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北海道みなとまちの歴史
廣井勇が育んだ北の日本近代築港
- 出版社在庫情報
- 在庫僅少
- 初版年月日
- 2021年2月12日
- 書店発売日
- 2021年2月5日
- 登録日
- 2020年9月8日
- 最終更新日
- 2021年12月2日
紹介
◇推薦の言葉――本書は北海道における初めての港湾の通史である。その発展の過程を多面的に捉えた、北海道の港と港町の歴史を知る好個の著作として推薦します。 北海道大学元総長 佐伯浩名誉教授
◇明治期に海外から日本へ導入・移植された近代築港の科学と技術が、北海道開拓と港町の形成に大きく貢献した事実を明らかにした、北海道初となる港湾通史が誕生しました。日本における近代築港を、開拓期の北海道を舞台に生み育てた廣井勇は、札幌農学校を卒業後、アメリカで工学を学び、豊富な知識と北海道開発への使命感から、自ら道内の港湾開発を指導しました。
◇本書では、北の地で近代築港の技術が大きく発展した事実を明らかにするとともに、函館・小樽・釧路・室蘭・網走・苫小牧の各港が、いつ・どこで・どのような理由により建設されたかを詳述するとともに、港の建設と産業経済の発展によって港町が発展していく過程を、歴史的・空間的に把握できるように記述しました。
◇さらに、小樽運河や釧路港の建設過程など、従来の歴史書において不正確だった記述についても訂正した、北海道の港と港町の歴史を明らかにした歴史書です。
目次
はしがき
第一章 北海道の開拓と港の建設
概 説
一 松前藩時代
1 松前藩の成立/2 北前船と松前三湊
二 幕領時代前期(1799-1821)
三 幕領時代後期(1854-1867)
四 開拓使時代(1869-1882)
1 札幌本道と小樽・札幌間新道の建設/2 幌内鉄道
3 函館港を中心とする航路の開設
五 道庁時代(1886-1912)
1 岩村通俊長官の拓殖計画/2 永山武四郎長官の離宮設置の申達
3 小樽の急激な発展と北海道炭礦鉄道/4 日本郵船会社の創設と航路の拡充
5 北垣国道長官の開拓意見具申書/6 函館港・小樽港の修築
7 北海道鉄道敷設法の公布/8 北海道拓殖十年計画(1901-1910)
9 海運の概況/10 補助航路/11 道路の改良/12 鉄道の国有化と組織の一元化
六 北海道第一期拓殖計画(1910-1926)及び第二期拓殖計画(1927-1946)
1 釧路築港/2 留萌築港/3 室蘭築港/4 網走築港/5 稚内築港
6 根室築港/7 岩内漁港修築/8 浦河漁港修築/9 沓形漁港修築
10 江差漁港修築/ 11 紋別漁港修築
七 昭和20年までの北海道開拓の進展と交通網の展開
八 北海道総合開発計画と海の主要プロジェクト
1 北海道総合開発計画/2 苫小牧港(西港区)の建設/3 石狩湾新港の建設
補 遺
註
第二章 函 館
一 宇須岸
二 幕領時代前期の箱館
三 幕領時代後期の箱館・明治初期の函館
1 ペリー提督が見た箱館/2 開港後の箱館
四 明治11、12年の大火と都市基盤の整備
五 近代都市としての基盤整備
1 亀田川切替工事/2 願乗寺川の埋立工事/3 函館港改良工事
4 谷地頭の埋め立てと市街地整備/5 上水道敷設/6 函館の公共建築
7 函館区域の拡大/8 明治40年の大火
六 青函航路と大桟橋の建設
七 銀行と海運業
1 銀行の設立/2 明治期の海運業
八 函館の大躍進
1 函館の産業/2 北洋漁業/3 市内交通の整備/4 函館港の修築工事
九 第1次世界大戦後の経済低迷と函館
1 函館経済の陰り/2 大正期の市域の拡大/3 大正10年の大火と都市整備
4 幻の工業港計画/5 青函航路の進展
