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10年目の手記
震災体験を書く、よむ、編みなおす
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年4月8日
- 書店発売日
- 2022年3月11日
- 登録日
- 2022年1月27日
- 最終更新日
- 2022年5月16日
紹介
東日本大震災から10年。これまで言葉にしてこなかった「震災」にまつわるエピソードを教えてください―ー。
そんな問いかけから「10年目の手記」プロジェクトは始まった。
本書は、暮らす土地も被災体験も様々な人々の手記をもとに、東北と縁を結んだアーティストと演出家、阪神大震災の手記を研究する社会心理学者、文化支援事業のプログラムオフィサーが語り合い、自身を重ね、手記の背景に思いを巡らせた記録である。他者の声に耳をすます実践がここにある。
目次
はじめに
【第一部 よむ 10年目の手記と往復エッセイ】
あなたは、いつ、どこで、どうやって書いたのですか 高森順子
・先生とハムスター ハム太郎
秘密とわからなさ 瀬尾夏美
・空に聞く H・A
・あの日 海仙人
読み手に〝秘密〞を託す 高森順子
・二〇一一年三月十二日から、現在へ はっぱとおつきさま
〝子ども〞だった彼らが語り出すまで 瀬尾夏美
・この先通行止め コンノユウキ
過去を辿る 高森順子
・消えた故郷 ほでなす
・もとちゃんへ 島津信子
手向けの花と、手記 瀬尾夏美
・スタート 西條成美
・兄の思い出 吉田健太
ともに生きる 高森順子
・祖母の日記 八木まどか
・こぼれていく時間を集めて 柳澤マサ
・東北の伴走者 echelon
物語という火 瀬尾夏美
・海から離れず生きた十年 小野春雄
10年目の手記 全タイトル
【第二部 編みなおす 10年目をこえにする】
「10年目の手記」をつくる 繰り返し、かたちを変えて、読み返す 佐藤李青
わたしが話しているような声 中村大地
10年目をきくラジオ モノノーク
最終回 10年目の手記スペシャル 抄録
配信記録
「とある窓」の写真について
おわりに 声が声を呼ぶ 瀬尾夏美
前書きなど
はじめに
あなたのなかに、誰かに伝えるには大切すぎたり、どのように語っても足りなかったり、反対に、人に話すにはささやかすぎたりして、これまで言葉にしてこなかった「震災」にまつわるエピソードはありませんか。
二〇二〇年六月。わたしたちは東日本大震災の経験にまつわる「10年目の手記」の募集を始めた。字数は千二百字。名前は実名でも、ペンネームでも構わない。連絡先や年齢とともに、三百字の自己紹介や手記の背景を記したエピソードを添えること。ほかに求める応募資格はない。震災から十年の間で、「忘れられない」「忘れたくない」「覚えていたい」出来事について書いてほしい。募集の文面では、あえて「震災で直接的な体験をした人」も、「そうではないと感じている人」も応募してほしいと呼びかけた。
震災から十年――時間が経ったいまだからこそ、言葉にできることがある。あの日から〝被災者〞と名指された人たちは多かれ少なかれ、〝被災者〞としての言葉を求められてきた。それによって生まれた言葉はかけがえがない。ただ、〝被災者〞という枠組みから、こぼれ落ち、無かったことにされた言葉もあったはずだ。一方で、震災に距離を感じていた人たちは、〝被災者〞という語り手を大切にしようと思うあまりに、口をつぐんできたかもしれない。「10年目の手記」という場を用意することで、きっと語り出してくれる人たちがいる。わたしたちはそう確信をしつつも、どれほどの手記が集まるかは、誰も予想しえなかった。
結果的には呼びかけた側が驚くほどに、暮らす土地も被災体験も異なる手記が集まった。
届いた手記は、定期的にプロジェクトメンバーで読み合った。震災後に東北を拠点として創作を続けているアーティストの瀬尾夏美、「阪神大震災を記録しつづける会」の事務局長として震災の手記を実践的に研究してきた高森順子、仙台で設立された劇団「屋根裏ハイツ」を主宰する中村大地、東京から芸術文化を通した被災地支援事業に携わってきた佐藤李青。このメンバーに加え、五十年にわたって東北の民話を訪ね歩いてきた民話採訪者の小野和子さんを特別選考委員にお迎えした。
「10年目の手記」は二〇二一年五月までに七十五本をウェブサイトで公開した。その一部は、オンラインラジオ「10年目をきくラジオ モノノーク」で俳優による朗読も行った。手記を読んで、声にする。その声に触発されたように次の手記が届く。「10年目の手記」は書き手と読み手が応答し合うような活動となっていった。
当然のように、集まった手記は一つとして同じものはない。手記を通して書き手の体験を想像し、追体験する。自分の体験に重ねて得られた共感から、想像を巡らせる。自分の体験との違いに圧倒され、想像の不可能性に触れる。手記に書かれた言葉を読むこと、そして、手記に書かれなかった言葉を想像するという営みには、誰かの経験を〝わたしたち〞で分かちもつためのヒントがあった。わたしたちが「10年目の手記」で実感したのは、誰かの体験を記した手記を〝読む〞ことの豊かさだった。この本の出発点は、ここにある。
本書は、「よむ」と「編みなおす」の二部構成になっている。第一部「よむ」は、手記を読むことを巡る高森と瀬尾の往復エッセイから始まる。二人がどのように「10年目の手記」を読んだのか。緩やかな応答から、それぞれの経験を重ね合わせ、語っていく。そして、二人の語りに織り込まれた十三本の「10年目の手記」が続く。
「10年目の手記」は、「阪神大震災を記録しつづける会」の活動様式をなぞりながら、プロジェクトメンバーそれぞれの経験を重ねることで、立ち上げていった。震災の体験を記録に残し、より広く、より深く、共有することを目指す〝活動〞だった。第二部「編みなおす」では、「10年目の手記」という試みのありようを紐解いていく。
「10年目の手記」の企画の立ち上げからマネジメントを担当してきた佐藤が、どのように「10年目の手記」がつくられ、変化したのかを語る。そして、実践手法の特異点となった、ラジオでの手記朗読を演出してきた中村が、俳優との〝いい声〞をつくるプロセスを振り返る。併せて、「10年目の手記スペシャル」となったラジオ最終回の抄録も掲載した。
手記を読むことは、他者の経験を知ることである。そこには喜びがあれば、悲しみがある。わかることがあれば、わかりえないことがある。過去を振り返ってみれば、さまざまな災禍を経験した人たちの語りが残されてきた。過去の語りは、いまも読まれることを待っている。そして、語りは日々新たに生み出され、これからも積み重なっていくだろう。本書を手にとったみなさんにとって、わたしたちの経験が、災禍を体験した他者の声に耳を傾けるレッスンとなれば幸いである。
二〇二二年三月
「10年目の手記」プロジェクトメンバー
版元から一言
大切なものを失った人へ。
そして、彼らの傍らにいたいと願う人へ――。
災害時代を生きる私たちにとって、いま最も大切な一冊。
上記内容は本書刊行時のものです。