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冬牧場
カザフ族遊牧民と旅をして
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2021年12月8日
- 書店発売日
- 2021年12月24日
- 登録日
- 2020年12月22日
- 最終更新日
- 2021年12月28日
書評掲載情報
2022-02-19 |
日本経済新聞
朝刊 評者: 小長谷有紀(文化人類学者) |
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紹介
芥川賞受賞作家・李琴峰氏推薦!
「温度計も測れない厳冬、羊のフンに囲まれる地中の家、果てしない荒野――
過酷な環境とともに描き出されるのは、遊牧民の人間味溢れる暮らしと営み。
クスッと笑うこと間違いなし! 」
中国文学における最高栄誉の魯迅文学賞を受賞した李娟の代表作『冬牧場』がついに日本刊行!
李娟は、他にも上海文学賞、人民文学賞、第二回朱自清散文賞など多くの文学賞を受賞している。
本書は、世界で一番海から遠い都市、新疆ウイグル自治区のウルムチから届いた極上の紀行エッセイ。
著者の李娟と、新疆ウイグル地区アルタイ地方にある冬の牧場で遊牧をしているカザフ族との約三カ月にわたる心温まる交流を綴っている。また、このような遊牧民の生活は、中国の政策によって近いうちに遊牧民たちも定住を選ぶ時代になるかもしれないという時代に、非常に貴重な記録となっている。
目次
日本の読者のみなさんへ
序文
第一章 冬の住処
第二章 荒野の主人
第三章 静けさ
第四章 最後の出来事
訳者によるあとがき
前書きなど
日本語版序文
最初に、この本の背景となる「アルタイ」と「カザフ族」のことを書いておきたいと
思います。
アルタイ地方は中国西北端に位置し、ロシア・カザフスタン・モンゴルの三国と国境を接しています。北はアルタイ山脈南麓中央部、南はグルバンテュンギュト砂漠です。総面積は11.7万平方キロメートル、新疆ウイグル自治区のイリ・カザフ自治州に属し、主にカザフ族の人々が住んでいます。
ここには、雪をいただく山々、氷河、沼地、タイガの森、高山湖が続き、北極海に流れ込む青い水系があり、ラベンダーや金蓮花の花の海が広がっています。そして……もちろん、さらに果てしなく続くゴビ砂漠と、長い長い冬があります。
半年の長きにわたる冬と痩せた土地は、当地のカザフ族の祖先たちに、自然の法則に従い大地を南北に移動する「遊牧」という辛く苦難に満ちた生活様式を守らせてきました。
本の中で書いたように――「アルタイの深山から天山北部の開けた地帯まで、遊牧民たちは毎年五百キロ以上を移動します。最も多い場合は、四日ごとに移動します。」
今にいたるまでこうした古くからの、水と草を求めて移動する牧畜業が、アルタイ地域の中心的な産業です。ラクダのキャラバンと羊の群れが埃の舞う中を行く様子は、この土地でよく見られる光景です。
私は若いとき、アルタイ地域の典型的な放牧地区で何年も過ごしたことがあります。周りの遊牧の風景は、私の執筆の重要なテーマとなり、書いていくうちに、先輩作家や読者たちの注目を集めるようになりました。アルタイを題材にした二冊の短編集を書き終えた時、私はカザフの遊牧民の世界に深く入り込んで、人々の実際の生活により近づいた作品を書きたいと思いました。当初の意気込みは大きかったのですが、実際に行動に移してみると、大きな障害や戸惑いを感じずにはいられませんでした。
まず、他人の家庭に入りこんで共同生活をし、体験し、観察することは、私の性格には向いていませんでした。自分の存在が極めて不自然であると常に感じていたからです。次に、私の能力では民族の全体像を描きだすことは無理であると気づきました。ですから、完成したこの本は、単に視野の狭い個人の体験の記録になっていることでしょう。長々と並べた日常的な話であり、多くの個人的な感情も盛り込まれています。それは私の観察と個人的な考えに関係しているだけで、この荒野の人々に関心のあるすべての方々に対して、何とかして小さな穴をあけたにすぎません。
でも、今、この文たちは、この小さな穴から流れ出し、アルタイという世界でもっとも海に遠い所から、海に囲まれた所へ流れつこうとしています。私は本当に幸せです。この本を書いたときの私はまだ海を見たこともありませんでした。
出版社の方々のご厚意に感謝します。また河崎みゆきさんには、厳密で愛情こもった翻訳をしていただき、ありがとうございます。
この本を読んでくださる遠くの未だ見ぬ読者の方々に感謝します。
2021年3月
李娟 海南島にて
上記内容は本書刊行時のものです。