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そうしてサンパギータは神戸にいる
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2025年1月17日
- 書店発売日
- 2025年1月17日
- 登録日
- 2024年11月27日
- 最終更新日
- 2025年1月17日
紹介
借金、浮気、DV……。
夫や家族に振り回されながらも受容し、ときには強くあらがい、人生を切り拓く。
神戸で暮らすフィリピン女性5人が語った、それぞれのリアルな生きざま。
日本社会の「フィリピン女性」へのレッテルを覆す。
目次
はじめに
サンパギータ(1) リザさん
サンパギータ(2) マユミさん
サンパギータ(3) けいちゃん
サンパギータ(4) コラゾンさん
サンパギータ(5) 愛さん
前書きなど
はじめに
フィリピンの国の花はジャスミン。フィリピンの言葉(タガログ語)ではジャスミンを「サンパギータ」という。凛として香り高い小さな白い花、サンパギータに日本で生きるフィリピン女性たちの姿が重なる。
私はこの物語に登場する女性たち一人ひとりを「サンパギータ」と呼びたい。
日本には多様な国や文化をルーツにもつ人々が暮らしている。2020年末ではおよそ240万人の外国籍の人がいる。フィリピン国籍の人はおよそ23万人余り。そのうち16万人余りが女性と、女性の割合が高くなっている。とくに、30代以降、女性のほうが同世代の男性よりも多くなり、40代になると10倍以上も女性のほうが多い。50代では男性数の3倍で、20代以下の男女比は大体同じくらいである。他の国籍の男女比を見てみると、中国やタイなども女性のほうが多いが、フィリピンの場合、特にその差が目立つ。ちなみに神戸市内に住むフィリピン人は954人で、うち女性は668人。兵庫県全体では3、957人、うち女性は2、868人にのぼる。(2020年国勢調査)
なぜこの世代に女性のほうが多くなっているのだろうか。もちろん仕事のために居住する人(介護や看護、家事労働など)、留学生、技能実習生もいるが、フィリピン女性の場合、特に国際結婚で日本に暮らすようになった人が多くを占めている。かつて、1980年代から90年代にかけて「興行」(エンターテイナー)の在留資格で、年によっては数万人のフィリピン女性たちが斡旋業者などを通じて来日した。彼女たちの中には、日本人男性と結婚し日本に定住する人もいた。2005年に同在留資格の取得条件が厳しくなったため、その数は翌年には10分の1程度まで激減している。フィリピンなどアジアの女性たちは、1980年代ごろから、人口流出に悩む地方の農業地域などで跡継ぎ男性の妻として迎えられた。いわゆる「アジア人花嫁」である。現在30代後半から50代前半のフィリピン女性が多いのはそうした時代の背景もあった。今でも日本男性と結婚するフィリピン女性は年間2、300人余りにのぼる。(2022年人口動態調査)
しかし20年、30年と日本に暮らしているにもかかわらず、日常の彼女たちの様子はあまり浮かび上がってきていない。日系ブラジル人やベトナム人の方々のように集住していないというのは理由の一つだが、「エンターテイナー」としてのフィリピン女性といった強い社会的なイメージもあったかもしれない。そして言語の問題もある。長く日本に暮らしていて、日本語の会話はある程度できるものの、日本語の読み書きができない人が少なくない。日本語中心の社会の中で、自分の考えや思いを発することが難しい上、そうした場は彼女たちには少ない。私は、一人の市民として生きるフィリピン女性「サンパギータ」たちの語りを聴き、その言葉を書きとめ、つづり、社会へ伝えたいと思う。
日本はこれからさらに外国の人々を迎え、共に暮らし、社会を作っていくことになるだろう。その中で、長年日本に暮らしてきたフィリピン女性たちの知恵や経験は社会の財産だ。また彼女たち自身も日本の社会の役に立ちたい、支えたいと願っている。そんな「サンパギータ」の思いを、この物語が社会へと橋渡しをしてくれるのではと期待している。
本書に登場する5名の「サンパギータ」たちが語る言語は、基本的に日本語である。英語でも日本語でも語りたい言葉でと言うと、4名は日本語でと希望された。最初に登場する「リザさん」は、最初は英語であったが、半ばで徐々に日本語も混じる語りになった。
日本語は、語り手にとって、母語でも教育を受けた言語でもない、生活の言語である。彼女たちは日々の暮らしの中で習得せざるを得なかった言語の海の中で、自らの気持ちや経験した事柄を表すのにふさわしい言葉を必死で探り、つかみ、つなげ、語ろうとしていた。私は、語り手の横に座り、耳を傾ける。生まれ育った言語ではないからこそ、一つひとつの言葉が意思を宿しているように思う。心の中で浮かんだことを表すために発された言葉が、言語学的に適切でない場合もあるかもしれない。だが、その「誤り」に、私は異なる言語、文化のはざまを渡ろうとする語り手の力強さを感じる。
「ライフヒストリーを語って欲しい」
時間もエネルギーも負担をかけてしまうのに、お願いした方はどなたも快く受け入れてくれた。時には辛い思い出に涙を流させてしまったこともあった。それでも、語ってよかった、聞いてくれてありがとう、本になるのを楽しみに待っている、とおっしゃってくださった。みなさんにはいくら感謝してもしきれない。
また、金木犀舎の浦谷さんは物語が形になるきっかけを私に与えてくれ、構想から4年余り、ずっと共に走ってくださった。浦谷さんがいなければ、語りを残せなかったかもしれない。
最後に登場する「愛さん」は、本書の完成を待たずに、2023年5月に急逝された。先生、サンパギータができたら英語に翻訳しましょう、私が訳します、とおっしゃってくださったのに、それが叶わなかった。天国の愛さん、お待たせしました、やっとできました、ありがとう。あなたの語りは社会の歴史に残るとともに、人々の励みや勇気になることでしょう。
奈良雅美
版元から一言
神戸でフィリピン女性の支援活動をおこなう著者が、5人のフィリピン女性の人生をていねいに聞き取り、1冊にまとめました。
苦難を抱えながら日本で長く暮らす彼女たちの物語は、フィリピンと日本、文化は違っても同じ女性なのだと、心から思えるはずです。
上記内容は本書刊行時のものです。