書店員向け情報 HELP
出版者情報
書店注文情報
在庫ステータス
取引情報
ジェンダーからソーシャルワークを問う
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2020年5月30日
- 書店発売日
- 2020年6月2日
- 登録日
- 2020年3月17日
- 最終更新日
- 2022年7月1日
書評掲載情報
2020-12-20 |
ソーシャルワーク学会誌
41 評者: 三島亜紀子 |
2020-07-25 |
図書新聞
3457号 評者: 海妻径子 |
MORE | |
LESS |
重版情報
2刷 | 出来予定日: 2020-12-10 |
MORE | |
LESS |
紹介
困難な状況に置かれた人々を生み出す社会の矛盾に目を向け、当事者主体の支援を展開しながら、人々を抑圧する構造の変革をもめざすソーシャルワーク。だが、その本質を失いかけているといわれて久しい。ソーシャルワークはなぜ視野を狭め、非政治化したのか。フェミニズムとジェンダーを通して、ソーシャルワークを批判的に検証し、その変革への糸口を示す意欲的論考集。
目次
はじめに
1 語られていない構造とは何か
――ソーシャルワークと「ジェンダー・センシティブ」(横山登志子)
はじめに
1 ソーシャルワークと「ジェンダー・センシティブ」
2 事例で考える
おわりに
2 女性福祉からフェミニストソーシャルワークへ
――バトラー以後に向けて(須藤八千代)
はじめに
1 社会福祉学に登場する女性
2 ジェンダーとセクシュアリティ
3 ソーシャルワークのポストモダン的転回
4 バトラーが見落としている「障害」という問題
まとめにかえて
3 家族福祉論を通して、ジェンダーを社会福祉学に位置づける(鶴野隆浩)
はじめに
1 社会福祉学と家族福祉論
2 独特なジェンダー概念の社会福祉学への導入
3 女性福祉への収斂化
4 ジェンダー概念からの組み立て直し:現状認識から
5 ジェンダー概念からの組み立て直し:社会福祉学の問い直し
6 ジェンダー概念からの社会福祉学の再構築
結 論
4 性被害体験を生きる――変容と停滞のエスノグラフィー(大嶋栄子)
はじめに
1 2017年12月:ホームレス(Homeless)/ハウスレス(Houseless)
2 2010年2月:記憶の欠落/解離
3 2003年8月:再生のための自閉/グループホームでの日々
4 1999年5月:生き延びるためのアディクション/性被害という開示
5 心的外傷を抱える人へのソーシャルワーク
6 加害者の生/援助者のポジショナリティ/おわりに
5 〝LGBT〟とソーシャルワークをめぐるポリティクス(宮﨑 理)
はじめに:個人的なことは政治的なこと
1 死と哀悼をめぐって:Yさんとの「個人的なこと」
2 ソーシャルワークにおけるジェンダーとセクシュアリティ
3 多様性と非政治化
4 哀悼可能性(grievability)の損なわれ
5 「自身の輪郭をたどる」ということ
おわりに
6 「晩年の自由」に向けてのフェミニストソーシャルワーク
――老いゆく人との女性史的実践と〈継承〉(新田雅子)
はじめに――怒りを表出することの意味
1 高齢者福祉の課題特性と社会的機能としての〈継承〉
2 歴史学における女性史、社会学におけるライフヒストリー
3 エイ子さんのライフヒストリー
4 女性史的実践の価値
7 内面化したジェンダー規範と戸惑い、葛藤
――母子生活支援の最前線に立つ援助者の語りから(中澤香織)
はじめに
1 家族を支える施設
2 支援の場でみえてくるもの
3 支援における葛藤
おわりに
前書きなど
ソーシャルワークを切り拓く言葉がここにある。編者として今、率直にそう感じている。しかし、本当にそのとおりかどうかは読者ひとりひとりにゆだねるほかはない。
本書は、ジェンダーやフェミニズムという概念・思想を中心に、ソーシャルワークを批判的にとらえたうえで、今後のソーシャルワークにむけたチャレンジングな論考集である。執筆者は、年齢も専門とする領域もさまざまであるが、現在のソーシャルワーク実践あるいはソーシャルワークの理論に対してそれぞれに「物足りなさ」を感じつつ、その内側にとどまりソーシャルワークが有している可能性を拡張しようと、言葉を連ね、意味と力を込めている。
