版元ドットコム

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版元ドットコムの「初心」を読み返してみる

版元ドットコムがサイトを公開したのは、2000年2月。テ ストサイトとして、データベースだけを公開し、販売システムは間に合 わなかった。販売を開始したのは夏。
その前年の1999年12月と2000年2月に版元を 対象にした説明会を開きました。
そのときに書いた「呼びかけ文」が下記のものです。

サイト公開から5年たった。
当時、版元ドットコムがめざしたものがなんだったのかもう一度ふりかえってみたいと思います。

私たちは、本のデータベース、ネットワークでの販売と決済、本のダウ ンロード販売のサイト(ホームページ)として、「版元ドットコム」 を、2000年3月に試験公開しようとしています。

この版元自身が運営する共同事業に、版元のみなさんの参加を呼びかけ ます。

私たちが版元ドットコムのサイトをつくるのは、版元こそが、「本の内 容」を全国の読者に知らせる責任があると思うからです。
読者が必要とする本の存在を知るためには、どんなタイトルの本があるかではなく、どんな内容の本が、何というタイトルで売られているの か、検索できなければなりません。
その事業は、版元自身が運営しなければならないと思います。
書協がデータベースを運営しています。取次が、書店が、販売のための サイトでデータベースを開いています。書協の基礎的なデータを版元が 提供しているのを除けば、取次と書店が私たちのつくった本を見ながら、データをつくってくれています。しかし、その本を熟知している版 元自身が、本来こうしたデータをつくって全国の読者に利用してもら い、取次や書店にも提供すべきだと思います。
また、本の内容を知らせることは、読者とその本と書き手のためである ばかりでなく、売上げという形で私たち版元自身のためになるのです。
ネットワークよって、「本の内容」を全国の読者にデータベースのサイトで公開することができるようになりました。もう、手をこまねいているわけにはいきません。

私たちは、相変わらず客注にかかる時間を短縮できずにいます。版元に届いた短冊の日付を見ると、ゾッとするほど時間の経ったものもあります。たぶん、「迷子」になっていたのでしょう。
客注にかかる時間の短縮にむけて様々な取組が必要だと思います。私たちは、その一つとして、ネットワーク上で決済し、送料無料で直接、版元からお客に送ることにしました。これで、注文を受けてから2〜5営業日後にはお客に届けることができます。
このシステムは書店にも直販するので、客注に迅速に対応してもらえます。書店と一緒にこの客注品問題を解決する、具体的な取組を版元自身もしていかなければならないと考えるからです。

ネットワークが拡大する一方、本の売上げが減少しています。いまほど版元に新たな取組が求められている時はありません。
本の企画や内容そのものを除けば、生産と流通でのデジタルの利用が、新たな取組の核心だと思います。
当面、本は紙の姿のままでしょう。しかし、その一部はすでに、CD-ROMなどやオンデマンド印刷という方法をとっています。ネットワークで、デジタルのまま、「本」が販売されてもいます。流通情報は、あらゆる面でコストのかかるVANでなく、インターネットが活用されるようになってきています。
私たちはこうした状況をくぐり抜けていくために、版元ドットコムが武器になると思います。デジタルとネットワークに親しみ、習熟していくのです。
紙の「本」をデジタルでつくっておけば、増刷をオンデマンド印刷にすることは容易です。サイトで販売するにはデータを変換するだけです。
書店の店頭での販売実績はネットワークで公開され始めています。受注・請求・決済をネットワーク上ですませている業界は珍しくなくなりました。
デジタルとネットワークは、これからの出版業界の基本になると思います。ですから、版元ドットコムを利用して、武器を手に入れるのです。

私たちは、この版元ドットコムに本のデータを掲載すれば、本が自動的に売れるようになるとは思っていません。日本のネットワークはまだ十分に成熟していません。しかし、情報の交換と通信が、ネットワークでおこなわれていくのは間違いありません。そのときを待っていては遅すぎるのです。今から準備すべきなのです。
私たちはこの版元ドットコムの会費を低コストにしました。入会金1万円、月額会費を2千円から5千円までに抑える見通しを持つことができたのです。
だからといって、すべての版元に参加して欲しいと考えてはいません。専門書の版元同士が横断組織で共同の営業活動をしているように、様々な版元グループが「内容検索データベース」をもち、独自のサービスを提供していって欲しいと思っているのです。
むしろ、そうした様々な版元グループのサイトを、いわば串刺しして本を探すといった、読者の活用の姿を思い浮かべるのです。そのために、様々なサイトと共同したり競争したいと思うのです。

本の未来を、私たち版元自身の手で切り開いていくために。

版元ドットコム幹事会社一同・2000年2月1日

ちょうど5年前のものです。
どうだったですか?

