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相続をちょっとシンプルに
気づきをうながすためのケアフル相続入門
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2022年5月22日
- 書店発売日
- 2022年5月22日
- 登録日
- 2022年4月19日
- 最終更新日
- 2022年8月8日
紹介
自分だけでなく、家族や身のまわりの人たちと一緒に相続を考えるきっかけにしてもらいたい本。
本書は、相続対策の実務よりも、まずは相続を知るために「読む」ことを意識した相続エッセイです。相続は発生してからではなく、準備が大事だということに気づいてもらい、相続は自身の生活にどれくらい関わりがあるのかを考えてもらうことを目的にした本です。
全国に点在する空き家の問題、司法書士の仕事や「争族」の対策を切り口に相続の基本的な事柄を俯瞰し、相続にとって重要と言われる遺言書のこと、土地や家の名義を受け継いでいく相続登記の重要性やエンディングノートの効果を考えます。また信頼できる人に財産管理を任せる民事信託・家族信託についても、認知症などさまざまな状況をふまえた「使用例」を紹介し、その有益性に言及します。
そして、随所にある著者自身の私生活で体験した出来事や司法書士業務の経験をベースに書かれた事例も本書の大きな魅力です。相続の「浅い」部分から「深い」ところまで理解できる解説も豊富ですが、本書にある著者自身の体験談は読者にとって相続をより身近に感じる手がかりとなるはずです。
この本をつうじて「本当に財産はないのか」「お金がないから関係ないのか」「遺言書はいつ必要なのか」「民事信託・家族信託はどのくらい使えるものか」など、自身の生活と「相続」との距離感を考えてもらいたい。そして、「遺言書があればこんなことに……」「家の名義変更に、こんなにも苦労するなんて……」という事前の準備を怠ることで発生するケアレスミスならぬ「ケアレス相続」を少しでも減らして、「ケアフル相続」があふれた社会へ。
相続についてちょっとでも気になることがある人を中心に、いまの自分の生活と相続はまったく関係ないと思っている人や、今まさに、相続の世界にどっぷり浸かっている人にも参考にしてもらえるはずです。
本体は、文庫よりすこし大きいコンパクトサイズ、手軽で持ち運びがしやすいと思います。
目次
第一章 だれもいない家は「だれのもの」
司法書士の仕事と本書のテーマ
財産を考えよう
相続で争族に
争族対策が一番大事
第二章 なぜ遺言書が必要なのか
義父はなぜ遺言書を残さなかったのか
遺言とは何か
ただの紙切れになる遺言書
疎遠になった先妻の子どもへの相続と遺留分
相続の行方を自分で決めたいとき
内縁の配偶者と連れ子への相続
手続きを簡単にするための遺言(認知症・知的障がい・海外在住)
未成年者への相続と財産のある「場所」
遺言者を尊重する気持ち
エンディングノート
第三章 私たちの生活と相続登記の距離感
「あなたの住んでいる家」について
遺言書がすべてではない
相続登記はめんどくさい
相続人が行方不明
相続人の一人が認知症
ぼうだいな相続人をかかえた明治時代の家
隠せない隠し子
法定相続情報証明制度
第四章 信じ託すこと
~民事信託・家族信託と成年後見制度~
認知症と信託
実家の信託
倒産隔離機能
後妻に引き継いだ財産の行方
配偶者居住権
収益物件の建替えと信託
事業承継対策にも使える自社株信託
成年後見制度
親なき後問題について
民事信託・家族信託と任意後見の併用
あとがき ケアレス相続がなくなることを願って
前書きなど
みなさまの生活圏内にぽつんとたたずむだれも住んでいない家、「空き家」はどのくらいありますか。
「そういえば、あの家はずっと空いたまま……」と普段何気なく目にしているその空き家は、日本全体でも増え続け、社会問題に発展していることはご存知のことかと思います。
別に空き家ぐらい……と思うなかれ、実際に何年も空き家状態になっているといろいろな問題が発生する可能性があるのです。
空き家になると、建物の老朽化が進むのは当然ですし、人の手入れが行き届かず植栽の放置や雑草の繁殖による景観の悪化、不審者の不法侵入や大型ごみの不法投棄をまねく恐れもあります。また、治安の悪化や地震などにより建物が倒壊し、避難経路をふさぐといった防災上の不安もあります。
現在、あなたのまわりにある空き家はあなた自身の生活を脅かすことはないとは思います。しかし、将来的に前述のことが実際に発生し、不満や不安といった分子があなたの生活を侵食してくることがあるかもしれません。
空き家になるケースとして多いのは、少子高齢化の流れで、住人が老人介護施設に入所したり、住人が亡くなりだれも住む人間がいなくなったりするケースです。