この本を通して発信したいことの1つは、あらゆる種類の抑圧と排除につきまとう「男/女」の二項対立的なカテゴリー化に基づく権力構造(ジェンダー)に対して、抑圧と排除に抗う者として機能するはずのソーシャルワーカー/ソーシャルワークが、残念なことに善意から、意識せずに抑圧に加担するという構造上の死角が存在することを、読者とともに確認しつつ、それを内側から変革していこうという呼びかけである。
特に、本書では抑圧的な状況に置かれやすい女性の現状や支援を取り上げている章が多いが、これをもって「女の問題」と片付けることをジェンダー理論は許容しない。むしろ、硬直したカテゴリー化に基づく抑圧構造の中心にあるものとしてジェンダーをとらえ、他のさまざまな抑圧問題を同様の視点から透かし見ていくようにいざなうことになるだろう。
例えば、「男」カテゴリーに付与されている「男らしさ」や労働を軸とした性規範などから周辺化された男性、あるいは支援現場で性別と同様にインパクトをもった基礎情報となっている「障害者」、「要支援者」、「生活保護受給者」などの一方的な制度的カテゴリーによって、社会システムのなかで抑圧を受ける側として位置づけられている人たちなど、その構造的問題への視点や、そこへの想像力を喚起できると考えている。これは、ジェンダーによる抑圧構造と二重写しの問題である。
本書で発信したいことの2つ目は、ソーシャルワーク論をどう描くかである。それは、ミクロ・メゾ・マクロの一体性を説明することに終始する狭義の「方法」論としてでもなく、援助関係を「援助者-利用者」という二項対立図式にとどめやすい狭義の「援助」論としてでもなく、「支援を契機とする社会的協働実践としてのソーシャルワーク」として位置づけることの重要性である。このことを本書のいくつかの章では素描している。
つまり、対象となる問題や利用者(当事者)を徹底して客体化し、適切な分析から支援を展開するという描き方ではなく、まさに身体感覚をもって利用者(当事者)と対峙し、悩み、葛藤し、引き受け、見守り、同時代を生きる証人として存在するソーシャルワーカー/ソーシャルワークとして描いている。描かれた行為は「援助」であり「支援」であることに違いはないが、同時に「ソーシャルワーカー」という役割を担った「証人」として/「語りを聴いた者として」/「出会った者として」の社会的使命から、その事例を超えた活動なり、発信なり、協働なりにつなげている。そこでは、利用者(当事者)との関係性の枠組みがそう単純に「する-される」という関係で言い表すことができない実態がある。わたしたちはそこにソーシャルワークの〝Social〟の意味があると考えている。
ソーシャルワーカー/ソーシャルワークが、多様性と包摂を携えた「人権と社会正義」を表明し、ジェネラリスト・ソーシャルワークのひとつの視点として、「ジェンダー」や「フェミニズム」といった言葉を、日々の実践の分析枠組みにあたりまえに取り入れていくことを強く期待し、論考の波紋が広がることを願っている。
7人の執筆者たちの論考は、いくつかの特徴を共有している。ひとつは、本書の目的でもある「ジェンダー」や「フェミニズム」、「セクシュアリティ」といったテーマからソーシャルワークの問題・課題に独自に切り込んでいること、2つ目にソーシャルワーク/社会福祉学に対するクリティカルな視座を有していることだが、決して真空状態の議論ではなく自らを含む足元の問題として省察(内省)的な視座を有していること、三つ目には、直接的にとりあげているかどうかは別として著者自身の経験や調査、インタビューに基づく「ソーシャルワーク感覚」によってテーマに肉迫していることである。つまり、執筆者にとって言わずにはいられないテーマや論点が存在している。
したがって、それぞれのテーマを読み進めると、「あなたはどう考えるのか?」、「あなたはどうしてきたのか?」、「あなたはどうするのか?」と、行間から問いを投げかけられることだろう。読者は、その問いに対してむやみに卑下する必要もなく、そのままを受け取る必要もない。執筆者たちはそれぞれのテーマについて社会的に開かれた場で(この本で)、ともに考えていこうと強く呼びかけている。
上記内容は本書刊行時のものです。