(次週に続く)

書誌データ・在庫データの重要性の認識が業界全体に広まってきたって話。

この1年、出版業界で、書誌・在庫データ(デジタル)が重要だ、っていう認識が格段に広がった感じが強くします。
5月の版元ドットコム会員集会には多数の参加者が集まったし、懇親会の会場で、取次会社とネット書店から「デジタルデータで送ってほしい」「送ってくれるところを優先しますよ」っていう発言があってますますその「感じ」が強まりました。
先日、「本屋の村」という、書店の販売管理システムを自分たちでつくっている「パソコン好き」の書店グループの人たちが東京に来たんで、一緒に昼飯を食ったんですよ。
パソコンにバーコードリーダーをつなげて、POSレジを実現しちゃってます。
お店のすべての在庫を単品で管理することもできます。売り上げデータをみれば、どの本がその書店で何冊、いつ売れたのかをみることもできます。
ユーザーたちのメーリングリストに入れてもらっていて、やり取りを読んでるんですけど、まあ、初心者的な質問があって、それにスタッフが答えたりしてます。電話で教えあったりもあるみたい。ほんとに大変だけど、パソコン好き書店だけの集団じゃないんですね。
で、その単品管理、ですけど、それを実現するのに一つだけネックがあります。だれもが使える書誌データがないってことです。
本に僕らがつけてるバーコードは、単に数字を示してるにすぎない。その数字(主にISBNコードですけど)をISBNコードを媒介にして書誌データに結びつけて、はじめてタイトル・出版社・著社名が出てくるんですよね。だから、あらかじめそのシステムに書誌データを入れとかなければならない(もちろん、ネットにつなげておいて、ネット上にあるデータベースみたいなところから瞬時に書誌データを引っぱってくることも可能ですが)。
で、その書誌データ、だれもが利用できるものがないんです。みんな有料だってことです。
日販・トーハンといった取次会社の有料サービスに入れば、その日その日の納品データなどもコミでネットワークからダウンロードして、取り込むことはできるんですけどね。他の取次会社から本を仕入れている書店はダメ。費用も覚悟しなきゃ。
昼飯を食いながら「本屋の村」の人たちに言われたのは、出版社が(あるいは業界で)そうした書誌データをだれでも使える形でネット上に公開してほしいってことでした。
もちろん、こうした要望に応えられるようにしよう、というのが版元ドットコムは発足の一つの動機なワケです。
なので「本サイトに掲載されている、書影を除く書誌情報は、販売・紹介目的での利用に限り利用を認めます」という一文を入れているのです。んで、さらに、よりダウンロードしやすいフォーマットでも公開することを約束してきました。

ネット書店が取り扱う本は、版元が在庫の有る無しを、デジタルデータで業界各社に送っているものに(ほぼ)限られています。
ですから、書誌データ・在庫データの整備と公開と送信が、本を売ることにますます大切なことになっています。
で、そうした「大きな(ネット)書店」に限らず、小さな書店にとってもこうしたデータが必要になっています。
一冊でも多くの本を売るためには、こうした小さな書店でも僕らの本を扱ってもらうことが必要です(ってここんところはホントは具体的なフォローが必要なんですけど、今回はそのことは無視して決めつけておきます。やっぱ小さな版元の本はどうしたって大きな書店が中心になってる実態と必然もあるんで)。
できるだけ早い時期に業界全体でデータの整備・公開を実現したいもんです。

「伝説のオカマ」は差別か

『週刊金曜日』の6月15日号に「伝説のオカマ 愛欲と反逆に燃えたぎる」という記事が掲載されました。このタイトルに使われた「オカマ」が差別だとすこたん企画が抗議しました。
この問題を深く検討しあう場として、ポット出版のサイト(http://www.pot.co.jp/)に『「伝説のオカマ」は差別か』というコーナーを開いています。
記事そのものや、経過、さまざまの人の意見などは、ぜひサイトを見てみてください。
で、僕の考えの要点を書いてみようと思いました。

