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スターウォーカー
ラファエル少年失踪事件
原書: Die Erfindung des Abschieds
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年9月10日
- 書店発売日
- 2020年9月13日
- 登録日
- 2020年8月29日
- 最終更新日
- 2023年2月13日
紹介
フリードリッヒ・アーニ:ドイツ語圏で最も愛されているドイツ・ミステリー作家、日本上陸 !!
ミュンヘン警察失踪者捜索課警部 タボール・ズューデン シリーズ 第1弾(全21作中第1作)。
(あらすじ)
『スターウォーカー (Die Erfindung des Abschieds)』
ラファエル・フォーゲル少年(九歳)は、最愛の祖父の死に衝撃を受け、埋葬の日に姿を消す。両親からの虐待を恐れての家出か、あるいは誘拐事件か。ミュンヘン警察失踪者捜索課が出動するも、日を重ねるばかりで成果はなし。少年の生命さえ危ぶまれ、警察への不審と不満が募る。フンケル署長以下、失踪者捜索課の刑事たちの努力も虚しく、捜索は袋小路に。残る手は、あの問題児、奇人、一匹狼、少女誘拐事件の失敗に苦しみ九カ月間もの休暇をとって、森の中で修行中の、はぐれ刑事タボール・ズューデンを復帰させることしかなくなった。
ラファエルから両親宛に手紙が届く。「元気でやっているから心配しないで、親切なグストルが一緒だから大丈夫。これから遠くへ行く」。
目と耳で相手の心を読む「見者」タボール・ズューデン刑事の推理は?
【私のミステリーは、エンターテインメントではない。失踪事件解決のサスペンスとともに、刑事たちや、周りの人物たち一人ひとりの人生の物語を描くことで、生と死や、思想、感性、要するにこの世の全てをテーマにしたかった。】(著者の言葉)
目次
プロローグ
第一部
1 鏡の中の美しい惑星
2 かみさまにきいてよ、どうしてなの?
3 夢に消えたホテル
4 嘘の揺籠
5 そのうちって、いつ?
6 夜のスペシャリスト
7 タボール・ズューデン
8 小さな世界の終わり
9 一番簡単な方法
第二部
10 迷子たちの待ち合わせ場所
11 煉獄への帰還
12 ビールとワインと血のふるさと
13 不吉な数字
14 一人きりの食事
15 ズューデン(南)、ノルデン(北)へ行く
16 勇敢な鳥たちの岩
17 神さまのいない礼拝
18 生けるものの幸せ
エピローグ
解説
前書きなど
(著者の言葉)
「僕のミステリー小説は、全て失踪者とそれを探し出す刑事たちの物語だ。なぜ失踪者かって? それは僕自身、何処かへ行ってしまいたい、匿名でありたいと、子供の頃から思っていたからじゃないかな。田舎よりミュンヘンのような都会が好きなのはそのせいだ。僕の小説で本来興味深いのは、主人公のタボールという人物ではなく、他の登場人物たちそれぞれの物語だ。自分の友人や愛する人が失踪した時、その人のことを、外見においても心の中身も、どれだけの人が、本当に知っているのか、そういったこと、副次的な出来事に見えることを言葉に表すことが、文学的にはとてもチャレンジだった。失踪者を探し出し事件の解明に至る、というのは物語の骨格で、その背景となっている人々の人生の物語を書きたかった。
タボール・ズューデンの魅力? ヒーローというよりも、我々と同じような人物。たまたま刑事という職業についただけで、能力や人間性がずば抜けているという男ではない。普通の人間。自分と同じ人間の心の中に入っていける。子供の頃に父親に捨てられ、16歳で母親に死なれるという経験。孤独を知る男。消えてしまいたい人間の気持ちがわかる。
脚光を浴びる人間になりたいなんて思ったことがない。世界の影の中で生きるのが安心。そういう人々が生きる世界に心を惹かれる。面白い話を作り出すのではなく、普段感じたことを言葉にするだけ。自分の心で書く。
タボールと僕の共通点は、自分から言葉を発する義務はなく、ただ聞くだけでいい、という点。それとビールをいくら飲んでも許されること。読書や音楽鑑賞が好きなこと。きっちりと型にはまった人間ではないこと。人生に情熱を持っていること。
タボールに学びたいことは、他人に話をさせる能力、人の話を聞く能力。
人間の裏切りや孤独をなぜ描くか? 孤独も戸惑いも、悲しみも、落胆、悲哀、すべてミステリー小説の主題として成り立つ。エンターテインメントとしてのミステリーというよりも、人生で大切で深刻な事柄、生と死、思考・思想や感受性に関わることを主題にしたい。エンタメミステリーなら、テレビで十分だ。哲学的な問題を扱っているとも言える。だから、この世の全てが主題だ。だから難しいと感じる読者もいるだろう。とはいえ、僕は「社会派の作家」と言われたくはない。どこまでも、人間たちの物語を描いていきたい」
版元から一言
レイモンド・チャンドラーが、最もアメリカ的(西海岸的)なミステリー作家だ(これには異論はあるだろうが)としたら、フリードリッヒ・アーニは最も戦後ヨーロッパ的、それが言い過ぎなら、ドイツ的ミステリー作家だと言えるでしょう。殺人ではなく失踪、ハードボイルドな探偵君の活躍より、スピリチュアルな雰囲気を漂わせ、話すよりも聴く方にまわるはぐれ刑事。込み入った陰謀が背景にあるわけではない。失踪者を生み出してしまう、この世の不条理が通奏低音。対決型の会話のやりとりも控えめで、とぼけたユーモアが妙。そしてバフィー・セントメアリーの挿入歌の歌詞がタボール・ズューデン刑事の気分を哀切なリズムで刻む。
原題は"Die Erfindung des Abschieds"(「別れの発明」)。『スターウォーカー 』は、バフィーがこの小説で歌う最後の歌詞から取った言葉です。
シリア難民の父親とチェコのズデーテン難民の母親の間に生まれ、ミュンヘン郊外の田舎に育ち、匿名性を求めてミュンヘン市街に暮らし、戦後アメリカン・カルチャーをタップリ浴び、古典から現代までの文学のエキスをたっぷりと吸い込んだ作家が醸し出す、文学的な匂いというか質感は、ミステリーのみならず海外文学を愛する読書家にとっては、たまらない魅力です。そして、読後には、きっと誰もが、適度に冷えた(できればドイツのヴァイツェン)ビールをぐいぐい飲みたくなるでしょう。タボール刑事のことを思いながら、「ご利益がありますように!」、と。
このシリーズ、全部で21作もありますが、とりあえず、さらに2つの作品の翻訳が進んでいます。お楽しみに。
上記内容は本書刊行時のものです。