってしまってました。この状況をどうにかせねばと思ったのと、商業出版の流通を使っていくつか試したいことが生まれ、出版部門を独立させました。
それが「果林社」です。
そして、この活動が始まったのが、2023年4月。 ※設立は2021年
このようなやり方でやってきたので、未だに商業出版の流通のことは全然わかってません。知人に勧められて、まずは版元ドットコムに加入しました。果林社名義で出版するものにはISBNを付けて、流通はトランスビューさんにお世話になってます。こういう経緯なので「果林社」は、自分でも馴染みがない出版社なのです。ちなみに、果林社名義の本は現在4冊刊行されています。

今回は、果林社で実際に試していることの一つを書いてみます。
そもそも「果林社」の立ち位置は、発行元ではなく発売元です。というのも、果林社の本は全て、書店が発行元になっています。そして、既刊本4冊のうち2冊は共同発行というやり方で出版しています。簡単に説明すると、一冊の本を書店が資金を出し合って運営するやり方です。

ゆくゆくは10店舗くらいでやってみようと思ってますが、現在は実験段階なので、ひとまず書店4店舗でやってます。具体的にどんなことをやっているのかというと、お誘いする書店さんにBCCにて下記の内容のメールをお送りしています。
(条件部分のみ抜粋)

なんとなく伝わりますでしょうか。

・定価(上代)で販売できるのは書店のみ → 6割が利益となる
・書店は、基本的に1種類の販売方法しかない(自店で販売するのみ)ので
 卸販売という選択肢を設けることで2種類の販売方法が可能になる
→ 卸販売の場合でも、7掛けで卸すので3割が利益となる
・書店が版元になれば、その本はその書店に並び続けることができる
・重版時に10%還元する
→ 売りたい本がどこで売れても喜べる存在を増やす(現状は、版元と著者くらい)
・在庫の分散
など

書店が版元になるメリットは他にもあるのですが、これ以上文章であれこれ説明すると長くなるのと野暮ったくなるので省略します。果林社の本は、このような条件で書店に版元になって頂き、一冊の本を運営をしています。
現段階では、えほんやるすばんばんするかいしゃ名義で出版した本を重版(リニューアル復刊)するタイミングで、この方法を試しています。なので、過去にその本を扱って頂いたお店を中心にお誘いのメールをお送りしています。

奥付のイメージは、こちら。

私は人付き合いも悪いし、本の営業もしないし、人を頼るのが下手だし、面倒くさがりだし、ビビりなので、書店さんにお誘いのメールするのもかなりドキドキしました。
試したいと思ったことを自分のお店で完結することならまだしも、他人様のお店を巻き込んでやるなんて、自分の中ではかなり大それたことをやったなあと思います。お付き合い頂いている皆様には本当に感謝しかありません。
こんな性分なもので、ただただ、自分の疑問や興味のためにやっています。
消極的なつもりはないのですが、自分自身に上記のような性質もあるので、正直このやり方が直接的な形でうまく機能するとは思ってません。間接的に巡り巡って、自分が知らないところに流れ着くといいなとちょっとだけ思っています。でも、何も起きないかもしれません。どこかに流れ着いたとしても、それがどんな形なのかは想像もつかないし、その形や現象に気付くこともないかもしれません。ただただ、自分の作った本たちが自分の都合でいなくならないように願っています。
果林社を通して、そんな手応えのないことをやっていけたらいいなと思っています。

最後に。
たくさん売れなくてもやっていけることに興味があります。
「やっていける」のは自分じゃなくて、本がやっていけるようになればいいと願っています。

商業の流通は、近くの遠くの人に常温で届く感じが好きです。ただ、自分にとっては速度がちょっと早い。まだ始めたばかりで慣れてないせいもあるかもしれませんが、もう少しゆっくり、忘れられても本がやっていけるようにしたいです。こう感じるのは、お店が古本屋から始まったということと、インディーズな出版を経たからなのかもしれません。

ちなみに、インディーズな出版をやって自分なりにやってきて思うのは、温度がやや高く、距離がちょっと近い。直接手渡すことが多いせいか、自分の存在が余計だなと感じるようになりました。ただ、これはいいところでもあるので、作る本の性質次第ではこれからもやると思いますし、やっていきたいです。自分ではどうにもできない理想を言うならば、時間を含んだ古本の温度がちょうどいいです。それから、古い本たちの時間の在り方も好きです。時間が進んでいるというより、行ったり来たりあっちに行ったりこっちに行ったり、とどまったりしているように見えます。これが、すごくいい。どの本も、いい具合に古い本になってほしい。古本になってまた自分のお店やどこかの古本屋に並んでほしい。

「本がやっていけたら」なんてことを思いながらこの文章を書いてても、最後は古本で終わるなんて、矛盾してるかもしれません。でも、どういうわけか、この矛盾が妙にしっくりきます。矛盾だらけになると身動きが取れなくなるのに、ちょっとの矛盾は動機になるとも思う。不思議です。

そうそう。
大好きな本で、絶版になっているものがいっぱいあるので
いずれ、古い本の復刊もしたいです。

これも、たぶん矛盾。

果林社の本の一覧

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