第一に、差別ってなんなのかってことです。
ある基準で人間を区分けしてグループにして、丸ごとキラっちゃうことではないかな、って思ってます。
で、ある基準で人間を区分けするってコトは、しょうがないことだと。
グループにしてしまうことも、半分ぐらいはしょうがないことだけど、とっても危ないことなんで充分に注意すべき。
第二に、じゃ、あることが差別かどうかを、実際に判断するのは誰かってことです。
これは、「みんな」って思うしかないんじゃないか。
よく「踏まれたもの痛みは踏まれたものにしかわからない」っていうけど、これが今日の差別をめぐる問題の最大の誤りだと思ってる。
被差別者がうけた不利益の原因を機械的に差別にしてしまうことがあると思うんですが、これも気をつけなければならないポイント。
第三に、じゃ差別をなくすためにどうすることができるのか。
いろんな方策を立てなければ、差別を減らすことはできないと思うのですが、その大元の大元は、差別された人が「なにそれ? ばっかじゃないの。それで私をへこましたつもりなの」って思えちゃう、言えちゃう状況をつくることだと思うのです。

さてさて、メディアにおける差別と差別表現の問題をどう考えるか、です。
僕が『週刊金曜日』の編集長だったらどう対応するかな、っていうことで考えをまとめてみます。

まず第一に、抗議をうけたらどう対応するか、です。
僕は「じゃ、著者に連絡とって場を用意しますから、抗議は直接、著者にどうぞ」っていう意味のコトをいうと思います。
この記事は及川健二さんというライターの署名原稿ですから、著作権はもちろん、責任も著者にあると思ってます。
で、逆に言えば、常日頃から署名原稿に対しては、編集者としての意見などは目一杯いいますが、最後の判断は任せます。直す・直さないの最終決定権は著者にあると思うからです。
もちろん、その本や雑誌の基本的な狙いと大きくかけ離れていたりすれば、掲載しないという対処をすることもありだとは思います(その場合、原稿料を支払う・支払わないは、いま考えをまとめられてませんが)。
しかし、ただ知らんぷりするということではないですよ。その抗議の場には必ず同席します。
第二に抗議に対して、どう答えるかです。
もし、著者が「たしかに指摘のとおり、詫びたい」ということになったら、そのお詫びと抗議の内容を掲載します。
編集部としての、編集長として意見も掲載するかもしれません。
また、著者が「抗議には納得できない」となったら、その抗議をした人に、いかにその記事は差別なのかということを書いてもらって掲載します。
最後は読んでくれている人に判断してもらう、ということしかないと思ってます。
で、これで、抗議した人が納得しない場合にどうするのか? 
どうしようもありません。考え方がすりあわなかったんだから。

その記事が差別かどうかを判断するのは「みんな」でしかないと思うからです。
この場合の「みんな」は読んでくれている人、です。もちろん、抗議した人、された人(著者・編集部)も含んでいるとおもいますが。

僕が考えていることの要点を書いてみました。
『「伝説のオカマ」は差別か』というサイトをやってるわけだから、今度、もっとわかりやすく書いてみようと思ってます。
だから、http://www.pot.co.jp/ を時々見に来てください。

最近、版元ドットコムが取り組んでいること

5月25日(金)●版元ドットコム集会が近いもんで

 5月25日(金)の17時から、神楽坂の出版クラブ3Fで版元ドットコム集会を開くことにしました。会員・会友はもちろん、出版業界の方々、読者の方も参加していただけます。

  そこで、そのときに報告し、実際にみてもらう予定のシステムと今後の計画について、いくつか報告することにしました。
 最初にことわってしまいますが、いま取り組んでいるシステムは、お客さんに喜んでもらうためというよりも、版元と会員がさらに版元ドットコムを便利に使ってもらえるためのものが中心だと、僕は思ってます。
 それは、このウェブサイトを、より多くの本の情報を持ったデータベースにすることが、お客さんに喜んで使ってもらえるものになり、そのためには会員版元が、より便利に使ってくれる環境を提供すること、そしてその結果、いち早く多くの本の情報がこのサイトのデータベースに集まるようにすることが近道だと思うからです。

  版元ドットコムは、3月から本のデータベースに対する考え方の基本を大きく修正しました。「会員版元は、まずすべての既刊本の情報をデータベースにいれてもらう」という考え方を変えて、「新しく発行した本の情報から、データベースにいれてもう」ことにしたのです。
そのために、新刊データ登録のインターフェイスを全面的に見直して改善しました。
同時に「あと○○日で発行しますよ」という発行前の情報を、版元ドットコムサイトのデータベースに登録すると同時に、取次各社(出版業界の問屋)・bk1 などのネット書店・書協(出版社の業界団体で本の検索サイト・書籍データベースを運営)へも、チェックボックスをクリックで選択するだけで自動的に転送するようにしました。
また、在庫の有無を大阪屋(取次)などに自動転送する機能もつくりました。
さらに、こうした情報の転送は箇条書きのように記録されるので、あとあと、どんな情報を、どこへ、いつ送ったのかまとめて管理することができます。
 こうした便利さを提供することで、会員版元のいち早いデータ登録を実現しようとしています。 また、ボタン一つで会員版元が登録している本のデータすべてをダウンロードできるシステムも現在準備中です。これが実現すれば、出版目録をつくる際に、ボタン一つで原稿の準備ができることになります。
これにプラスして、メールマガジン『版元ドットコムNEWS』を創刊しました。
これは、データの自動転送機能を使って、かなり自動的に制作・発行(送信)できるようにしています。

