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子どもに「ホームレス」をどう伝えるか
いじめ・襲撃をなくすために
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2013年7月
- 書店発売日
- 2013年7月23日
- 登録日
- 2013年6月28日
- 最終更新日
- 2014年8月27日
紹介
『どうしてあんなところに人が寝ているの?』子どもの疑問になんと答えますか。大人から植えつけられた偏見によって起こる「ホームレス」襲撃。大人は「ホームレス」とどのように向きあい、子どもたちに伝えればいいのか。問題を丁寧に解きほぐし、捉えなおす実践の記録。中高生や教員向けに行なわれた講演3本を収録し、「すぐに使える発問例集」や資料も充実。
目次
はじめに
高校生へ 「貧困」と「野宿」の社会的背景…………………… 生田武志
教職員へ 「ホームレス」襲撃は路上の「いじめ」………………… 北村年子
中学生へ 生きててくれてありがとう──襲撃・いじめをなくすために……北村年子
授業で使える 資料集
前書きなど
「どうしてあんなところに人が寝ているの?」
駅や地下の通路、公園や河原で、ホームレス状態の人の姿を見た子どもが、聞いてきた
ら、なんと答えますか?
多くの子どもたちが、身近な大人からこんなふうに教えられています。
「がんばるのがイヤな、なまけ者なんだよ」「こわい人。あぶないから近よっちゃだめよ」
「働きたくなくて、好きであんな暮らしをしているのさ」
そして、毎日のように子どもたちが、ホームレス状態の人に石を投げ、花火を打ちこみ、暴行する事件が、日本中のいたるところで起こりつづけています。
巻末の「野宿者襲撃事件・略年表」を見ていただければ、一目瞭然です。これは、じっさいに起こっている事件の、ほんの一部です。1983年、10代少年たちによる「横浜浮浪者殺傷事件」から30年、野宿の人びとは、ただ「ホームレス」だという理由だけで、子どもたちに襲われ、殺されつづけているのです。「ホームレスは社会のクズ、役立たず」
「きたないゴミをそうじしただけ」「大人はしからないと思った」と、子どもたちは語っています。それは、わたしたち大人・社会、とりわけ教育の責任ではないでしょうか。
「人権」問題は数あれど、教育現場でここまで放置され、無視されつづけてきた被差別の問題は、ほかにありません。たとえば「障がい者」とは目をあわせるな、近づくな、と教えたらどうなるでしょう。「外国人」だからといって、いきなりエアガンで打ち、火を放つ事件が起こりつづけたら、大問題でしょう。野宿者の小屋や段ボールハウスは、しょっちゅう、子どもたちに放火されています。殺人未遂となる大事件でも、警察も、学校も、家庭も、地域も、政治も、マスコミも、本気で向きあい解決しようとはしてきませんでした。
だれが「ホームレス」を排除し、差別しているのでしょうか。いまなお、くりかえされる暴行を止めようとせず、無視し、スルーしているのは、だれでしょう。無関心こそ暴力です。
「ホームレス襲撃」は、子どもたちによる路上の「いじめ」です。それを見て見ぬふりしている大人たちは、「いじめの傍観者」と同じです。
この本は、「ホームレス」について、正しく理解し、子どもたちに伝えようとする人、教師、親・保護者、子どもに関わるすべての大人たちのために、つくりました。そして、中高生世代の子どもたち、若い人たちにも、ぜひ読んでもらえるよう、ふりがなもつけました。
まず、大人にも子どもにも、知っておいてほしいこと。
「ホームレス」とは「人」を表わす言葉ではありません。
生まれつき「ホームレス」という人種や人格があるわけでもありません。もともとの英語の「homeless」は、「状態」を表わす言葉であり、「安全に住めるところがない状態」のことをいいます。ですから、ネットカフェなどで寝泊りしている状態も、震災や原発事故で避難生活を強いられている状態も、住みこみ労働や会社の寮で暮らしている状態も「安心できる住環境にない状態」として、「homeless」と呼ばれます。
つまり、あなたにも、わたしにも、家族にも、友人にも、だれにでも、いつ起こるかもしれない問題であり、けっして他人事ではないテーマなのです。
子どもたちの野宿者襲撃をなくすために、という目的はもちろん、「ホームレス問題の授業」に取りくむ意義は、たくさんあります。
①「ホームレス」についての無知と偏見を解消することで、ホームレス状態にある人びとへの差別・攻撃・排除を、理解・支援・共生の意識へと転換していく。
②「路上のいじめ」とともに「教室のいじめ」の解消をめざし、あらゆる暴力を防止する。
③子どもたちが、暴力の加害者にも被害者にも傍観者にもならない、安全で安心な教室(ホーム・ルーム)づくりをめざす。
④学校、家庭、地域のなかで、居場所のない「ホーム」レス状態にある子どもに、関心をむけ、孤立させず、見て見ぬふりしないで、それぞれに何ができるか考えあう。
⑤特定の子どもを「困った子」としてみなし、排除するのではなく、助けが必要な「困っている子」としてとらえ、「困っている状態」を改善・解決する道をいっしょに模索する。
⑥「ホームレス」の人びとと子どもたちが、人と人として出会い、肯定的な交流を体験することで、おたがいの存在を認めあい、エンパワーされ、共感性と自尊感情を高めあう。
⑦教師・大人も、自分の「困っている状態」を「自己責任」として抱えこまず、「助けて」がいいあえる人間関係の構築をめざし、「関係の貧困」から脱却する。
⑧ 不況、天災、人災、さまざまな社会の変動、予期せぬ人生の不運のなかで、将来もし自分がホームレス状態になったとしても、生きぬくための知恵や知識、私的・公的セーフティネットについてなど、人生に役立つ情報を学ぶ絶好の機会とする。
⑨教師・大人自身が、ホームレス問題の授業を実践する過程で、学校・社会にまだまだ根強い「努力主義」「自己責任論」の壁に気づき、内なる固定観念を問いなおされ、成長し、人間の幅が広がり、(たぶん)人生がいろいろおもしろくなっていく。
などなど。そんなおもしろさに、ハマってしまった、全国各地の教師、支援者、仲間たちがつながりあって、生まれたのが「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」です。
この本を手にしてくださったあなたも、ぜひ、仲間になっていただけたらうれしいです。
ようこそ、「ホームレス問題の授業づくり」へ。
さあ、最初の一歩を踏みだし、ここからいっしょに、階段をのぼっていきましょう。
ホームレス問題の授業づくり全国ネット代表理事 北村年子
上記内容は本書刊行時のものです。