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原視紀行
地相と浄土と女たち
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2023年1月21日
- 書店発売日
- 2023年1月21日
- 登録日
- 2022年10月19日
- 最終更新日
- 2023年1月27日
紹介
旅の行先は
古ければ古いほどに良い――
鬼才建築家が、古く、深い日本の地相と歴史をたずねた。幻想的な世界観と哲学的思考で綴る、摩訶不思議な「原始旅行のガイドブック」。
中里和人の幻想的な写真を35点(うち25点フルカラー)収録!
目次
はじめに 石山修武
第1章 三大日本奇景は大仰だが、もっと大きい景色について 石山修武・文/中里和人・写真
漂流する、堆積する 野田尚稔
第2章 イタコ・石・夢の宮殿、そしてシュルレアリスムについて 石山修武・文/中里和人・写真
海、あるいは時間 野田尚稔
第3章 今だからわかることは多いが、シャーマニズムの伊勢はどうか 石山修武・文/中里和人・写真
石を抱いて山を登る 野田尚稔
前書きなど
はじめに
三つの小さな旅の記録であるが、風景は皆大きい。
一、フォッサマグナ、糸魚川、日本海沿岸の旅。
二、奥州平泉、そしていわき市白水の浄土庭園の旅。
三、伊勢松阪を巡る旅。
一は列島における大地溝帯とシャーマニズム探訪を目的とした。民俗学者宮本常一が示唆するように列島文化の前近代は西日本と東北(東)日本は人々の会合の性格が異なるようだ。その異なり方が地形が作る風景と関連するのではないか。そして古代シャーマンが生み出されたのは、断層からの鉱物の装飾性に助けられたかの考えが生まれた。
二は奥州平泉の列島最大級の浄土式庭園が藤原氏一族の女性たちの感性と構想力の産物であろうを、探ろうとした。日本列島文化の最美人工物の一つである宇治平等院鳳凰堂の建築も又、その庭園の池に写し出された姿が結晶であるが、その鏡面としての池の姿は、むしろ平泉の浄土式庭園大池が、より優美であると考えた。文化がむしろ中心らしきから遠い処に結晶するの可能性を考えた。
三は列島文化の象徴でもあろう天皇の社である伊勢大社を、大社周縁から考えようと試みた。
大社造りの建築様式には直接触れていない。むしろ大社を囲む森、川を巡るささいな人工物の風景を考える手段とした。
以上の三つの旅は専門分野が異なる三名でした。建築畑、写真畑、美術畑の住人である。本は言説により成るが普通だが、それぞれはそれぞれに越境者の性格が在り、時に言説は写真術の力を借りねば、自ずからなる限界が在るも知るので、写真家の強いアニマの伝達力は欠かせず、むしろ言外を表現する力として共有する事とした。
写真と言説の境界線をも、旅していただければ幸いだ。又、その事を意識して本として編集された。
作者と編集者との境界線をも楽しまれたい。
本の製作はコロナ禍の内でなした。更に続けるを強く望んではいるが、先は五里霧中である。
はじめに、はあっても、あとがきが無いのはそれ故である。
境界線が強く、時に障壁として現れるが国境である。
この本の内の形式としても国境を越えねばならぬが努力したい。
さて、第一章のフォッサマグナとシャーマンの誕生について述べる前に、いささかの前触れをどうしても置かねばならない。フォッサマグナの日本海側糸魚川エリアの古代座女奴奈川姫はシャーマンの一人である。シャーマンの存在が今(二〇二二年)にも続いていようが、わたくしの小論の骨子でもある。シャーマニズムは変型、変種を重ねて、今では諸々の芸術、しかも良質なそれに継承されている。そう考えるので、一章の冒頭に若干を加えた。
旅は古きを訪ねるが極上である。
先を視すぎたのが列島近代の、すでに過去であり歴史である。
ピカピカ、ツルツルの新品だらけの都市には皆が辟易し始めていよう。
新品だらけより、古びた中古品、古物が在った方が健全である。健全とは程々の長命を目指すことだ。けれども、人間は程々であって良いが、旅の行先は古ければ古い程に良いのである。
行先にはモノがあるだろう。出来れば古代を超えて、原始にまで辿り着きたいが、これは実に困難な旅になってしまう。あまりの困難は剣呑である。
それで本書はガイドブックたらんとした。案内しようとした場所は新日本列島三景であり、歴史も地質学、女性史、日本古代シャーマンまでの三点セットなので、そう読んで下されば良い。(石山修武)
上記内容は本書刊行時のものです。