 

 さて、次に、いま実際に取り組んでいることです。
 第一に、いよいよ5月〜6月を目途にカード決済に取り組んでいます。
ネットでの決済方法としては、まだまだ少数の方にしか使われていないようですが、選択肢を広げるという意味からも、取り組んでいるのです。
 第二に、カード決済と同時期に、書店に[買い切り・80%・版元から直送・版元と直接決済]で仕入れてもらえるシステムを作ります。
これらに伴って、サーバ・通信回線・の改良も進めています。

 さて、読者のみなさんにこんな「内輪話」はつまらないかもしれません。どうも、ゴメンナサイ。で、こうしたシステムが出来上がったら、いよいよお客さん・読者のみなさんに楽しんでもらえるサイトづくり、サイトの改良へと取り組みを始めるつもりです。
いろいろと夢見ていることがあるんですが、今はまだ「オオボラ」にしかすぎないので、もう少し現実化したらまた、書かせてもらいます。

ポット出版の本の一覧

IT革命と印刷・出版メディア

 去年の10月29日に、出版労連と全印総連と共催したシンポジウムで話をさせてもらった。今回は、それをまとめてみました。

 今回の「IT革命と印刷・出版メディア」というシンポジウムのテーマを聞いて「ああなるほど。これほどIT革命っていうのはみんなにインパクトを与えて、脅かして、危機感を持たせてる、そういう言葉として1人歩きしてるんだな」って言う感じがした。

 僕自身は「けっ!」て言う感じです。

 例えば百姓が自分で作った米を、ネットワークを経由して直販したとしても、日本のコメ消費が2倍に増えるなんてことはありえない。インターネット・IT革命に乗れば景気がもっとよくなるといったことは基本的にないと思う。

 町の米屋さんの売上げがやや減って、直販とかネット上の店の売上げがやや増える。

 販売がネットにシフトしてしていく率が一定ある程度の事にすぎなくて、そう言う時に「いいシステム作れますよ」「パソコン売ってますよ」っていう業種がちょっと伸びていくにすぎない。この程度の「IT革命」にビビルのはちょっと違うんだろうろと思う。

 SOHO(スモールオフィス ホームオフィス)だの、「在宅で仕事ができるようになるんじゃないだろうか」というもてはやされかたもされているけど、物を動かさなければ仕事にならないんだから、みんながみんなパソコンのまえに座って仕事になるワケがない。

 ポット出版では宅急便とバイク便の経費が増えている。たしかに、打ち合せは減ってる感じはするが、指定紙だとかMOをバイク便で送るとかいったものが増えている(バイク便も安くなって、都内千円くらい。社員が動くよりそっちのほうが安いんじゃないかって言う事でどんどん増えている)。

 結局、だれかが物を動かしてくれなければ我々の仕事でもなりたたない。

 米を食べるには誰かが物を運ばなきゃいけない。この事態は変わらない。

 ネットで米を売る事はできるけれども、ネットでコメを運ぶ事はできない。ここに決定的に従来と変わらないところがある。

 入口、出口がネットワークにちょっとだけ肩代わりされる。これがIT革命の中でeコマースだのと言われていることで、その程度のものなんだろうなと思っている。  ただしIT革命、コンピュータやネットワークが、僕達の社会になんの変化も及ぼさないかというと、これはまだわからないというのが結論なのだ。  ネットワークとコンピュータ社会によって、社会のありようが革命的に変わっていく可能性もまだまだある。

 例えば電子メールというメディア。

 大昔は直接ことばで連絡しあっていた。それから手紙(文字)というものを送り合うようになった。電話ができて再び声でコミュニケーション、意思疎通をするようになった。その間にファックスやポケベルなども使われた。

 そして今僕は、電話なしの仕事が考えられないように、ファックスなしでは仕事にならないという体になっているのと同じように、電子メールがないと生きられない体になりはじめている。

