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リチャード・サッパー・デザイン/うれしい体験のための論理と感性のデザイン
- 出版社在庫情報
- 絶版
- 初版年月日
- 2023年4月1日
- 書店発売日
- 2023年3月24日
- 登録日
- 2023年3月14日
- 最終更新日
- 2023年5月10日
紹介
世界でモダンデザインの第一人者と認知されているデザイナー、リチャード・サッパー。大学卒業後にダイムラー・ベンツ社のデザイン部に就職し、その後はミラノで活動。家電・電話機・照明・雑貨・家具・パソコンなどの工業デザインを続け、1981年にIBM社のコンサルタントになりました。 サッパーの作品は、イタリア・デザイン界の最高権威である〝コンパッソ・ドーロ賞〟をはじめとした数多くの受賞や、ニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションにも選定されるなど、世界的に高く評価されています。日本ではまだあまり知られていませんが、著者はサッパーと25年間一緒に活動しながら多くの学びを得ました。ドイツをルーツに持ちながらイタリアで才能を開花させたサッパーがさまざまなプロダクトを通して生み出した“論理と感性のデザイン”は、どれも永く使い続けたくなる機能性と永く愛でていたくなる審美性に長けているものばかり。当書は、サッパーとの共創で得られた実践的な学びとサッパーの作品を通して得られる知見を社会へと伝えることを目的とした、日本で初めて出版されるサッパーを包括的に紹介する本です。デザインを歴史的視点で語っている本は多々ありますが、現代に“うれしい体験”という視点からモダンデザインをどのように活用しているか、作品と学びで解説する本はありません。
目次
はじめに
<リチャード・サッパーの作品と書籍>
01 Static Table Clock
02 Match Radio
03 TS 502 Radio
04 Algol Portable TV
05 Grillo Telephone
06 Black TV set
07 FD 1102 Cable radio transmitte
08 Sandwich Alarm clock
09 Tantalo Clock
10 Sound Book Tape Recorder with Radio
11 Tizio Desk lamp
12 Study for City Traffic in Milan
13 Minitimer Kitchen Timer
14 Microsplit Stopwatch
15 9090 Espresso coffee maker
16 4064 Sugar Boal
17 9091 Kettle
18 La Cintura di Orione Frying pan
19 Compact Workstation
20 IBM PS/55note, PS/2 N 33 SX Notebook PC
21 Leapfrog Tablet PC
22 ThinkPad 700c/ThinkPad 750C Notebook PC
23 ThinkPad 701 Notebook PC
24 AIDA Stacking Chair
25 Espresso Cup
26 Dialog 1 Ball pen
27 Todo Cheese Grater
28 Tosca Stacking Chair
29 ThinkPad Reserve Special edition with leather casing
30 La Cintura di Orione Kitchen knife
31 La Cintura di Orione Kitchen knives stand
RICHARD SAPPER - 40 PROGETTI DI DESIGN
The Tizio-Light by Richard Sapper
The 9090 Cafetiere by Richard Sapper
Richard Sapper (Compact Design Portfolio Series)
Richard Sapper Edited by Jonathan Olivares
うれしい体験のデザイン UXで笑顔を生み出す38のヒント
<リチャード・サッパーからの学び、寄稿文、おわりに>
サッパーからの学び
寄稿文
おわりに
<関連資料>
リチャード・サッパーのプロフィール
山﨑和彦のプロフィール
参考資料
前書きなど
