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しくみの内側のしくみ
思考する手仕事のレシピ
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年12月25日
- 書店発売日
- 2024年12月25日
- 登録日
- 2024年8月16日
- 最終更新日
- 2024年12月27日
紹介
★岡﨑乾二郎氏(造形作家・批評家)推薦★
《コイズミアヤはその精緻、精密な造形操作で、ゲーデルの不完全性を突破し、体系内にその体系を超える高次元を出現させてしまう。》
立体作品の制作発表を続けてきた、コイズミアヤ初の著書。
料理本のような体裁で、作品の具体的なつくりかたに加えて、制作の経緯についてを贅沢におさめた一冊。
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《バナッハ=タルスキーのパラドックスというものがある。これは、たとえば小さな卵をかぎりなくコナゴナ(可算無限回の分割そして任意の細かさまでの分割)にすれば、そのコナゴナな断片から巨大な地球を作り出すことが数学的には可能だという理論、パラドックスである。もし際限がないほど超精密な技術のアヤがあれば、それは可能になるというのか。
コイズミアヤはこのパラドックスを造形の問題として実践的に解き放そうとしている。不可能に感じるのはわれわれのドクサにすぎない。コツはスミのコさ、つまり隅あるいは角(スミ)の濃度にある。たぶん、ここに別次元のイズミがわきだす秘密がある。ようするにコイズミアヤはその精密、精緻な造形力のアヤでゲーデルに迫る認識をもたらそうとしている。》(岡﨑乾二郎)
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【担当編集者からひと言】
2023年、コイズミアヤさんの個展にはじめてお邪魔し、その作品に一目惚れ、「どのようにしたらこれほどまでに美しく繊細な作品が生まれうるのか?」これが本書を企画しようと思いたった最初の動機でした。
この謎をときあかし、その工程を料理のレシピ本のような手つきで描いた本が『しくみの内側のしくみ』です。
ちなみに、この企画を思いついたときに1冊の本が頭に浮かびました。
それは、料理研究家の佐藤雅子さんが書いた『私の保存食ノート』というレシピ本です。
この本の存在をコイズミさんにお伝えし、これをイメージしながら書いていただきました。
目次
まえがき
第1章 うつしかえ
あやとりのドローイング
うつしかえの図面
Loopかめのこ
通路と信仰
第2章 紐の木彫
紐のドローイング
紐の彫刻
結び目のはなし
結び目のドローイング
輪の彫刻――結び目
第3章 重なる箱
重なる箱0
私の箱の経緯
重なる箱11
子どもとの遊び、monad
第4章 物語の量と在処
カフカのこま
私信-イリスをさがしています――「アヤメ」について
ある返礼――『ギフト』
無常の車
言葉のかご――「チャンドス卿の手紙」
こまと塵屑(ちりくず)
終章 雪について
あとがき
前書きなど
【「まえがき」より】
この本を書くことになって、その計画について「漬物のつくりかたを書くみたいにして、私の作品のことを書く本」だと友人に伝えたら、彼女の目が丸くなった。
これは、1996年からギャラリーでの個展を中心に作品発表を続けてきた作者自身が、近年の作品の具体的な「つくりかた」を記した本である。
私の作品は、人が「美術」と聞いた時にイメージするような絵画や彫刻とは少し違っているし、遊べる玩具でも使える小物でもないので、もしかしたら冒頭から少し戸惑われるかもしれない。箱に構造物や風景をしまい込む初期作品から時を経て、制作が変容してきた時期についての内容になる。日々の暮らしで、制作の過程で、思い巡らしたことや考えたこと、その作品をつくることになった経緯などを一緒に書いた。「美術」と呼ばれる辺りで、作品が制作されるときに起きていることの一例(個別の事実)として読んでいただけたらと思う。
この「つくりかた」とは、記録のように、どうつくられたかを書いたというよりは、読んだ人が実際につくることを前提にして書いた。器用な人も不器用な人も、つくるのが好きな人も、そうでない人もいるだろうから、つくることを強いるつもりはないし、これを読んだ人が本当に当該の作品を私と同じようにつくれるのかと言ったら、責任を負いかねると弱音を吐きたくなるけれど、料理の本や裁縫の本に倣って書いた。文字や写真や図を追うことで、擬似的にでもそれをイメージしてもらい、手や指先や気持ちが誘われることがあったなら、ぜひ試してみて貰いたい。
また、既に何かをつくっている人と共にあれたらと思う。
【「あとがき」より】