 電子メールなどのインターネットという道具が、言葉→手紙→電話のような、メディアの単純な変更なのか、人間同士のコミュニケーションの有り様を根本的に変えてしまう特別な力を持っているものかは、現時点で僕にはわからない。わからなくて良いと思うし、わからないとしておくほうがいいと思っている。

 無理して結論を持つよりも、とりあえず楽しんで使ってみればいいのではなかろうかと、僕は考えている。

●アマゾンコムから学ぶこと

 『アマゾン ドット コム』という本が日経BP社から出たが、僕にはとても面白く読めた。  アマゾンドットコムも最初は無在庫で商売をやろうとしたそうだ。そういう「ビジネスモデル」を立てたらしい。

 ところが今どういう事態になっているか。倉庫に在庫をいっぱい集めるように転換している。

 ネットで注文を取って、その都度版元に注文をだせば、在庫を一切持たずに商売できるんじゃないかとはじめたものの、やっぱり在庫を用意しておいてお客さんに届けなきゃ、全然駄 目だったというのが、この間のアマゾンドットコムの変化であるというのが1つ。

 2つ目に、アマゾンというサービスはなにかということ。

 インターネットとかコンピュータだとかに特有のサービスではなくて、普通の当たり前のサービスをやろうとしたことである。そのサービスの1部には、確かにネットワークとコンピュータがなければなかなか実現できなかったお客様思いのとても良いサービスを思いついたりはしているが、要はコンピュータとネットワークが仮になくても、学ぶべきことの多いサービスだと僕は思っている。

 ワンクリックで注文できるようにした。返品自由にした。スタッフを雇って書評をどんどんつけたし、読者が書評を書けるようにもした。 普通の本屋さんでも経費や手間の問題を除けばやっても良いし、やってる本屋もあるだろう。POPだってある種書評の1つ、本屋で自分なりの書評を書いて配っているチェーン店さんなんかもある。これらは別にネットがなくてもできたこと。それをきちっとやったのがアマゾンだったと、僕は読んだ。

 ただし日本の状況と決定的に違うのは、値下げができたということ。よく言われているように、それでシェアを伸ばしていったというのも事実だとは思う。しかし、これもネットだから実現できたことではない。もちろんその要素がゼロとは言わないけれども普通の店でもできたと僕は思う。

 ネット特有のことはしてない。そういうことから言うと、ぼくらの商売で学ぶ事はいっぱいあるかなと思う。

●ネット書店全体の現状

 折角なので、数字を幾つか拾っておいた。

  1999年の雑誌と書籍の総売上は、2兆4600億くらい。日本国内のオンライン書店全体の売上げが、60億程度のようで、0.25%くらいである。  全体としてはまだその程度なので、「その程度だぞ」ってナメていてもよくて、過剰な反応はしなくてもいいと思う。

 あまり紹介されていない面白い数字で、京都の三月書房という書店がやっている電子メールとウェブサイト(ホームページと同じ意味)を使った通 信販売の売上げデータがある。

 三月書房は本当に町の小さな書店さん。以前から、出版社向けに「販売情報」という紙を発行していた。きちっと配本を確保するためだそうだ。まず、それを電子メールで発信し始め、ウェブサイトをつくった。

 ウェブサイトといってもデータベースも何もない。ただの商品目録の羅列みたいな、一番原始的な、本当に素人が作ったというウェブサイトだ。  インターネットを使う前の通信販売の注文は月に10件ちょっとだった。それが2000年の1月は2件、2月が10件、3月が10件、4月が12件、5月が28件、6月が30件、7月が42件、とのびて、12月には70件。

 町の書店がネット書店にたいして、そんなにビビル必要ないといったけれども、逆に三月書房ができる範囲のささやかなウェブサイトと電子メールで通信販売をのばすこともできる。ということは過大なビビリはいらないけれども、知らん振りするのも、状況として違うだろうと。なにやら立派なシステムが必要なのではなくて、三月書房のあのボロボロのウェブサイトでも、その書店のムード、イロ、営業方針を反映しているものであればインターネットを活かすことができるんだと思う。

●ポット出版の取組と印刷との関係

  小さなわが社でネットやコンピュータを使ってやりたい事は、雑用をコンピュータに置き換える事だった。 社員の出勤簿を昔は表に手書きして電卓で計算していた。給料は比較的早くコンピュータ化したが、時間の計算——30分+45分は1時間15分と出す—— が面倒くさい。各人がエクセル(表計算ソフト)に自分の出勤を記録し、帰りにも記録する。締日に印刷するものには、残業時間などの合計が自動的に計算されている。担当者が給料計算ソフトに時間数を入力すればお終い。コンピュータのおかげで楽に処理できるようになった、というように。