リチャード・サッパー(Richard Sapper)は、ミュンヘン生まれのプロダクトデザイナー。大学卒業後に、ダイムラー・ベンツ社のデザイン部に就職し、その後はミラノで活動。家電、電話機、照明、雑貨、家具、パソコンなどの工業デザインを続け、1981年にIBM社のコンサルタントになりました。サッパーの作品は、イタリア・デザイン界の最高権威である〝コンパッソ・ドーロ賞〟をはじめとした数多くの受賞や、ニューヨーク近代美術館のパーマネントコレクションにも選定されるなど、世界的に高く評価されています。
この本は、うれしい体験のための論理と感性という視点で、サッパーの作品やプロダクトや本を解説することにより、これからのデザインのヒントが社会に提供されることを願っています。そして作品の解説だけでなく、サッパーと一緒に25年以上共創してきた僕がサッパーから学んだことも解説しています。僕がサッパーから学んだことを10個のポイントにまとめ、サッパーの奥様のドーリット・サッパー(Dorit Sapper)、長女のキャロラ・サッパー(Carola Sapper)、IBMでサッパーと一緒に仕事をしたトム・ハーディ(Tom Hurdy)、デビット・ヒル(David Hill)、ケビン・クラーク(Kevin Clark)、髙橋知之、そしてプロダクトデザイナーの秋田道夫の7名の学びも添えました。
なぜ今、サッパーなのか少し歴史を振り返ってみたいと思います。第二次世界大戦時のイタリアでは、企業家が新しい製品を開発・生産していきました。新しい商品を開発するには、建築家のように、社会、使う人そして技術を知って設計をできる人が必要でした。イタリアではデザインのことを「プロジェット」と呼んでいました。 プロジェットとは、生活や環境をよくするために提案すること。プロジェットをする人は「プロジェッティスタ」と呼ばれました。当時のイタリアではデザイナーという職業がまだない時に、主に建築家の事を指していました。建築家は、スプーンから建築や都市まで設計していましたし、プロジェッティスタは、社会や政治、経済、文化など、さまざまな領域に対して批判的な精神を持ち、それを何とかよくしようとしたのです。一人ではなく、多様な専門家と協力して、さまざまな要素を考慮しながら、人間の生活環境をよくするための活動をしていたのです。エンツォ・マーリ(Enzo Mari)は「プロジェクトとパッション」の著書の中で、以下のように解説しています。
イタリアで「デザイン」という言葉が一般に使われるようになったのは80年代以降。それまでは、「プロジェット」という言葉が使われていました。「プロジェット」という呼び方にこだわった第一の理由はおそらく、その仕事が単にかたちを与えることだけを目的としなかったから。そこには包括的な知と異なる分野で働く人々が多様な形で巻き込まれており、その関係性とプロセスすべてが「プロジェット」だからなのです。「プロジェット」を実行する人は「プロジェッティスタ」と呼びました。
これがイタリアのデザインの出発点だと言われています。このような時代に、活動してきた一人が、建築家のジオ・ポンティ(Gio Ponti)や、アーティストのブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari)、工業デザイナーのアキッレ・カスティリオーニ(Achille Castiglioni)やエンツォ・マーリです。エンツォ・マーリは「デザインではなくプロジェクトとして活動している」とも語っています。そして、イタリア人ではありませんでしたが、ドイツからミラノに来て「プロジェッティスタ」のような活動をしていたのがリチャード・サッパーなのです。
僕がロンドンにあるデザイン・ミュージアムに見学へ行った時に、驚いたことがあります。当時はこのミュージアムは、生活の道具ごとに展示コーナーがつくられていて、例えば、テレビ、ラジオ、やかん、椅子、照明、コンピューターという展示コーナーがありました。そして、どのコーナーにも、サッパーがデザインしたプロダクトが展示されていたのです。サッパーは日本での知名度はあまり多くありませんが、まさに現代を代表するプロダクトデザイナーであり、社会をよくする活動をしていたデザイナーでもあります。
サッパーは、1932年にドイツのミュンヘンで生まれ、すぐにシュトゥットガルトに引っ越しました。ミュンヘン大学に学び、卒業後にダイムラー・ベンツ社のデザイン部に就職して、バックミラーなどの部分のデザインを担当していましたが、2年で辞めました。その後にミラノへ移るきっかけになったのは、建築家でありデザイナーのジオ・ポンティです。ジオ・ポンティはバイクのデザインを依頼されたけれど板金できる人がいなかったためサッパーに呼びかけたところ、サッパーが「できます! 」と言ったことがきっかけでジオ・ポンティの事務所に入ったそうです。
