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O157は終わってはいない
次世代型治療法ミューズ細胞の希望
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2024年7月7日
- 書店発売日
- 2024年7月12日
- 登録日
- 2024年6月28日
- 最終更新日
- 2024年8月23日
紹介
1996年7月、大阪堺市の学校給食で世界最大規模のO157集団感染事件が発生。
各地で集団感染が相次ぎ、この年だけでも全国で1万人を超える感染者が報告され、12名が死亡。未知の病源体に日本中が震撼した。
その後20年にわたり、災害発生と同調するかのように猛威を振るったO157。
現在でも年間4000人にのぼる感染者が報告され、
広域集団感染(食中毒事件)が頻発していることは知られていない。
気候変動が激しく災害の多い現代、私たちの身近に潜むO157を正しく予防し、
「悪夢の耐性菌」への警戒を怠ってはならない!
■34年にわたり、腸管出血性大腸菌を追い原因究明に奔走、
社会に警鐘を鳴らし続けてきた研究者の《闘いの記録》
目次
まえがき
第1章 わが国で起きた世界最大規模のO157食中毒事件 1996
第2章 子どもや高齢者に牛の生肉を食べさせるな!
──ユッケによるO111広域食中毒事件 2011
第3章 誰も知らない最も悲劇的なO157集団食中毒事件 2016
第4章 日本全国からトングが消えた
──総菜店のポテトサラダによるO157食中毒事件 2017
第5章 腸管出血性大腸菌O157の概説
第6章 ワンヘルスの概念と次世代型治療法の開発
あとがき
前書きなど
「O157」はもはや死語になったと感じる。2019年に世界を襲った新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、他の新興感染症の存在も希薄になった。「O157は過去のもの」──この認識に私は強い危機感を覚える。
1996年7月、大阪堺市の学校給食で世界最大規模のO157集団感染事件が発生。この未知の病源体に日本中が震撼した。各地で集団感染が相次ぎ、この年だけでも全国で1万人を超える感染者が報告され、12名が死亡した。その15年後の2011年5月、富山県を中心にユッケによるO111広域食中毒事件が起こり5名が死亡。2017年8月、埼玉・群馬の惣菜チェーン店のポテトサラダが原因とするO157食中毒事件が起こったときはトングが疑われ、日本国中からトングが消える事態となったことは、私と同年代の方であれば記憶に残っているだろう。
現在これらの事件について医学部細菌学の学生でも知っている者は極めて少なく、詳細に記した教科書もない。しかし、O157は今も私たちの身近な脅威としてありつづけている。
腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli : EHEC)O157は、牛が多く保菌しており、ヒトに感染する人獣共通感染症の原因菌である。ヒトからヒトへの二次感染も起こりやすい。感染すると出血性大腸炎のみならず、重症化すれば溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome : HUS)や急性脳症を引き起こす。急性脳症になると致死率が高く、治療は困難を極める。重症化を抑える有効な治療法の開発については、現在も模索が続いている。
ニュースでは大きく取り上げられないが、わが国では毎年3000~4000名の感染者が報告されている。また広域集団感染も頻発しており、尊い人命が失われる事例もみられる。
国立感染症研究所の感染症発生動向調査によれば(2023年3月22日現在届出数。無症状病原体保有者を含む)、感染者の総数は2018年度3855人、2019年度3745名、2020年度3090名、2021年度3241名、2022年度3382名が報告されている(2020年は新型コロナウイルス感染症対策のためか、統計をとって以来最少の感染者数となったが、また増えはじめている)。2022年8月に京都府で食品店で販売されたレアステーキ、ローストビーフを食べた41名中40名が下痢等の症状を訴え、1名の尊い命が腸管出血性大腸菌によって奪われている。……
言うまでもなく今や感染症は、医学の分野にとどまらず、全国民的に地震や津波などの自然災害と同じように、危機管理の対象としてその思考や行動を変えていくべきである。特にO157のように私たちの身近な日常に潜んでいる感染症は、ひとたび何かが起こればそのリスクは格段に高まる。
さらなる新興感染症や新型インフルエンザの出現、抗菌薬が効かない多剤耐性菌の発生が危惧される中、本書でO157への予防と正しい知識を改めて確認していただくとともに、当時辛苦を舐められた全ての方、亡くなられた方々に思いを馳せ、わが国が経験した大規模な集団感染の経験をこれからの感染症の危機管理対策にぜひ活かしてほしい。
この国で最もO157感染症事件を追い、詳細を見てきた者として、本書を書き残す。
2024年6月
(「まえがき」より抜粋)
上記内容は本書刊行時のものです。