 本の製作のデジタル化はずいぶん前から進めてきた。

 基本的にはクオークやページメーカー、その前の電算写植で作っていた時代も含めて、データは9年分くらいは保存してある。CTPは前からやりたいと思っていたが、今はまだ、フィルム出力+刷版の値段とトントンのようだ。重版することができるとCTP出力をまたしなければならないので、逆に経費がかかる。

 悩みがいくつかある。

 ひとつには、「本になったデータ」を本当に持っているのかどうか確認ができていない。

 印刷屋にMOで入稿し、普通紙で出力したものを従来の青焼校正の代わりと考えるようにして、最後の直しを入れている。この段階で直すものは印刷屋に直してもらっている。その最後のデータをまた戻してもらって保存しているが、2年以上前のものは印刷屋に渡したデータのコピーしか持っていないので、フィルムではなくデータで重版する時はもう1度校正しなければならない。

 データを保存しているのは、千や2千部重版するのが無理なときに、オンデマンド印刷でもっと小さいロットに重版できるように、と考えているから。今は、無茶苦茶コスト高で、使えませんけどね。

 余談だが、日販のオンデマンド出版は邪道だと思う。ページをばらばらにしてスキャニング、画像データにしたものをプリントしてオンデマンドといっている。これではデータが重たい。直しをするのもやっかいだ。だからデジタルデータの状態で保管して、スキャニングコストを省かなければオンデマンドを生かせないと思う。 電子書籍コンソーシアムがやった実験で『あしたのジョー』などを買ってみた。文字を大きくしようとすると、画像データなので、ビュアーからはみ出す。1 行ずつ上下にスクロールしなければならないのが手間。やはりテキストベースにしないと、融通が利かない。画像データを使うのは緊急避難的なやり方だと思う。

 またアプリケーションのバージョンアップなどでも悩む。十年前のデータをウチの環境で開けない。 NEC98で作った電算写植のデータもあるが、MS-DOS3.3だから、WINDOWS3.1の更に前の時代のもの。その機械も取ってあるが、会社が狭いので粗大ゴミに出してしまうと、いよいよ開けなくなってしまう。アプリケーションが進化していくのもいいが、折角保存したデータが使えなくなるので、その辺も考えなくてはならない。

 さらに、テキストの定着・確定の問題。紙に印刷したものであれば、あの人の論文の第何版にこのように書いてあった等と確定する事ができる。 デジタルの怖い所は、そのバージョンの確定が難しいこと。

  『デジタル時代の出版メディア』という本を電子ブック(ドットブック)で作ったが、奥付にバージョン1といれた。あせって作ったので、著者は「デジタル版出版にあたって」と書き加えたかったのだが、「時間がないからやめてくれ。その代わりデジタルだからいつでも変えられるからね。遅れてもいいから書いておいて。先に出したのはバージョン1ってことにしておくから」ってことにしてもらった。

 この書き換え可能、を使えば、「アマゾンなんて絶対にうまくわけない」と書いた物をそっと「やっぱりアマゾンはすごい」とあとになって書き変えることが可能。この、バージョンの管理という問題はまだ未解決。

 紙が素晴らしかったのは誤植も含めて確定したものだということ。デジタルデータは確定しないのが良さであり悪さでもあるので、その良さを活かしつつどのように悪さをなくしていくのか意識しなければならない。

 PDF化なども取り組んでいて、校正紙をPDFにして電子メールなどで送ったりして使っている。印刷・電子ブックなどでも使えると思うが、まだ、現実的な使い方を考えついていない。

 こうしたこと以外にも、ネットで出版活動をいろいろ絡めてやる事を考えている。

 例えば風俗嬢をはじめとしたセックスワーカーたちの手記を35人分くらい集めた本(『ワタシが決めた』)では、手記をネットで募集した。結局、ネットで申しこんできたのは3人くらいしかいなかったが、その途中で実際の原稿を1週間くらいの期間限定で事前に読んでもらえるように公開した。

 紀伊國屋書店のパブラインから売上データを受け取り、ポット出版のサイトで公開している。  日々のデータを見るためには月に10万円以上かかるので、1ヶ月分のデータをCSV形式で送ってもらうコースをお願いしている。月5千円。
 小さな出版社共同で申し込めば10社までは月5千円でいいという話があるので、版元ドットコムの有志で取り組もうかと思っている。また、読者に(ポット出版はすでにやっているが)公開する事も検討している。これからは取次、書店、出版社自身が情報を可能な限り公開して行く事が必要だと思う。できることはやっていこうという姿勢でサイトで公開をした。

