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核兵器
普及版
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2019年4月1日
- 書店発売日
- 2019年4月12日
- 登録日
- 2019年3月13日
- 最終更新日
- 2024年9月30日
重版情報
3刷 | 出来予定日: 2024-06-03 |
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紹介
核兵器──
圧倒的な破壊力のため、誕生した年に二度使用されただけで、
その後70年間、実戦で使われていない。
しかしその間も改良が重ねられ、
凄まじいレベルにまでその威力を高めていた──。
原子核の分裂と融合が、なぜこれほどのエネルギーを生み出すのか。
またそのエネルギーを、一瞬で消費し尽くすための設計とは。
天然の鉱石から「燃料」に加工するまでの、気の遠くなるような濃縮の工程。
核分裂兵器(原爆)から核融合兵器(水爆)へ──そして究極の核兵器W88の誕生。
20世紀初頭に異常発達した物理学の総決算であり、
人類が元来持っている闘争心と、飽くなき知への欲求が結実した究極の産物──
その複雑で精緻なメカニズムを、
政治的、倫理的な話は抜きに、純粋に物理学の側面から解明していく。
著者自ら作成したグラフやCAD図をはじめ、
本書でしか見られない図版を多数収録。
数式や表、さまざまなデータを駆使しながら、緻密に、定量的に、その実体に迫っていく。
専門書としての魅力、資料的価値を最大限高めながらも、
ユーモラスな喩えやイラストなどを織り交ぜることで、
理系ではない読者にも読み進められる「限りなく専門書に近い一般書」を実現。
多田将のライフワーク、ついに誕生。
目次
序
第1章 原子核
1.1 その男は、東海村からやって来た
1.2 原子力施設の熔接技術によってつくられた戦車
1.3 原子の構造
1.4 原子核の構造
1.5 同位体
1.6 安定核
1.7 ウラン
1.8 ポロニウム
1.9 強い力
第2章 放射線
2.1 不安定核の粒子の放出
2.2 不安定核のエネルギーの放出
2.3 放射線は何故危険か
2.4 エネルギーの単位
2.5 X線
2.6 中性子
2.7 放射性同位体と放射能
2.8 半減期
2.9 放射線の影響
2.10 半導体への影響
2.11 吸収線量
2.12 等価線量
2.13 α線と β線の特徴
2.14 γ線と X線の特徴
2.15 中性子の特徴
2.16 人体への影響
2.17 急性障害
2.18 晩成障害
2.19 遺伝的障害
2.20 外部被曝と内部被曝
2.21 放射線加重係数
2.22 実効線量
2.23 自然放射線
2.24 医療被曝
2.25 被曝の許容量
2.26 外部被曝の低減
2.27 内部被曝の低減
2.28 放射線の測定
2.29 放射線の利用
第3章 核分裂と核融合
3.1 不安定核の分裂
3.2 核分裂断面積
3.3 マクロ断面積
3.4 核分裂反応に於ける質量欠損
3.5 望ましい核分裂物質
3.6 核融合反応
3.7 核融合反応に於ける質量欠損
3.8 核融合断面積
3.9 分裂か融合か
第4章 連鎖反応
4.1 温度
4.2 核分裂の連鎖反応
4.3 核分裂の連鎖反応にかかる時間
4.4 原子炉
4.5 チェルノブイリ原子力発電所事故
4.6 冷却材
4.7 減速材
4.8 核燃料
4.9 臨界量
4.10 反射体
4.11 密度と臨界量
4.12 核分裂物質の安全性
4.13 核融合の連鎖反応
4.14 ローソン条件
4.15 慣性閉じ込め
第5章 核燃料
5.1 ウランの採掘
5.2 ウランの精錬
5.3 ウランの転換
5.4 ウランの濃縮
5.5 ガス拡散法
5.6 遠心分離法
5.7 エアロダイナミクス法
5.8 電磁分離法
5.9 レイザー法
5.10 化学法
5.11 ウランの再転換
5.12 プルトニウムの製造
5.13 兵器級プルトニウム
5.14 高速増殖炉
5.15 プルトニウムの抽出
5.16 プルトニウムの同素体
5.17 廃棄物問題
5.18 核分裂物質の備蓄量
5.19 デューテリウムの濃縮
5.20 トリチウムの製造
5.21 リチウムの精製と濃縮
5.22 重水素化リチウム
第6章 核分裂兵器
6.1 マンハッタン計画
6.2 砲身型核分裂兵器
6.3 爆縮型核分裂兵器
6.4 ソヴィエト連邦に於ける核分裂兵器の開発
6.5 中性子発生管
6.6 ブースター
6.7 タンパーの材質の選定
6.8 EFI
6.9 2点点火式爆縮レンズ
第7章 核融合兵器
7.1 テラー゠ウラム型熱核兵器
7.2 3F兵器
7.3 特殊な核兵器
7.4 リチウム7の効果
7.5 核兵器が与える影響
7.6 核融合兵器の近代化