ジオ・ポンティとは、モダンデザインの創始者で、建築を主にしつつ建築に関わるものはすべてデザインしていました。ミラノサローネのような展覧会「トリエンナーレエキジビション」を始めたのもジオ・ポンティです。デザイン雑誌Domusの初代編集長もジオ・ポンティでした。デザイン発展の基礎をつくった人とサッパーは出会ったのです。 例えば1957年にジオ・ポンティがデザインした「Superleggera」という椅子は半世紀たった今でも人気の作品です。Superleggeraとは超軽量という意味で、子どもでも片手で持ち上げられるくらいの軽さがポイントです。 当時のイタリアではデザインを学べるところが少なく、デザインは建築の一部という考え方をしていました。アメリカのデザインが企業のマーケティングのためのスタイリング重視だったのに対して、ヨーロッパにおけるデザインでは、Superleggeraのように“構造”がとても重要なファクターとなっています。 またデザインの仕組みもまったく違います。イタリアではデザイン料はもらわずに、ライセンス料をもらっていたことが多いのです。ライセンス料とは売り上げの何%かがもらえるもので、売れなければデザイナーのもとにはお金が入ってこないということになります。デザインを完成させるのに3年から5年はかけて、何度も試作を重ねるのです。そのためにも、完成度をあげて、トレンドに振り回されない永く愛されるデザインが目標になりました。日本やアメリカのデザイナーは、デザイン料なので、逆にどんどんデザインを一新していかないと食べていけないわけです。
ミラノの中心にあるドゥオーモ広場の前にラ・リナシェンテというデパートがあります。日本でいう銀座の松屋のような場所で、デザイン運動の中心地としてデザインの発展のためにいろいろな企画を行っていてサッパー は入り浸っていたそうです。そのうちデザインを頼まれるようになり、そこでマルコ・ザヌッソ(Marco Zanuso)と出会い、意気投合して、15年近く一緒にデザインしていきました。ミラノのジオ・ポンティの建築事務所を経て、1959年に自分のデザイン事務所を開設しました。この時から、建築家のマルコ・ザヌッソとコラボレーションを開始して、15年以上二人の協力関係は続いたのです。
サッパーは1970代には自動車会社のフィアットのコンサルタントをしてアドバンスデザインの提案などもしていました。IBMのデザインプログラムを構築したエリオット・ノイズが1977年に亡くなったあとに、後継者を探していましたが、同社のデザインコンサルタントでもありグラフィックデザイナーのポール・ランド(Paul Rand)の推薦もあり、サッパーは1981年よりIBMのデザインコンサルタントとなりました。その後、IBMのデザイン戦略、アドバンスデザイン、サーバー、パソコン、ソリューションなど多くの優れたデザインを生み出していったのです。また、サッパーによってIBMから創造的なデザイン文化が広がっていきました。
彼は、家電のブリオンベガ社、電話機のシーメンス社、照明のアルテミデ社、雑貨のアレッシィ社、時計のタグホイヤー社、家具のノル社、文房具のラミー社、コンピューターのIBM社など多様な分野の商品をデザインしました。その原点には、ドイツの論理や構造を探求する視点と、イタリアの感性や美しさという視点の両方の視点からのアプローチがあって、永く愛されるデザインを提供した数少ないデザイナーです。
日本でリチャード・サッパーの本が出版されるのはこの本が初めてになります。まずは、サッパーの作品をご覧になっていただき、興味が湧いたら、ぜひサッパーからの学びも読んでみてください。なにかみなさんのヒントになりますように。
山﨑和彦 2023年3月24日
版元から一言
生活を楽しく彩ってくれる、永く使いたくなるプロダクトには機能性と審美性が美しいバランスで備わっています。ドイツの堅実さとイタリアの洒脱さをハイブリッドに融合させて人々に愛されるデザインをさまざまなカタチで生み出したリチャード・サッパーと25年間共に仕事をしてきた筆者が彼から学んだ“うれしい体験のための論理と感性のデザイン”は、経営とデザインの体験でもあるし、ユーザーとデザインの体験でもあるし、共創する仲間としての体験でもあります。大量生産・大量消費ですぐ捨てられるデザインを量産する時代に社会として訣別すべき今、ポール・ランドをして「彼の作品は、まるで花弁の一枚一枚が正しく位置する完璧な花のようなデザインだ」と言わしめる彼が創造してきたモダンでありながらエレガントな作品群には、本人亡き今もこれからの社会に必要となるさまざまに有用で有益な価値ある示唆が内包されています。秋田道夫氏がプロダクトデザインの“神”と呼ぶサッパーのデザインが時代を超えて多くの人たちに愛されているように、この本もすべてのデザインと生活と社会を愛する皆さんに愛されることを願っています。
上記内容は本書刊行時のものです。