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小津安二郎発言クロニクル 1903~1963
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年11月20日
- 書店発売日
- 2024年11月25日
- 登録日
- 2024年10月3日
- 最終更新日
- 2024年11月23日
紹介
本書は、『東京物語』『晩春』『麦秋』などで世界的に著名な映画監督、小津安二郎のクロノロジカルな発言集です。書籍、映画専門誌、一般雑誌、新聞(一般紙・スポーツ新聞)、日記、手紙、動画、録音などに残された発言、テキストを、その誕生から没年に至る「60年間」に及ぶ軌跡を、年代別、通時的に集成しました。
小津監督は「映画界には言葉が多過ぎるよ」という批判的な発言を残しましたが、映画評論家やジャーナリストは、小津の独創的な映画作品や人格的な魅力に吸引されるとともに、その生の言葉を求め、多くの座談会、対談、インタビュー等の取材が行われました。
その結果、映画監督としては異例なまでに多くの「発言」や「言葉」が世界に残されることになりました。
小津監督はきわめてサービス精神の旺盛な映画作家であったと同時に、映画を愛することに伴った責任感を強く意識した表現者でもあり、ジャーナリズムの要望や期待に多く応えました。
小津監督の周囲には、小津監督を温かく支える家族、親族、友人、小津組というプロフェッショナルな製作集団、脚本家、一流の俳優、映画評論家、研究者、文学者、画家などの芸術家がいました。
このような仲間たちの信頼と愛情の環が、小津監督の発言や言葉を保存し、残すことを大きく支えました。
本書は、その遺産を基礎に、小津監督の発言の軌跡を年代順に集成した発言の年代記=クロニクルです。映画史的な時代背景なども各年代の冒頭の梗概部にまとめ、時代の流れの中に小津監督の発言を置いて味わえます。
また、小津監督と同じ時間を共有した関係者の発言も随所に織り込み、より多角的な視点から小津監督の人柄や人生観、映画作家としての考え方が理解できるように構成しました。
目次
はじめに(凡例に代えて)
第一章 明治三十六年(一九〇三) 〇歳 ▶ 大正十一年(一九二二) 十九歳
【生い立ち/幼少期から学生時代/映画との出遭い】
第二章 大正十二年(一九二三) 二十歳 ▶ 昭和十年(一九三五) 三十二歳
【蒲田撮影所時代/サイレント映画】
懺悔の刃・若人の夢・女房紛失・カボチャ・引越し夫婦・肉体美・宝の山・学生ロマンス 若き日・和製喧嘩友達・大学は出たけれど・会社員生活・突貫小僧・結婚学入門・朗かに歩め・落第はしたけれど・その夜の妻・エロ神の怨霊・足に触つた幸運・お嬢さん・淑女と髭・美人哀愁・東京の合唱・春は御婦人から・大人の見る絵本 生れてはみたけれど・青春の夢いまいづこ・また逢ふ日まで・東京の女・非常線の女・出来ごころ・母を恋はずや・浮草物語・箱入り娘・東京の宿
第三章 昭和十一年(一九三六) 三十三歳 ▶ 昭和十四年(一九三九) 三十六歳
【大船撮影所時代/トーキー映画に挑戦/戦場での生活】
大学よいとこ・鏡獅子・一人息子・淑女は何を忘れたか
第四章 昭和十五年(一九四〇) 三十七歳 ▶ 昭和二十年(一九四五) 四十二歳
【映画法と事前検閲/国策映画の推奨/軍報道部映画班員としてシンガポールへ】
戸田家の兄妹・父ありき
第五章 昭和二十一年(一九四六) 四十三歳 ▶ 昭和二十八年(一九五三) 五十歳
【敗戦/引揚船での帰還/戦後の混乱期/紀子三部作の時代】
長屋紳士録・風の中の牝雞・晩春・宗川姉妹・麥秋・お茶漬の味・東京物語
第六章 昭和二十九年(一九五四) 五十一歳 ▶ 昭和三十二年(一九五七) 五十四歳
【田中絹代監督『月は上りぬ』を支援/最後の白黒映画】
早春・東京暮色
第七章 昭和三十三年(一九五八) 五十五歳 ▶ 昭和三十五年(一九六〇) 五十七歳
【カラー映画の時代/『東京物語』海外での評価/紫綬褒章を受賞】
彼岸花・お早よう・浮草・秋日和
第八章 昭和三十六年(一九六一) 五十八歳 ▶ 昭和三十八年(一九六三) 六十歳
【宝塚撮影所での撮影/最後の作品/晩年の病】
小早川家の秋・秋刀魚の味
余滴
主要な参考文献
前書きなど
ぼくが松竹へ入ったのは、震災ちょっと前だったが、あの当時、三十を越してた人は野村芳亭さんだけで、他にいませんでしたね。ぼくは二十歳であそこへ入って、それから兵隊に行ったんだ。
うちじゃ、どうしても学校へ行って勉強しろと言って許さなかったんだが、学校へ入るだけの金を使わせてくれるなら、活動屋にして使わせろと言って頑張ってね。やっぱり頑張らなければ通れない道でしたよ。
その頃、うちのおばあさんが映画館へ行って、島津さんの作品を見たんですね。それでね、「うちの安二郎は活動屋になったが、やっぱり活動屋なんて恥ずかしいとみえて、小津安二郎という名前を島津保次郎と変えてたよ」と言ったそうです(笑)(二つの椅子・高田保連載対談「週刊朝日」昭和二十四年十二月二十五日)。
版元から一言
初めて『秋刀魚の味』を観たとき、いままで観た映画とは異質な含みが画調の中にあることにショックを受けました。清澄な哀感漂う斎藤高順氏の美しい主題曲に惹き込まれつつ画面を見ていると、その話の筋やセリフ、演技、背景という明確な表現、いわば「映画の骨格」は、それ自体で完結することはありませんでした。
話の筋、セリフ、演技、背景は、膨大な含み、余剰、余韻によって支えられているかのようでした。一体、このユニークな作品を創った小津安二郎とは、どのような考え方をもった表現者だったのか? どのような人生観、芸術観、教養、美意識を持ち、どのような生き方、経験を重ねた表現者だったのか?
その映画作品に魅了された多くの人たちが持つだろう、素朴な疑問、関心、好奇心に、応えられるような〝小津監督のクロノジカルな発言集〟を作りたいと思ったのが、この企画の発端でありモチーフでもありました。
とりわけ、若い世代、新しく小津を知った映画ファン、これから何かの機会に小津映画に出遭うだろう、未来の世代に向けて本書を編集しました。
小津は多くの発言やテキストを映画の専門誌はもとより、一般雑誌、新聞、スポーツ新聞、書籍、レコード(録音)、日記等に数多く残した、サービス精神の極めて旺盛な映画作家でした。本書は、小津が各媒体に残した発言・テキストを通時的に編集した年代記=クロニクルという体裁をとっています。
多彩な小津自身の発言やテキスト、同じ時間を共有した第三者の発言・テキストを抽出し、時間系列の中に布置してみたとき、どんな印象が迫って来るのか? そんな期待感を込めながら、発言やテキストを集めてみました。
上記内容は本書刊行時のものです。