十 昭和の都市基盤整備
1 函館港の変貌/2 昭和9年の大火と復興事業
十一 函館港の貿易と北千島サケ・マス漁業
1 函館港の貿易/2 北千島のサケ・マス漁業
十二 第2次世界大戦後
1 北洋母船式鮭鱒漁業/2 青函連絡船/3 函館湾岸大橋(ともえ大橋)
4 西部地区再生の市民運動
註
第三章 小 樽
一 オタルナイ
二 明治初期の市街形成
三 市区改正と道路
1 市区改正と道路の整備/2 埋め立てと新市街
四 明治30年頃までの市街の発達
五 明治40年頃の商業と金融
六 明治期の港湾の整備
1 北防波堤完成以前の港湾施設/2 廣井勇による北防波堤の建設
3 廣井勇による港湾計画と小樽運河の提案/4 運河建設までの経緯
5 鉄道院による施設整備
七 大正期の産業動向
八 大正期の港湾整備
1 南防波堤及び島防波堤の建設/2 小樽運河の建設(区営第一期埋立工事)
九 昭和期(昭和30年頃まで)の市況及び港湾
1 第二期拓殖計画における小樽港/2 鉄道省営工事/3 市営埋立
十 北海道総合開発計画における小樽港
十一 小樽運河を中心とした町並み保存運動
註
第四章 釧 路
一 江戸期のクスリ
二 釧路築港以前
三 釧路築港
1 廣井勇の修築計画案/2 関屋忠正の修築計画案/3 その後の修築計画の変遷
四 大正期の港勢
五 市街地の発展
1 釧路臨港鉄道/2 鳥取市街の形成
六 昭和初期から昭和20年までの釧路港修築
七 港内の諸活動
八 昭和20年以降の港湾修築
1 北埠頭/2 副港/3 中央埠頭/4 南新埠頭/5 水面貯木場
6 釧路川/7 知人地区/8 西港の整備
九 昭和20年以降の市街地
1 市街地の拡大/2 幣舞橋と“道東の四季”の像/3 釧路湿原
第五章 室 蘭
一 モルエラン
二 北海道炭礦鉄道の進出と商業
三 鉄道院の西部埋立と石炭高架桟橋
1 西部埋立地/2 石炭高架桟橋
四 海運の発達
1 北海道炭礦鉄道による石炭積出/2 三港定期航路及び青蘭航路
3 噴火湾の沿岸航路
五 製鉄・製鋼所の建設
六 市街地の形成
1 母恋を中心とする市街/2 輪西製鉄所社宅と市街の発展
3 海岸町、小橋内、祝津などの市街
七 港湾の修築
八 重工業の発展
九 第二期拓殖計画による港湾工事
十 昭和期の輪西・母恋を中心とする市街の状況
十一 戦後の復興と発展
第六章 網 走
一 網走場所
二 北見町の誕生と発展
三 港網走の発展
四 部落の形成と展開
五 林産業の発展
六 鉄道網の発達
七 一級町村へ躍進
八 網走築港と港勢
九 大正から昭和7年までの産業の動き
十 冷害の克服
十一 石北線・釧網線の全通
十二 戦後の網走港
註
第七章 苫小牧
一 ユウブツとトマコマイ
二 苫小牧村の誕生
三 王子製紙の進出と諸工業の発展
四 一級町村制の施行
五 昭和初期の工業
六 戦後の王子製紙解体と国策パルプの再建
七 戦前における勇払原野の開発問題
八 港湾築設運動の再開
九 築港計画の変遷
1 日本港湾協会による工業港修築計画
2 北海道開発庁による臨海工業地帯造成計画/3 臨海工業地帯の整備
十 都市計画と土地造成
註
参考・引用文献
北海道みなとまちの略年表
人名索引
前書きなど
本書は、北海道における近代築港の実像と港町の発展過程を描いた歴史書である。
古来より港町には、全国各地のみならず海外からも人々が集い、物貨が集散した。商社や銀行の建物が軒を連ね、岸壁には倉庫群が建ち並ぶ、商いや社交の場でもあった。しかし、日本郵船や大阪商船の汽船が、全国を巡る航路を開設した明治の中期になっても、天然の地形を利用して波の静かな海域に船舶を停泊させ、小舟を利用して陸と連絡する旧来の海上輸送の形態は変わらなかった。
