しずけさとユーモアを大切にする本づくり
はじめまして。
センジュ出版という名の出版社を、2015年に東京・千住で立ち上げました吉満です。
今回はこちらに初めて寄稿させていただきますので、センジュ出版について少しだけご紹介させていただきます。
*設立のきっかけは震災と出産
それまで私は都内の出版社に勤めていましたが、退職を決めた理由は他でもなく、3歳になろうとしていた息子の育児でした。
仕事と子育てとのバランスを考えて職住接近を意識するようになり、当時の通勤時間はドアツードアで45分、今は自転車で5分です。
また、東日本大震災もひとつのきっかけとなりました。
あの日、職場から4時間半かけて徒歩で自宅まで帰りつき、ご近所含め地域とのつながりを深めたいと痛感したこと、さらには被災地に送り込まれる毛布や食料の映像をテレビで目にし、
「本は飢えを満たすことも、寒さからしのぐこともできない。ではいったい、私は何のために本を作っているんだろう」
と、仕事の手が何度となく止まってしまったこと。
それらが心の奥底に少しずつ澱を生んだように思います。
ーー本はそもそも、人に何ができるのか。
ーー自分は何のためにこの仕事をしているのか。
その答えを上手くまとめることができないまま1年以上が経ち、いよいよ自分なりの回答を出せと言われたかのような出来事が、冒頭の長男の出産だったのです。
今思えば千住に移り住んで間もない頃に、センジュ出版のもととなるような体験もありました。
仕事で愛媛県伊予市の町おこしに関わる機会があり何度か伊予に足を運んだ際、町に散らばるさまざまな情報をそれを必要とする方にわかりやすくお伝えすることを自然と進めるうち、
「編集の視点はまちづくりでも同じように活かされる」
ということに気づき、一方で物理的な距離があること、また目に見えてこないまちの歴史に触れるにつけ、
「ただし本当のまちづくりは、そこに住んでこそ」
ということを知ることにもなります。
そんな私が、のちにベビーカーを押しながら平日の千住の商店街を歩くうち、
「いつかこのまちの魅力を住民の目線で発信してみたい」
と思うようになるのは、自然の流れだったのかもしれません。
*本を読む人の横顔に触れる
会社が立ち上がった年には、クルミド出版の影山知明さんとオズマガジンの古川誠編集長を招いたブックイベントを千住で実施しました。
翌年の2016年には2冊の本、『ゆめの はいたつにん』(教来石小織著)、『いのちのやくそく』(池川明・上田サトシ共著)を刊行、春と秋には千住のお寺をお借りしてマルシェやペーパークラフトフェスを手がけています。
2017年に入ってからはまちの中で毎月のように小さなイベントを開催、まちづくりやまちメディアにまつわる講演にもお招きをいただくようになり、テレビや新聞、雑誌、WEB、書籍『本のある時間』にも取材していただきました。
発行した本は共に3刷、2刷の重版となり、それぞれの本が俳優・斉藤工さんや、詩人・谷川俊太郎さんのおことばを頂戴して、おかげさまで今も新たな読者との出会いが続いています。
『ゆめの はいたつにん』は、2017年7月発売の『ダ・ヴィンチ』表紙にて斉藤工さんが手にしてくださり、誌面でもほんの内容に触れてくださっています。
3冊目の本は8月20日刊行予定の『子どもたちの光るこえ』(香葉村真由美著)、4冊目の本は某局ドラマのノベライズ本になる予定です。
さて、「本はそもそも、人に何ができるのか」の答えですが、そのヒントを、私が思っていたよりも間近で感じることになります。
会社を立ち上げてから2ヶ月後に営業を開始した、事務所の一角、6畳の和室にちゃぶ台を置いた小さな小さなブックカフェでの日々。
このカフェで読者の方々からダイレクトにお話を聴かせていただく機会が増え、さらにこちらも作り手の想いをお伝えすることができるようになると見えてきたものがあったのです。
人の涙、人の苦悩、人の勇気、人の変化。
カフェで見聞きした「本を読む人々」の横顔はそれはそれは美しく、真摯で、そして読まれた本によって、その方の人生が驚くほど変わってもいく。
頭ではわかっていたつもりでも、またそれを理想として胸に掲げていたつもりであっても、実際にそうした方々と膝を突き合わせてことばを交わすうちに、まるで自分が新米編集者にでもなったかのような気持ちで、
「自分は本づくりのことをまったく理解していなかった」
と、情けないほどに思い至ることになりました。
それからは、本づくりについて、中でも編集について、センジュ出版の本はどのように編んでいくべきなのか、どのように編むのがセンジュ出版らしいのか、一つひとつの問いを重ねています。
そもそもこのブックカフェを始めたのも、本を手渡す場、本を伝える場も含めて編もうと思えたからでした。
*地に足をつけ、暮らすようにはたらく日々に
最後に、センジュ出版がモットーとしている「しずけさ」と「ユーモア」について。
大きくて速くて多くて安いものを、と。
膨大な情報の中で渦巻く消費との波から必死に顔を出しては溺れそうになっていたそれまでの自分から、小さくてたしかなものを目の前の人と分け合いながら、地に足をつけ、暮らすようにはたらくようになった、母としての、そしてセンジュ出版としての毎日。
この日々の中で、人の内にある、ほの暗い「しずけさ」の中からつむがれる、たしかなことばたちと私は出会うようになっていきました。
そんなことばたちを、本という形で、イベントという形で、カフェという形で編みながら、ときに「ユーモア」を交えつつ、誰かの未来にそっと手渡していく。
センジュ出版にできること、センジュ出版に求められることはそうしたことなのだと、ちゃぶ台を一緒に囲んだ方々から、いく度となく教えていただいた気がしています。
こうしてますます本が好きになり、本を作る喜びを覚えました。
今日もカフェにはお客様がお見えになるでしょう。
いつかそのお一人が、これを読んでくださったあなたであったなら、とても嬉しく思います。
本と珈琲のあるこのお店で、みなさまのご来店を心よりお待ちしております。
株式会社センジュ出版 代表取締役・book café SENJU PLACE オーナー 吉満明子
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