 2年前まで電子メールでの本の注文は月に1冊くらいだったのが、今は、コンスタントに1日1冊来るようにはなった。ささやかな数字だが、ネットワークの効果を実感している。

 ボイジャーと協力して、電子ブックも作成している。無料で15分間好きなところを読めたり、限られたページだけ読めるようにして「立ち読み」できるようにし、有料でダウンロードすれば全部読めるようになっている。電子文庫パブリ(絶版の文庫を電子データで販売するサイト)でも1部採用しているのと同じやり方。紙のメディアは1800円、こちらは1000円とつけた。これは八百屋のたたき売りと同じ感覚での値付けにすぎない。紙などに経費がかかっていない分、下げたほうがいいかなという感じがしたので安くした。根拠は何もない。一定期間後に総括しなおす予定。ちなみにまだ9冊しか売れていない。 このようにどれがうまく行くかはわからないので、考えつくことはすべてやってみようと思っている。

●版元ドットコムの試み

 版元ドットコムは、皆さんから本を売るために始めたというふうによく誤解される。でも、書誌データはもちろんの事、本の主な内容、例えば前書き、目次全文までネットワーク上で公開して、読者に検索してもらおうという発想ではじめた。あえて言えば、販売するのは、そのおまけ。送料無料にして、少しでも買ってもらおうという姿勢はありますが。

 将来の夢は日本の本のポータルサイト(玄関口のようなもの)。あるキイワードを入れると目次や前書きなどをいろいろなデータベースをまわって検索できるようにしたい。

 一方、出版業界全体の販売・流通情報が、インターネットでおこなわれるようになってほしいと思っている。  現在の販売注文システムは、VANでおこなわれていて古くなってしまっていると思う。「インターネットでおこなわれるようになってほしい」と無責任なお願いの言い方をするのは、小零細版元ではとても出資できないから。

 VAN は金がかかりすぎる。インターネットであれば小さな書店さんでものることができると思う。販売・流通の情報交換は、書店・取次・版元のほとんどを網羅しない限り効率が出てこない。そのためには小零細でもアクセスできるようなものでなければならないので、インターネットしかない(ただしセキュリティに弱点があるが)。業界全体で、インターネットを使った在庫情報、書誌データ、販売注文の情報の交換をどこかがはじめてもらえないだろうか。

 さて、インターネットが普及して「eコマース」といったネット通販が普及すると、出版社の直販が始まるんじゃないかとか、スティーブン・キングのような書き手から読者への直販がはじまって、そればかりになるんじゃないか、という不安・不信感が表れる。でも、僕は正直まだまだ混沌としてわからないと思っている。少なくとも、ストレートに版元不要とか、取次がつぶれるとか、書店が要らなくなる、ということにはならないだろうと思う。

 例えばバッタ屋さんのサイトがある。

 売れ残りの商品を抱えている会社などがそこのサイトに掲示する。すごく安い。だれかが買う。ところがお金の決済が不安である。物を送ったらそのままドロンされてしまうのではないか、金を送ったらそのものがとんでもない不良品なのではないか、と。だからサイトやっている人が、お金を出す人にはお金をもらい、商品だす人には商品をもらって、確認してから取引する。間に第三者が入っている。インターネットは相手が見えないので、変わりにそういうシステムを作らざるをえない。

 こういった機能が必要で、それを担っているのが取次や書店や、出版社なのかもしれない。  だからまだまだ、ネットによって取次・書店・出版社がストレートになくなってしまう状況ではないと思う。  可能性はいっぱいあるのだから今のうちに頑張ってネットに関わった方がいいというのが僕の考え方である。
 最後にIT革命といわれるなかで、本の世界がどうなっていくのか考えてみたい。
 自分自身はどうやって本を買っているのかなと考えてみると、書評をみたりして注文するときは、一番近所の文鳥堂原宿店に頼んでいる。電子メールを送って相手のFaxに送信するようなシステムを作ったので、僕は電子メール、文鳥堂はファックスで受ける。
 どっちにしろ週に何回かはあっちこっちの本屋さんに行くから、そのときに買う。これが一番多い(ただしbk1が送料無料でやっているときは1冊でも注文した。その間、書店には全然注文しなかった)。

  あとは大型書店に行く時に気になった本を買う、そういうスタイル。
 やっぱり本は現物を見てから買うか、書評やだれかの推薦で買う。ネットで対応できるのは目的買いの部分が今は中心。そう考えると書店さんや取次さん、出版社の意味というのはまだまだ多いと思う。  今は、将来の見通しをあまり断定しないで進んでいこうと思っている。見通 しがズレちゃったら、って不安になるから。

 それよりも、たとえば「電子ブックを1冊だしてみて、同時に売っている紙の本の売行きが落ちるかどうかな」って実際に試してみる、そして、その都度、総括してできることから少しずつ取り組んでいく。そんなふうにやっていきたいと思っている。

ポット出版の本の一覧

版元ドットコム、売上げはいくらだ?!