また明治・大正・昭和初頭に不動産を取得して、長期間、所有名義がそのままになっていることで、現在の承継者が不明で、だれも管理していないような空き家や空き地となっているケースも多々あります。いわゆる所有者不明土地問題です。2017年の国土交通省の調査によりますと、日本の国土の22%が、不動産登記簿により所有者がただちに判明しない土地、あるいは、所有者が判明しても、その所在が不明で連絡がつかない土地です。九州本土を大きく上回る面積が所有者不明の土地となっており、これにより、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引が滞るなど、土地の利活用が阻害されているのです。
「国や自治体がうまく管理すればいいじゃないか。空き家でずっと放置されていたら潰してしまうか、民間に譲ればいいし……」などと思われるかもしれません。しかし、そう簡単にはいかないのです。簡単にいうと、現在、そのような法律や仕組みがつくられつつある状態ではありますが、利用できるのは限定的で、不動産の所有という財産権は憲法で保障されているので、国や自治体が簡単に介入できることではないのです。もちろん、近隣の苦情や安全面に支障が出るなどの理由で、自治体が主導で空き家を取り壊すこともありますが、その土地はずっと空き地のまま放置されてしまいます。
たしかに国の法整備の問題もありますが、ここでポイントなのはそういった名無しの家や土地を増やさないこと、そしてもっとも重要なこと、それは本書のメインテーマでもあるあなた自身が「相続」についての手続きを完了しておくことなのです。「手続き」と聞くと、法律や煩雑な作業、むずかしい話を連想してしまいませんか。それは当たっていると言わざるをえないことですが、考えないといけないことは子どもたちや将来の社会に「私たちに今何かできることはないかと考えること」ではないかと思うのです。
今、すでに問題になっている空き家問題については、時間と費用をかけて、所有者の調査をしていくことしかできません。しかし、これ以上空き家を増やさない努力をしていくことで、将来の空き家を減らしていくことができると信じています。現時点で亡くなった方の所有名義の不動産については、速やかに相続登記をすることで、所有者を明確にしておくことが肝要だと思います。
また、相続登記にかぎらず相続全般に関することでは、相続人同士が揉めることがないように、遺言を書き残しておくということも大事になってくると思います。
さらには、不動産所有者が認知症になり判断能力を失うことで、不動産の売買や賃貸に支障を及ぼすこともあります。予防策として信頼する家族にその不動産を託す民事信託・家族信託の活用をすることも大事になってくるでしょう。
国や自治体も、空き家問題や、震災復興の妨げにもなっている所有者不明土地問題の解消に力を注いでおり、僕たち司法書士も、国や自治体の依頼を受けて相続人調査をしているところです。所有者不明土地問題の原因について、法務省の2021年4月の資料「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」によると、相続登記の未了が66%、住所変更登記の未了が34%とされています。
そこで、国は不動産を取得した相続人に対し、取得から3年以内に相続登記の申請を義務づける相続登記の義務化、相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により取得した土地を手放して、国庫に帰属させることができる相続土地国庫帰属制度の創設、特定の者が名義人となっている不動産一覧を証明書として発行する所有不動産記録証明制度の新設、自筆証書遺言の法務局保管制度など新しい制度をつくることで、空き家問題、所有者不明土地問題の解消への一歩を踏み出しています。
空き家問題、所有者不明土地問題だけではないですが、僕たち法律専門家もまた、将来の世代に向けて、今できること、しなければならないことを積極的に伝えていくことが大事だと思い、微力ながら本書を執筆することにしました。
本書では、司法書士としての僕個人が目にしてきた事例をもとに、みなさまが、今しておいたほうがよいと思われることを考えたいと思います。さきほどからたびたびお伝えしている「将来に向けて今できること」に気づいてもらえるだけで本書を執筆した意味があります。知っているか知らないかで、子どもたちなど残される方の将来をより負担の少ないものにすることができるのです。僕たちは、毎日のように、相続手続きの現場にいますから、相続で揉めそうなケースや、将来面倒な手続きが必要になるケースは、一目瞭然です。そのことを知っていながら、何の対策もとらないことは、例えるなら学校のテストで、問題がわかっていながら、誤字や脱字で点数を落とすケアレスミスと同様です。非常 にもったいなく残念な結果になります。
注意不足で、気づいたときにはもう遅いというケアレス相続を可能な限り回避し、当然のように、対策を講じるケアフル相続を実現するための気づきを本書で伝えられたらうれしく思います。
上記内容は本書刊行時のものです。