それが大きく変化するのは、西洋で生まれた科学と技術による近代築港学が我が国に移植されてからである。その恩恵を最も享受したのが北海道開拓であった。昭和初期まで、北海道が我が国の港湾建設の最前線であり、港湾技術の発展に極めて大きな役割を果たしたことを知る人は、意外なほど少ない。
本書では最初に、函館、小樽で点された近代築港の灯が、北海道を開拓する手段として全道に広がっていく過程を描いた。シビルエンジニア(土木技術者)廣井勇が、全身全霊を傾けて我が国に移植した近代築港の科学と技術は、彼の直弟子たちによって北海道の各港で実践され、洗練されながら普及していった。
気象と海象が関連づけられ、気象予報から海象の変化を予測できるようになったのは、第二次世界大戦末期からのことであり遠い昔の話ではない。港の建設は、海中に構造物を築造する作業が主となる。特に防波堤の建設は、海洋の波の影響を直接受ける厳しい作業環境下で行われる。北海道開拓では、まず全道の主要港に防波堤を築き、船舶が安全に停泊できる海面の確保に建設の主力が注がれた。その港湾建設は、海象や気象を予測できな
いなかでの壮絶な海との闘いの歴史であり、我が国港湾建設の源流に位置づけられる。
「およそ築港工事にして詳らかにこれを観察するときは、経営者もしくは施工者の苦心歴然たらざるものなく、その記録は一編の工事誌たるのみならずまた前人の業績を語るものたり」
廣井勇博士は自著『日本築港史』の緒言で、このように述べている。筆者はその名著に倣って、本書の第一章をまとめたつもりである。同時に、前著『シビルエンジニア 廣井勇の人と業績』においてほとんど触れることのできなかった、小樽築港以外の北海道における廣井勇の活動についても記述している。それによって、北海道開拓および我が国港湾建設における廣井博士の功績を明らかにした。先人の気概と苦心が読者に伝わることを切に願うものである。
こうして、近代築港によって人工の港ができ、海陸の交通の便が良くなると、人の往来と物貨の集散がますます頻繁になり、港町は発展を続ける。ペリー提督率いる合衆国艦隊から、イギリスの要塞都市ジブラルタルに似ているといわれた函館を始め、小樽、釧路、室蘭、網走、苫小牧の各都市における社会活動と都市の成長の歴史については、第2章以下にまとめた。
函館と小樽は、北海道開拓における海陸連絡の最重要拠点であった。函館は北海道の玄関口であり、昆布など水産物の集散地、また北洋漁業の根拠地として発展、一方の小樽は道内の農産物の集散地であるとともに道内金融の中心地に成長した。また、釧路は開拓の進展と交通の発展に伴い、函館の商業圏から脱して道東の中心都市に発展し、現在に至っている。室蘭は北海道炭礦鉄道によって石炭積出港として出発し、製鉄所と製鋼所の建設
によって産業基盤が築かれたことで、地元企業が勃興して発展してきた。網走は冬期に流氷に閉ざされるオホーツク海に面し、商港としてよりも避難港や漁港としての機能が期待される農業、牧畜の町でもあった。苫小牧は王子製紙の城下町として栄え、戦後は長年の宿望であった勇払原野の開発を、我が国初の大規模な掘込港湾建設による臨海工業地帯の成立と近代都市の形成によって達成した。
市街の拡張や港湾の整備に際して、三方を丘陵に囲まれているため防波堤に守られた貴重な水面の埋め立てに苦労した小樽と、地形に沿って外縁に拡張していった他の都市との対照。また、港を掘り込んで発生した膨大な土砂を湿地の埋め立てに利用し、近代港湾都市に変貌させた苫小牧など、筆者にとっても本書の執筆は港と町のありようを改めて見直す機会となった。
港町に暮らす方々はもちろん、港町とその文化に興味を持つ方々や港建設に携わる方々にご一読いただければ幸いである。(「はしがき」より)
関連リンク
上記内容は本書刊行時のものです。