<版元日誌開設について>
 これから、この版元ドットコムサイトに交代で幹事社が日誌を書くことにしました。
この日誌は、できるだけ一人ひとりの考えを書くようにしたいと思います。主語は一人称で、です。 版元ドットコムを自分から運営しようとしている幹事社の一人ひとりが、どんなことを考えているのかを知ってもらえる日誌にできればと思います。
よろしくお願いします。

 今回は、一番はじめなので、版元ドットコムのサイトの売上げについて報告します。
このサイトは、版元自身の手で、本のデータや在庫の有無を読者のみなさんに、きちっと提供することが一番大きな目的です(もちろん、一刻も早く手にとってもらう、つまり販売も目的ですが)。ですから、はじめはデータベースの進行を報告するなり、それについての考えを書いた方がいいとは思います。しかし、夏の販売開始以降、システムの開発が止まっていて、やっと11月あたりから再出発となってしまっています。もう一月くらいで、具体的な進展を報告できるようになると思うので、ちょっと方向をかえて、今回は売上げ報告についてです。

 以下に数字をまとめました。予想通りとはいえ、まだまだ微々たるものです。
少しずつでも進歩し続けるサイトにするために、ちょっと長丁場でいろいろ工夫して行こうと思ってます。

 さて、そうは言っても版元ドットコムの事務局的な仕事をしていて、いくつかの傾向があると思いました。
 一つは、青弓社が一番多く売り上げたことについてです。 これは青弓社が版元ドットコムサイトを新聞広告に載せたり、チラシを挟み込んだりしているためだと思います。青弓社の従来のメールでの注文数よりも、ここでの販売数がかなり多いらしいです。 やはり、軌道に乗るまでは宣伝が欠かせないと言うことのようです。
 二つ目に、書店で見つけにくいもの、専門的なものが、意外に売れていると思います。 社会批評社や日本林業調査会、また、千秋社の5,200円×2(上下!)など。 ネットでの販売では、結構レアなものも売れるのかな、という気がしました。

【月別売上高】

販売年月
売上冊数
売上高
1注文あたりの平均額
2000.8 20冊
33,920円
1,884.5円
2000.9 13冊
27,385円
2,738.5円
2000.10 9冊
16,045円
2,005.6円
2000.11 22冊
44,071円
4,896.9円
2000.12(19日まで) 18冊
32,203円
2,012.8円
合計 82冊
153,625円
2,518.5円

【タイトル別売上げ】(以下の値段は本体のみ)

順位
タイトル
出版社
価格
冊数
01 困ったときのお役所活用法
社会批評社
1,600円
13冊
02 こんなスポーツ中継は、いらない
青弓社
1,600円
10冊
03 まちがいだらけの包茎知識
青弓社
1,600円
4冊
04 出版クラッシュ!?
編書房
1,500円
3冊
04 新左翼運動その再生への道
社会批評社
1,700円
3冊
04 デジタル時代の出版メディア
ポット出版
1,800円
3冊
07 古書礼讃
青弓社
1,600円
2冊
07 すぐわかる森林・木材データブック2000
日本林業調査会
1,143円
2冊
07 21世紀の環境企業と森林
日本林業調査会
1,700円
2冊

【最高値・最安値の本】(以下の値段は本体のみ)

最安値 ●野生ニホンザルの育児行動/海鳴社/500円
最高値 ●☆改訂☆ 新釈吾妻鏡(現代語)上巻/千秋社/5,200円
  ●☆改訂☆ 新釈吾妻鏡(現代語)下巻/千秋社/5,200円

【版元別売上げ】

青弓社/30冊 社会批評社/18冊 凱風社/7冊
編書房/5冊 日本林業調査会/5冊 めこん/5冊
海鳴社/3冊 ポット出版/3冊 千秋社/2冊
亜紀書房/1冊 同時代社/1冊 批評社/1冊
未知谷/1冊    

まずは、版元日誌、第一弾でした。 次回は一週間後。

ポット出版の本の一覧