壊れやすい繊細なつくりの本や、オブジェとしての本を扱っているFRAGILE BOOKSの企画による私の個展「本の似姿」が、2023年の初夏に、東京目黒区の一室で、通常の展示とは違ってアトリエのオープンデイというかたちで行われた。作品を約20点用意して予約客を迎え入れ、二時間近く一点ずつ披露しながら話をする方式で二日間にわたって複数回行った。不思議と自作を前にすると話題に困ることがなく、自分がこんなに猛烈に話をするとは思っていなくて驚いた。内容は自ずとその作品ができた「経緯」についてになった。
また同じ時期にファンダメンタルズ・プロジェクトという科学者とアーティストの交流企画に参加した際、自身の専門領域を問われた欄に、あまりよく考えずに「工作」と記入した。それは科学者なら例えば、「幾何学」とか「認知神経科学」と書く欄で、アーティストの私は普段なら「立体造形」や「ミクストメディア」と書くのが順当だった気がする。大学では舞台美術などの空間演出デザインを専攻し、卒業後にデザインの職には就かずに、美術作品の制作をすることに決めてからというもの、自分の表現領域について、既存のものにしっくりくることがなかった。ふとこのとき出てきた「工作」という言葉について質問を受けて考えてみれば、小学校の図画工作のように、制作を専門としてはいない個人も試行錯誤してやってみることができる範囲のことを考えるのが好ましく思えていたのだと気がついた。私自身の専門性を軽んじているわけではなく、つくることについては開いて/開かれていたいと考えていた。また、コンセプチュアルであることと、手仕事であることをつなげていたいとも思っていた。
自分の手癖や選り好みを超えた景色に出逢いたいと望むとき、何かのアイデアに基づいてルールや考え方の枠組みを用意してはじめることが、逆に制作の自由な展開の領野を開いたりする。コンセプチュアル・アートは概念を提示すること自体を作品とし、ものをつくることには重きを置いていない向きがあり、特に手技は避けられるべきものとなるけれど、私はものに触れながらつくることをつづけたい。手仕事の継続的な時間の中でゆっくりと変化する心身感覚のようなものがあり、ときには閃きのように偶然に瞬時に、視点や射程や理路が変容していく。ここで自分の中に個人的で奇妙だけれど確信に満ちた出発地点が現れたりする。
そして「工作」で留まっているのには、私自身が怠け者で飽きっぽく、技芸を極めることや、職人のような技術の鍛錬には向いていない性分だったこともあると思う。また、素人でいられることも大切な要素だと考えている。
コトニ社の後藤さんは先のFRAGILE BOOKSの企画にいらしたのがはじめましてで、後日、私に本を書かないかと連絡をくださった。もちろん私には思いもよらないことだった。彼が打ち合わせに持っていらしたのが佐藤雅子さんの『私の保存食ノート』(文化出版局、1990年)という家庭料理のレシピ本で、私の作品についてこのような本がつくれたらという申し出だった。本当にびっくりした。作品の「経緯」と「工作」について書けるこの企画は、今の私にピッタリで凄いタイミングだと思った。
また、2022年の春にツイッターで急に立ち上がった、岡﨑乾二郎についてのZINEをつくろうという企画にたまたま飛び込みで加わって、その中で温泉マークさんの「『芸術の設計』読書会を開いたらワークショップをすることになった理由」(『芸術の設計│見る/作ることのアプリケーション』岡崎乾二郎編著、フィルムアート社、2007年)に参加して皆と話をする中で、「レシピ」というのは私たちにとっての一つの成果だったことも、この本と繋がっていると思えてとても嬉しい。『ZINEおかけん』ができて、文学フリマ36で販売したのも、同じ時期、2023年5月のことだった。
書いてみたら子どもについての内容が企図せずに多くなった。私の制作において子が生まれたことによる変化は大きく、自分の子ども時代のことを引き寄せ、重ねて考えるような心や視点の動きがあったと思う。ところがよく考えてみたら、子のいない制作期間は大学を出てから初個展までの2年間を足してもたかだか6年。子との生活の中で制作するようになってからもう24年だということに今さら気がついた。この頃になって子の手が離れたこと、自身の年齢、美術家が子どもとの関わりについて話せる状況になったと感じていることの背景があったと思うと記して、筆を置こうと思う。
企画を持ちかけてくださった後藤亨真さん、この縁を結んでくださったFRAGILE BOOKS櫛田理さん、数学に絡んだ記述についての助言をくださった鹿児島大学の田中恵理子さんに、心からの感謝を送ります。
二〇二四年 十一月
版元から一言
2023年、コイズミアヤさんの個展にはじめてお邪魔し、その作品に一目惚れ、「どのようにしたらこれほどまでに美しく繊細な作品が生まれうるのか?」これが本書を企画しようと思いたった最初の動機でした。
この謎をときあかし、その工程を料理のレシピ本のような手つきで描いた本が『しくみの内側のしくみ』です。
ちなみに、この企画を思いついたときに1冊の本が頭に浮かびました。
それは、料理研究家の佐藤雅子さんが書いた『私の保存食ノート』というレシピ本です。
この本の存在をコイズミさんにお伝えし、これをイメージしながら書いていただきました。
上記内容は本書刊行時のものです。