7.7 究極の核兵器
巻末図表
跋
カラー図
索引
前書きなど
著者がまだ幼かった頃のことですが、SF 物のテレビアニメを観ていたら、「あいつは悪い奴だから、物理学者に違いない」という台詞が出てきました。著者が観たときにはそれは既に再放送でしたので、昭和でも結構古い時代の作品だったのではないかと思います。時は冷戦真っ只中、核戦争の悪夢に怯える人が、「核兵器を開発したのは物理学者だ! あいつらが全て悪い! あいつらさえいなければ!」との気持ちを込めて、そのような台詞を台本に載せたのかも知れません。その幼き日の著者は、まさか自分がその「悪い」物理学者になろうとは、夢にも思っていなかったのですが…
軍事技術には、最先端のテクノロジーが惜しげもなく投入されています。また、軍事技術として開発され、後に我々の生活を支える日常的な技術となったものも数え切れないほどあります。にも拘わらず、我々一般人は、それを最初から縁遠いものだとして敬遠したり、或いは誤解したまま頭に入れてしまっていたりすることが多いのが実情です。最新の軍事技術は、確かに複雑で専門的なものですが、基本的な原理そのものは、意外にも簡単で、身近な物理現象を利用しているものなのです。それらは、物理学の基本から考えれば簡単に理解出来るものが多いのですが、一方で、世のミリタリー関連書は、物理学の観点から書かれたものが少なく、そもそも物理学者がその解説を試みた例は極めて少ないです。ミリタリー関連書は、とかく、戦略・戦術や戦史の話になることが多いのですが、ここではそのようなことは扱わず、兵器に用いられている技術について、純粋に物理学の観点からのみ迫っていきたいと思います。
本書では、そういった軍事技術の中でも、その最たるものである、核兵器について取り上げました。核兵器と言えば、一般には邪悪な兵器の象徴的存在で、それを熱心に解説することは、不謹慎に思われる方もおられることでしょう。学者がそれについて書くことに嫌悪感を抱く人もいることでしょう。しかし、この核兵器は、その成り立ちからして、当時世界最先端の研究をしていた最高の物理学者たちが、積極的に開発に取り組んでつくり上げたものです。そういう意味で、軍事技術と物理学者の関係を考える上では、避けて通れないテーマであると著者は考えています。だからこそ、著者は、それを、敢えて、物理学者の立場から解説することにしたのです──政治的な、或いは倫理的な話は抜きにして。
世にある核兵器の本を読むと、どれも政治色が強く、そうでないものも、人間ドラマにばかり注目して、技術的なことが書かれたものは極めて少数です。そういう本ばかりということは、そちらに興味を持つ人が多いということなのでしょうが、著者的には、人間ドラマになど興味はありません。ですから、本書は、多くの人の興味の対象から外れていようが何だろうが、著者自身が「読みたい」と思った、技術的なテーマに絞って書いてあります。
本書は、かつてイースト・プレスから出版された『ミリタリーテクノロジーの物理学 < 核兵器 >』の重装版とも言うべきものです。同書は、新書版のために頁数が決まっていたことに加え、僅か 4 週間で急いで書いたために、後で見直すと著者的にもいろいろと不満がありまして、何れちゃんとした形で書き直そうと思っていました。また、同書は「読み物」として書いたため、内容的にも軽いものでしたが、本書では、各項目について、機序を論理的に、かつ定量的に記述したために、ほんのり学術書っぽい内容となりました。世に出回っている核兵器の動作原理を解説した書籍で、これほど詳しく、系統的に書かれたものは、他に類を見ません。少なくとも日本語の書籍では全くありません。特に多数のグラフは、本書のために著者が作図したもので、一冊の本にこれほど多く核兵器に関わる図がまとめられているものは他にありません。それだけは自信を持って言えます。
本書は理系ではない方々にも御読み頂きたいと思っていますので、数式は簡単なものに留め、複雑なもの(微積分以上の知識が必要とされるもの)は、著者が計算して、グラフや表という形で結果だけみなさんに御覧頂くようにしています。数学や物理学が苦手な方はその結果だけ御覧頂ければ結構ですし、更に詳しく知りたい方や、自分で計算してみたい方は、各章末の「参照・注」に挙げている論文や文献を参考にして頂ければと思います。
既にミリタリーの世界に造詣が深い方でも、本書を読まれることで、物理学的視点から見ればこういうことなのかと、新たに発見することもあるのではないかと思います。ミリタリーに興味を持つ方々がその原理たる物理学に、また物理学に興味を持つ方々がその最先端の応用例である軍事技術に、それぞれこれまで慣れ親しんでいた分野を越えて、新たな興味を開拓する、その橋渡し的役割になれれば──それこそが、「核兵器を生み出してしまった悪い物理学者」である著者の、せめてもの罪滅ぼしだという気が致します。
上記内容は本書刊行時のものです。